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副隊長は嘆く。死刑執行人に対する、自分たちの見積もりは甘かった、と。

「喜ぶんだな。おまえの入隊は許された」


 ロレッタ・サンティ副隊長はそう告げた。教会の一室の壁に背もたれながら佇んでいた、ルートヴィヒに。 


「それは、ありがたいですね」


 副隊長の方へ顔をかたむけ、ルートヴィヒは唇に微笑を刻む。副隊長を通じて隊長から隊に入る許しを得るという、俺の目論みはうまく図に当たったようだ。

                  

「よかったな。入隊したいという、おまえの望みがかなって」


「そうですね」


 ルートヴィヒもやんわりと相槌を打つ。


 なんにせよ成功したのは喜ばしいことだ。


 ルートヴィヒは副隊長からもたらされたこの報に接し、胸を一応は撫でおろした。

                  

 もっとも入隊を許されはしたものの、気に入らない点もなくはない。

 

 それは隊長であるミゲールという男が、神を厚く信望するという点だ。

 そのことについては副隊長から聞いた。いまも礼拝堂にこもって、神に祈りを捧げているということも。ついさきほど、副隊長が隊長のもとへ行こうとする矢先に。

                  

 ルートヴィヒは心のなかで嘆息をつく。


 この時代、神を信じている奴はめずらしくもない。世間にありふれている。

 しかし正直、神を厚く信望しているという隊長のもとになどついて、このさきうまくやっていけるかどうか不安がある。

                 

 俺としては神に対し、強く嫌悪と憎しみを普段から覚えているというのに。

 こうして教会に入ることすら、神への抵抗感からなるべくなら避けたい。そのくらい、神を忌み嫌っているんだ。

 いまだって俺が忌み嫌う神を崇める教会などにわが身を置いて、ことのほか居心地が悪いくらいだ。

 隊長がここにいるというので、そのもとへ向かおうとしている副隊長について来ざるをえなかったが。

 

 ルートヴィヒは、ふうとちいさくため息をつく。

                  

 ともあれ、さきのことを心配してもはじまらない。いまのところこちらとしては、ミゲールという隊長もその指揮下にある傭兵隊も利用しなくてはならないんだ。

 まずは師やほかの弟子たちを血祭りにあげるために。この俺のためにね。

 である以上、いまはその下につくのも仕方ない。

                  

 納得すると、ルートヴィヒは軽く肩をすくめた。そのとき、部屋に一つだけある扉が外から叩かれた。途端に、その扉に向けて誰何の声が上がる。

 声を上げたのは、部屋のなかにいる傭兵の一人だった。

                  

 室内には現在、ルートヴィヒと副隊長のほかに四人の傭兵がいた。隊長の護衛としてついてきた二人。あとの二人は、さきほどルートヴィヒに叩き伏せられた、副隊長の護衛たちである。

                  

 隊長の護衛二人は、この教会の司祭を殺し、隊長が礼拝堂にこもってからはこれまでずっとここで待機していた。祈りを捧げる隊長の邪魔をしないよう、礼拝堂に足を踏み入れずに。

                  

 副隊長の護衛二人は、あらかじめ伝えられていた。

 守るべき相手である副隊長から。副隊長がここに戻ってくることを。

 ここで待っているよう、副隊長から指示されてもいた。それでこの部屋にいるというわけだった。

                  

 誰何のあと、扉のうしろから声が聞こえた。どうやら扉の向こうがわにいるのは、灰色の狼の傭兵の一人のようだった。報告があり、やってきたという。

                  

 副隊長が入れる許可を出したことで、その傭兵は部屋に通された。その後、さっそく報告を述べる。どうやら、宿に向かわせた隊の連中は全滅したという。

 

 宿に向かった連中がまるで帰って来ないので、不審に思った隊の者がその様子を見に行ったことで露見したようだ。

                  

 見てきた者の話によると、宿に向かわせた連中全員は屍になっていたが、死刑執行人どもの遺骸はなかったという。宿にもその姿は皆目見えなかったそうだ。

 そこまで報告を聞くと、副隊長はルートヴィヒに視線を送った。

                

「どうやら、おまえの元仲間は生き延びたようだな。おまえの考えどおりに。その骸もなく姿も見えないなら、死刑執行人どもは生き残ってどこかに消えたということだろ。奴らを殺すために宿に向かわせた、こちらの連中を皆殺しにして」


「ですね」


 ルートヴィヒが返事をする周りで、ざわめきが立った。騒いでいるのは傭兵たちだった。


「まさか奴らが生き延びれるとは。宿に向かわせた、こちらの連中を皆殺しにして」


「それほどの腕利きとは。正直、驚いたぞ」


「思ってなかったよな。奴らにそんな真似ができるほどの力があるとは」


 ひそひそと傭兵たちが話すなか、副隊長は思う。


 無理もない。こいつらがこう思うのも。死刑執行人どもなんて、軽く片づけられるという話をこいつらも隊長から聞かされているからな。

 

 副隊長は、表情を曇らせてつぶやく。


「やれやれ、やはり見誤っていたようだな。こちらとしては、奴らの力のほどを」

                 

「そうなんですかい?」


 副隊長の言葉を聞きつけた傭兵の一人が、そう尋ねる。副隊長は語気を強くして応じる。


「当初は俺もおまえら同様、死刑執行人どもを軽く片づけられると思っていたんだがな。だって、こっちは奴らの訓練を見た隊長から聞いてたんだぜ。俺らの隊の何割かを割けば、奴ら全員を始末できるって話を。だったら、普通はそう思うだろ」


 ですね、と傭兵の一人が相槌を打つ。副隊長は続ける。

                  

「まさか、こんな結果になっちまうとはよ。

 この町について隊長に隊の指揮を一任され、俺の判断で事を進めはじめたときには思ってもみなかったぜ。こっちは事を遺漏なく進めるために、もちろん死刑執行人を殺すことについてもそれなりに手を尽くしたってのによ」


 副隊長は舌打ちする。


「すこしばかりの兵を襲撃に差し向けたくらいじゃ、奴らは殺せねえかもしれねえだろ。いまの隊長より劣るとはいえ、むこうにゃ凄腕という噂の初代隊長もいることだしよ。

 その弟子どもにしたって、個の力を比べればこちらの手下は敵わねえって話だったしな。

 奴らの一人に対してこっちは複数でかかりゃ片づけられると隊長から聞いちゃいても、油断ならなそうだしよ。

 それでこっちは確実に奴らを始末するために、連中の泊まる宿に多数の兵を送りこんだんだ。隊長の云うことをきいて、こちらの兵の幾割かを割いて奴らを葬るに足ると思える兵力を。それも奴らの五倍ほどの兵どもを。

 いくら奴らが凄腕でも、それだけの兵を送り込めば、勝負は見えてるってもんだ。数で押せば勝てるって隊長から聞いてたが、俺にもそう思えたしな。

 数で勝ればこちらの兵が圧倒的に有利となって、多勢に無勢でらくらく連中ごときは始末できるって。

 なのに送り込んだ兵は皆殺しにされ、奴らを取り逃がすこんなまぬけな結果になっちまったとは。

 こっちは連中への対策をしっかり講じていたはずが、そのつもりになっていただけで、実際には不十分だったってわけだ。

 まったく、ちょっと連中をなめすぎてたかもしれねえな。俺もそうだがよ。隊長にしてもな」


 副隊長はため息をつく。


「そもそもが、こちらの隊の何割かを割けば奴らを始末できるって見込んだのは隊長だしな。

 まあだからといって、すべてが隊長のせいってわけじゃないが。こんなまぬけな事態をつくっちまったのは隊長だけでなく、俺にも責任があることだ。

 俺がもっと大量にこちらの手勢を、奴らの始末に回しときゃあよ。こんなことにはならずに、奴らを仕留められたかもしれねえんだ。奴らを仕留めるための、もっといい段取りを取りはからっときゃよかったんだ。こちらの望ましい方向へ事をとんとん拍子に運ぶために、俺も含めてまずは全員で奴らのもとへ赴くなりして。隊長にも教会へこもるなんてことをさせずに、お出まし願ってな。

 もちろん相当な腕前を誇るらしい奴らの強さを推し量るに、そうしたところで事が成功したとは限らんが。

 しかしより多くの兵で攻める以上、すくなくともいまの状況よりはうまくいってたかもしれん。

 だから俺の采配の悪さも、原因なんだろうがよ」

 

 不機嫌そうな表情をして、副隊長はルートヴィヒに顔を向ける。


「おまえから死刑執行人どもの腕が桁違いだとは聞いていたがな。そのことはもはや、いやでも認めざるをえんな。奴らの仲間だったおまえの腕の凄さを、さきほど目のまえで見せつけられたうえによ。

 いままた俺らの味方が易々とやられたっていう、こんな事実を突きつけられたとあっては」


 副隊長がそう云うと、ぼそぼそと傭兵たちが顔を見合わせて話しだす。

                  

「よお。死刑執行人から抜けて俺らの傭兵隊に入ったあの新参って、そんな強いのか?」


「ああ、俺らも軽くやられた」


「へええ。じゃあ、宿に向かった連中を皆殺しにしたのはよ。初代隊長の力のせいだけじゃないってことか」


「初代隊長って、元凄腕の傭兵だろ? その腕がいまも錆びついてなかったことで、こっちの仲間は皆殺しにされちまったのかと思ったがよ。その報せを聞いたときは。

 でもおまえらも新参に軽くやられたってことは、その弟子どももかなり強いってことか」

                    

 傭兵たちのひそひそ話をよそに、副隊長は嘆息をつく。

                

「まったく、本当に甘かったよ。こちらの奴らの力に対する見積もりは。隊長にしても、俺にしても見誤った。奴らの力のほどをもっと高く評価すべきだった。ことに俺が。奴らを葬るための陣頭指揮を任されたからには、隊長の話を真に受けたりせずにな」

                  

 副隊長は、手で額を包むようにして自省する。ルートヴィヒが嘆息混じりにつぶやく。


「いまさら、自分が犯した失敗の反省なんてしても仕方ないと思うけどね。むしろいまはそんな真似をするよりも、今後どう奴らを殺すかを図って失敗を取り繕うことを考えたら? その方が、前向きでいいと思うけど」


 そうだな、と副隊長はつぶやいた。新参の言はもっともだ。そう思ったので、さっそく話を転ずる。

 

「それで? 消えた連中はどこへ行ったんだ? 逃げたのか? それもわからないのか?」


 報告をもたらした傭兵に尋ねる。傭兵は答える。


「はあ。あいにくと、奴らがどこへ行ったかさっぱりでして」


「なら、報告はこれで終わりか?」


 副隊長が問い詰める。報告をもたらした傭兵は首を振る。

 いえ、まだあります。すぐに副隊長は、あるならはやく云え、とうながした。

 傭兵は、すみやかにその命令にしたがう。

                  

「どうも町中に、わが傭兵隊の者を殺し回っている連中がいるらしいんですが。そいつらは三人いて、みな躰に黒装束を着けている模様でして。

 ただ、その三人組はどこからあらわれたのかはわかりません。

 しかし、そいつらはみな相当な腕利きらしいです。易々と、こちらの傭兵を殺すところを目撃されていることからして」


 報告が終わると、ふたたび傭兵たちがざわつく。そのなかの一人が口に出す。それはつまり。そのとき首肯した副隊長が割り込み、代わりに答える。


「そうだ。そいつらはおそらく、死刑執行人たちだろ。今回わが隊に入った新参の、元仲間のな。

 まず間違いなかろう。黒装束に隠されているんじゃ、顔の確認はできないだろうが。

 消えた死刑執行人たちと数もあう。かなりの腕利きという点も同じだしな。ほかに考えられん。三人組で腕利きという点から推測するに、黒装束の該当者は」


「そうでしょうね」


 ルートヴィヒも同意する。その黒装束の連中は、俺以外の死刑執行人たちだろう。

 いま俺が抜けたことで、死刑執行人は三人。黒装束を身に着けている者も三人。

 その三人は腕利き。となると、やはりそう考えざるを得ない。

 あの三人が、朧としての暗躍を町で開始したということなのだろう。黒装束を着て、町を動き回っているということは。朧として暗躍するときには、黒装束を俺たちは身に着けるしね。

 傭兵の報告はまだ続く。

                  

「その連中のせいで、随分とわが隊に被害が出ているようです。のみならず、連中はついでに町の人間をも殺し回っているとのことです。わが隊がいま町でおこなっているように」

                  

 その報に接し、へえ、と美しい響きでルートヴィヒはつぶやいた。

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