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ルートヴィヒは副隊長とともに、隊長のもとへ向かう。

 じゃあ、とルートヴィヒがうながすと副隊長はうなずいた。


「俺としては、お前を仲間にくわえることは悪くないと思う。

 どうも、おまえを迎え入れた方が得策のようだしな。そうすることで、とくにこちらが損をするということもなさそうだし」


 副隊長はルートヴィヒをじっと見やりながら、こうも考える。

                  

 この若僧は、まだ若いのに腕もたつ。そのうえ、頭もなかなか切れるらしい。会話を交わしたことで、それがよくわかった。この投降を受け入れて拾ってやれば、それなりに役に立つだろう。

                  

 と同時に、ある懸念も頭に浮かぶ。


 もしあまりに役に立ちすぎるほどできる小僧なら、俺にとって危険な存在だと云えるが。役に立つことでいずれ隊長に見込まれて、こいつに副隊長の座をも奪われるかもしれぬゆえ。

                  

 副隊長は軽くかぶりを振り、その懸念を一笑に附した。


 隊に入ろうとしているばかりの男に、そんな心配をするのはまだ早すぎるだろう。

 それに相手は、まだガキだ。たしかに強いし頭も切れるが、年端のいかぬガキなぞ今後どうとでも懐柔できるだろう。せいぜいうまく扱って下に置き、おおいに利用してだ。不要になったり俺の害になれば、殺すなり捨ててやれば済むことだ。


 副隊長は、内心でそう考えていた。


 だが本当にこいつが、俺らの仲間になれるかどうかはまだ定かじゃない。それを決めるのは俺じゃないんでな。そのことを告げようとして、副隊長は口を開く。

                

「ただし、だ」


 副隊長は一旦言葉を切ってから、こう云う。


「こちらの仲間にくわえるかどうかは、俺が判断することじゃない。俺らの隊長がされることだ。隊長が拒絶したら、おまえは仲間に入れない。

 しかしおまえを仲間にくわえることは、俺も悪くないと思っている。だからその件については、俺としても助力を惜しまない。

 おまえを仲間にするよう、俺から隊長に口添えもしてやろう」


 やった。ルートヴィヒはほくそ笑む。


 隊長に対する副隊長の働きかけを得たいと俺は思っていたが、その目的はとりあえず成し遂げられたようだ。

                  

 内心で喜んだが、なにも云わずに副隊長の話をそのまま黙って彼は聞いていた。


「ただ、隊長は死刑執行人全員を始末しようとしているからな。あるいはおまえを仲間にすることを拒絶されるかもしれない。

 隊長が死刑執行人連中の師のみならず、おまえたち弟子どもまで始末しようとしているのはほかでもない。おまえたち弟子の報復を恐れてのことだ。師を殺しておいておまえらを生かしておいたら、敵討ちをされて自分の身に危険が迫るやもしれんからな。

 だがおまえは、ほかの死刑執行人どもを憎んでいるという。それなら師を殺したとしても、おまえは仕返しになど走るまい。ならおまえを仲間にすることを隊長が承認する可能性はおおいにある。

 が、それでも確実じゃない。もし隊長がなんらかの理由で駄目だといったらあきらめろ。いいな」

                 

「わかったよ」


 ルートヴィヒはつぶやく。

 この返答を受けても、べつに動揺はしない。傭兵隊に入れるか否かの最終判断は隊長次第なのは最初からわかっていたことだ。驚くには値しない。

 こちらとしてはその承認をとりつけられるようにするために、まずは副隊長を陥落しようとして近づいたのだ。

 それで副隊長を説得したわけだが、とりあえずいまやその目的は達せられたのだ。副隊長は陥とせた。望ましい結果は得られた。当面のところ、一応は満足すべきだろう。


 ルートヴィヒの唇には微笑が刻まれていた。

                 

「まあ駄目だったときは恨むなよな。さきに云っておくが、隊長の判断次第でやはりおまえを始末するということになってしまえばだ。おまえは捕らえられて始末されるかもしれんが、そのときには悪く思うな」


 そう云って副隊長は微笑する。ルートヴィヒは無言で軽く肩をすくめた。


 そのときはそのとき。なんとか逃げ切ってやるさ。もっとも始末なんてされずに、傭兵隊に入れることを期待するが。

 とはいえ、いくら副隊長の口添えを得られるからといって、もちろん期待通りにこちらが傭兵隊に入れるとは限らない。こちらとしては入りたいけれど。

 

 台無しにしたくないんでね。傭兵隊をうまく利用して動かし、奴らととともに戦ってほかの死刑執行人連中を葬ろうという今回の手を。

 傭兵隊に入り、以後自らの道が開けるかもしれないこの機会を。

                 

 今回、こちらはあいつらに公言したんだ。死刑執行人のあいつらを裏切るってね。

 なのに、そもそも傭兵隊に入れなければ今回の手は失敗だ。奴らにだってすぐ捕まって、そのもとに連れ戻されかねない。傭兵隊に入れずに、一人きりだと。

 

 けれどそうなれば、俺はろくでもない破目に陥ってしまう。


 裏切りの報酬に、一体どんな仕打ちをあいつらに受けるかわからない。


 だがあの隊長が俺を拒むなら仕方ない。俺の今回の目論見をくじかれることになるが、そのときにはなにかしらまた考えるまでだ。

 とにかくどうにかしてあの傭兵隊を利用して今回、師やほかの弟子二人を滅ぼすための妙手を。

 こちらの運命を切り開く道を。

 自分の身の安全のためにも、なんとかしないと。失敗なんて俺はしたくないから。

                 

 ルートヴィヒが、そう考えているときだった。さきほど、ルートヴィヒが落馬させた傭兵二人が馬に乗って追いついてきた。そのうちの一頭はルートヴィヒが宿から乗ってきた馬。もう一頭は、彼ら傭兵が元々乗っていた馬だった。

 落馬して体が回復して以降、その馬たちをそれぞれ捕らえて、彼らはここへやってきたという次第だった。

                 

 二人はルートヴィヒを見て敵意をむきだしにしたが、副隊長があいだに入って彼らに状況を説明したのでとりあえず争いは回避された。

 その後、副隊長は傭兵の一人に馬を譲らせる。ルートヴィヒを、隊長のもとに行く自分に同行させるために。

 

 副隊長としては、しばらく自分の近くにこの若僧がいてくれた方が都合がよかった。

 これから、この若僧を隊に入れるかどうかの結果報告を隊長にするつもりではある。それが済めば、隊長が望んだ場合には隊の新参であるとしてこの若僧の紹介をすぐおこなえるからだ。

                 

 ルートヴィヒは、譲られた馬の手綱を取った。

 譲った護衛は、自分とともにやってきた仲間がまたがる馬の後ろに乗った。

 ルートヴィヒも譲られた馬に乗ろうとする。その馬には見覚えがある。それもそのはず。彼が最初に乗って来た馬だった。

                 

 鐙に足をかけて馬にまたがったルートヴィヒを見ながら副隊長は尋ねる。


「ああ、そういえば、おまえの名は? 迂闊にも、まだ聞いていなかったな」


「ルートヴィヒ」


 そうとだけ、黒髪の若者は答える。


「それだけか。姓はないのか?」


「ただのルートヴィヒさ。姓はない。姓があるほど、俺は上等な生まれではないんでね」


 そうか、とつぶやいた副隊長はとくにそれ以上、彼の名に興味は示さなかった。片手を上げ、その場にいる全員に向けて命令を下す。

                

「よし。ではいくぞ。隊長のもとに。元々は隊長に報告するために馬を走らせていたんだし、新たにそちえらへ出向かなばならん所用もできたことだしな。

 このルートヴィヒという若僧の入隊の許しを、隊長から取り付けるという用がな」

                

 副隊長は馬を走らせる。

 

 玲瓏な掛け声を上げ、ルートヴィヒもあとに続いた。傭兵隊の二人が乗る馬とともに。


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