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ルートヴィヒは、師の考えを見抜く。

「奴ら一体、どういうつもりだ? 町をうろついて、なんでそんなことをしてるんだ?」

                   

 副隊長は連中の意図がわからず、いらだたし気にがりがりと髪を掻いた。


「奴らきっと、この町で決着をつける気にしたんだ」


 ルートヴィヒは、副隊長の問いに答える。


 こちらは長く共に暮らし、そのそばで身を置いていたこともあって師を熟知している。師の考えなど直接話を聞かずとも、その行動さえ知れれば手に取るようにわかる。

 

 それだけに、師の考えを読んで云い当てた。


「決着? どういうことだ?」

                 

 副隊長がルートヴィヒに迫る。ルートヴィヒはその黒い艶やかな髪をかきあげてから、順を追って説明することにした。


「つい先日、おまえたちの隊長は我々死刑執行人の師に、部下になれと迫ったろう? それでおまえたちの隊長は師の怒りを勝ったのさ。元部下のくせに、そんななめたことを口走ったせいで師が殺意を抱くほどにね。

 それで俺たちは近日中に、おまえたちの隊長を狙うことにもなっていたんだよ」


 副隊長はルートヴィヒを見つめた。


 初代隊長が隊長に激怒し、殺意を示した件についてはこちらの隊長から聞いてはいる。

 そこでやられるまえに初代隊長を始末しようして、隊長が今回の襲撃を企てたことも。

 なので初代隊長がこちらの隊長を狙っていたと聞いたところで、いまさらとくになにも思いはしないが。


 そうした心情から副隊長は腕をくみ、ただうながした。


「ほーう。それで?」


「その矢先に、そちらが我々を襲撃した。その件をきっかけにして、死刑執行人たちとこの傭兵隊との戦いが開幕したということさ」


 ルートヴィヒは云う。


「ああ? だからなんで奴らが狙うんだよ? 俺たちや町の人間を」


 いまいち理解しきれなかった傭兵の一人が口を挟んで、反問する。


「奴らが隊長だけを狙うってんなら、話はわかるぜ。殺意だって隊長に抱いてるみてえだしよ。だったら奴らとしちゃ、隊長だけを狙えば済む話じゃねえか?

 なのにどうして奴らは隊長の下についている俺たちや、町の奴らを殺し回ってんだよ?」


 理解の悪い指摘に、ルートヴィヒは辛抱強く答える。

               

「いいかい? 死刑執行人を動かす権限があるのは、その首領である師だけだ。いまだって、死刑執行人たちは師の考えに沿って動いているはず。

 だからその師の考えを理解すれば、おのずと現在の死刑執行人の動向が見えてくる。奴らがいまなにをしようとしているのかがね」


 ルートヴィヒは、そう前置きをして説明を続ける。


「まずおまえたちの襲撃を受けて、師はおそらくそのときに確実に突き止めたはずだ。襲撃の首謀者は誰か。そいつがどこにいるのかを」


 師の好戦的な性格を考えてみれば、突き止めたのは確実だ。


「師は敵を赦さない。害を与えられれば、報復を目論む。そんな男だ。まして襲撃なんてされれば、報復のために、その首謀者の正体と居場所は突き止めようと必ずするに決まっている。襲撃者の口を割らせて。

 是非とも知りたいところだろうしね。報復するにも、その首謀者の正体と居場所を。首謀者に仇を為さなければ、報復にならないから」


「まあ、襲撃者の口を割らせるくらいのことは当然するか。

 それが、もっともてっとり早いだろうしな。襲撃を企てた黒幕がもしいるなら、その相手の情報を知るための方法としては。それで?」


 さきをうながす副隊長に、ルートヴィヒは答える。


「知りたい情報を入手した師は、灰色の狼の隊長が、死刑執行人を殺しにこの町へ出向いてきたことを知って目論んだんだろうさ。隊長の殺害を、この町で」

 

 ルートヴィヒの説明はまだ終わらない。なおも彼は口を動かす。


「と同時に、この傭兵隊そのものを壊滅させようとしているんだ」


「奴らは俺たち全員も、始末するつもりなのか?」


 傭兵の一人が口を挟む。


「傭兵隊の連中を殺し回っているっているんだから、そういうことだろうさ」


 ルートヴィヒは答えた。


「きっと、師は突き止めたんだろう。隊長が自らの手勢を使って、師たちを殺そうとしているって話も。それじゃ、師としては許せないだろう。こちらの隊長の走狗と成り下がって自分たちを狙う、その手下どもも。敵とみなして、全員を皆殺しにしてやろうと考えたんじゃないかな?

 隊長を殺すにも、その取り巻きどもがいれば邪魔になるだけだしね。隊長を殺すために邪魔だてするだろうその手勢も、排除してやろうっていう意図もあるんだろうさ」

            

 ざわざわと傭兵たちは話す。ふむ、と副隊長もつぶやく。


「で、その目的を達するにあたって、師はおまえたちと同じ方法を取ることにもしたんだと思う」


 ルートヴィヒはさらに指摘する。


「師だっていくら黒装束に身を包んでいても、傭兵たちを殺し回っているのは自分たちだといずれ誰かに気づかれることくらい承知しているはず。

 そこで正体がばれてもかまわないよう、奴ら以外のこの町にいるすべての者を皆殺しにする挙に出たんだろうさ。

 そうすれば、目撃者はいなくなる。

 この町でいかなる罪を犯そうとも、それについての証言を一切されずに済む。あとはほかに証拠を残さなければ、この町で罪をいくら犯そうとも問題ない。

 この町で犯した罪によって、国から裁かれることもない。この町で犯した罪の余波は連中にけっして及ばなくなる。連中にとって、好都合な状況になるわけだ。

 とすれば、自分たちの保身のためにもそういう選択をした方が得策。今回、師はそう判断したんだろうさ。

 なにせこの町は寂れているし、住民もすくない。しかも傭兵隊の連中も同じ考えから、この町にいる自分たち以外のすべての者を殺し回っているんだ。その手伝いをちょっとばかりすれば、なんら問題なく奴らもこの町にいる自分たち以外の者を皆殺しにできるわけだしね」


 ルートヴィヒは薄く笑む。


「しかもそれができるなら奴らにしてみれば、この町は隊長を始末するのにうってつけの舞台になる。なにをしても、自分たちに罪が及ばないというのならね。

 だから隊長がこの町にいるなら、いっそここで始末して決着をつけようとしたのさ。この町で決着をつける利点が、奴らにはあるわけだしね」

                 

 ふーむ、と副隊長は考え込み、傭兵たちもてんで勝手に、ルートヴィヒの話の感想をひそひそと互いに会話してもらす。そんな様相をよそに、ルートヴィヒは付けくわえる。 


「連中にとって、この町で決着をつける利点はまだあるよ。報復の対象である隊長が他の遠くの場所にいるなら、わざわざそこまで行かなきゃならないけどさ。同じ町にいるなら、そんな遠くへの移動の手間もはぶけるだろう?」


 ルートヴィヒは肩を軽くすくめる。 


「ほかには、師の愉しみのためということもあるかな? 師は嗜虐性が強すぎる男だから、そいつが疼いているのかもね。

 この町で決着をつけるなら、傭兵隊だけじゃなく、この町にいる人間すべてを殺せるしね。なるべく人を多く殺せるなら、ここで決着をつければ師にとって強すぎる嗜虐性を満たせることができて悦ばしいことだろうから」

                

 ルートヴィヒは最後に、こう締めくくった。


「まずもって、師の考えに沿って死刑執行人は動く。だからその考えを読めば、まあこんなところかな。連中がこの町で暗躍している理由は」


「連中が我々だけでなく、こちらと同じように町の人間をも殺し回っているのはそういうわけか」 


 やっと納得して副隊長がそうつぶやくと、ルートヴィヒは付けくわえる。


「師が、町にいる奴らすべての始末に乗り出したのもさ。そうしようとしている傭兵隊の策を聞いて、きっと思いついたのかもしれないね。そうすれば、自分たちに利点があることに気づいて」


「そうか」


 副隊長はつぶやくと、内心で感嘆する。


 たいしたものだ。この若僧。強いというだけではない。頭もこうも回るとは。いくら知っている奴のこととはいえ、こうも的確に相手の意図を洞察するとは。

 剣を交えたときに頭もいい奴だという思いを抱いたが、これほどどは。くわえて、こんな高雅な印象の凛然とした美貌まで持っている。

 智と武勇のみならず、美までも兼ね備えたこいつは、いずれはひとかどの人物になるのかもしれんな。その名を世に轟かせるような。いまは人々に知られてはいなくとも。

 

 副隊長はこうした感想を抱き、美貌の若者をみつめた。

 ルートヴィヒは優しく微笑んでいる。


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