ルートヴィヒの売り込みは効を奏し、ついに。
副隊長に、ルートヴィヒは微笑する。
まずは自分を売り込んで、副隊長に認めさせてやる。傭兵隊に迎え入れる価値が、俺にはあるのだということを。
あの隊長への働きかけを副隊長にしてもらうことを望むなら、そうした方が都合がいい。認めれば、副隊長は俺を手に入れたいと望むだろう。俺を隊に入れるための働きかけも、あの隊長におのずからおこなうだろうしね。
「だがおまえ自身が、奴らに倒されて死ぬってこともあるんじゃないのか?
そんなに強い奴らと事を構えようとしている、俺らの仲間におまえが入るってんならよ。
それどころか俺らの仲間になるなら今後、戦場に出て斃れる恐れもあるぞ。それでもいいのか?」
「仲間にしてくれと頼む時点で、それは覚悟のうえさ」
ルートヴィヒは微笑して、さらに自分を売り込む。
「俺を仲間にすることは、いい話だと思うけどな。俺を味方に引き入れれば、死刑執行人と争うに際して連中を弱体化させられるのは確実だしね。
俺だって、ただでやられたりなんてしないから。今回奴らと事を構えて、もし倒されるなんてざまになったとしてもね。
そのときにはあいつらの誰かを死出の道連れに連れてってやるつもりだし、それができなくても連中の腕か足の一本くらいはもぎとってやる。
そうなればおまえたちにしても、あいつらを仕留めることがより容易くなるだろう?」
「ふむ。そこまでの覚悟を持っているのか」
副隊長はうなずくと、ルートヴィヒを眺めやって考え込む。
さて、どうするか? この若僧を仲間に引き入れるべきだろうか。
顎に片手をやると、その検討をしてみる。
「まあ、こちらとしてはおまえを仲間にすれば利点はあるな。
本来なら、こちらはおまえを含めて死刑執行人を四人片づけなければならん。
それが、おまえがこちらの味方につけば、今回こちらが片づけなければならない死刑執行人の数は当然一人減るわけだ。
その数は、もっと減らすこともできるかもしれんな。もしおまえが、ほかの死刑執行人どもを始末できたとしたら。そのぶんだけ、こちらは連中の始末が楽になるだろう」
副隊長は一息ついて、なおも続ける。
「よしんばおまえが奴らを誰一人片づけられなくとも、奴らを片付けるためのこちらの負担は減ることにはなろうな。
おまえには相当の剣の腕があるんだ。戦えば、おまえは奴らを弱められるかもしれん。
そうなればなったで、こちらとしてはおおいに助かるものな。
いずれにせよ、おまえが味方につけばより連中を始末しやすくなる。こちらの勝ち目は上がるわけだ」
「付けくわえれば、ほかにも利点はあるよ。俺を味方に迎えて失ったとしても、そちらは損をしないという利点がね」
ルートヴィヒは指摘する。
「俺は、もともとがおまえたちの仲間ではない。その俺が奴らにやられて死んだところで、そちらにとっては痛くもかゆくもないだろう?」
「こちらが始末しようとしていた人間が一人減るだけのことだからな」
ルートヴィヒの云う利点に納得し、副隊長は相好を崩す。
ルートヴィヒは傭兵隊に入るために副隊長の説得を続ける。
「それにもし今回の一件が終わって生き残っていれば、俺はそちらの役に立つはず。そこそこ剣が使えるし、その点を生かしてね。おまえたちは軍人なんだから、今後も戦場に出る暮らしを続けるんだろう? 腕の立つ味方がいた方が、ありがたいんじゃないのかな?」
そうだな、と副隊長は応じる。
たしかに腕が良い人間は、配下にいた方がありがたい。わが隊は今後、もっと躍進しなければならない。隊に属す我々の暮らしの、より一層の向上のためにも。
その目的を達するには、隊を躍進させるのに役立つ腕利きが一人でも多くいるに越したことはない。
しかもこいつの云う通り、今後もこちらは戦場暮らしが続く。
それならば、強い味方はいてくれた方がやはり助かる。強い味方がいれば、わが隊の者は俺も含めて戦場で生き残る確率が上がるだろうしな。
「たしかに悪い話ではないが。おまえを味方につけて取り込み、こちらの戦力の増強を図るのは」
副隊長はすこし迷いはしたもののわかっていた。利点を考えれば、ここはこの若僧を抱き込んだ方があきらかに得策だろう。
仲間に入れて腕利きの死刑執行人と対峙するべきなのだ。死刑執行人どもが相当に腕が立つというのなら。
同じ技量のその元仲間をくわえて奴らの相手をさせた方がどう考えても利口なやり方だ。
こいつを味方に引き込めば利点も多いしな。
すでに副隊長はその気になっていた。
ルートヴィヒにも相手から醸し出される雰囲気からしてそれがわかった。
その気になったのは、俺の説得も功を奏したのだろう。
だが、まだ決めかねているようだ。
そのこともわかった。
副隊長は眉を細め、疑わしい視線をルートヴィヒに向ける。
この若僧を迎えるのは悪くない手のように思えるが、そうするにあたって懸念がないわけでもない。
その視線の意味に、ルートヴィヒも気づく。ルートヴィヒは副隊長の思惑を読み、それを云い当てた。
「その目は、なにかの罠かもしれないと疑っているんだね? この俺の投降が」
副隊長は目を丸くし、しげしげとルートヴィヒを見つめながら、よくわかったなという顔をした。
頭の巡りが良く、勘の鋭い奴だと思いつつ返答する。
「そういうことだ。こちらは、お前たち死刑執行人どもと敵対している。その投降が我々の傭兵隊を陥れる、奴ら側のなにかしらの罠ではないとは云い切れまい?」
この言葉を聞き、ルートヴィヒは嗤った。最初は物柔らかに低く。次第に嗤い声の調子をさらに上げて、最後は高らかに。ひとしきり夜の闇に玲瓏な響きを繊細に刻んでから笑みを収めると、ルートヴィヒは優しげに云った。
「もしそちらの傭兵隊に、罠を仕掛けるつもりだったらさ。とっくに、おまえを殺しているよ」
ルートヴィヒは冷ややかな笑みを唇に乗せる。
「おまえは傭兵隊の副隊長だろう? 隊長に次ぐ地位にいるんだ。それなりに賢しいはず。
罠を見破る可能性の高い人間だと云える。
本当に罠を張るつもりなら、おまえみたいな奴はいない方がこちらにとって都合がいいに決まっているんだ。
でも、俺はおまえを生かしておいてやっている。
殺そうと思えば、いつでもできる状況下にあるのにね。その理由を考えて欲しいな。
おまえを殺さずに生かしているということ自体、こちらに罠を張るつもりなんてないと示すいい証拠になっていると思わないかい?」
副隊長はうなった。
云われてみれば、そう思えなくもない。
もしなにかしらの罠を張るつもりなら、こいつとしては俺がいると困るわけだ。とっとと俺を消した方が都合がいいのは確かだろう。
しかし、こいつはそうしようとはしない。俺を生かしている。それはつまり、罠を張るつもりなど最初からないということになるか。
だが、そう考えるのは早計かも。
副隊長はなおも迷い、ルートヴィヒに疑いのまなざしを注ぐ。その視線から、副隊長の胸中を洞察したルートヴィヒはくすりと嗤う。
「どうやら、まだ疑っているようだね。俺の投降が罠かもしれないって。でも本当におまえが聡い人間なら、それが罠ではないとわかるはず。あくまで罠と疑うのは、深読みのしすぎだと思うよ」
「かもしれんな」
副隊長はため息をついた。
すこし疑いすぎか。どうやら目のまえの若い男の云い分の正しさは、認めざるを得ないようだ。目のまえの男のこの投降が罠であると云い切れるだけの理由も思いつけない。
どうやらこの男の投降は本心からであり、偽りはなさそうだ。なら、この男を疑う必要はもうないだろう。
副隊長はようやく心を決めた。
「わかった。おまえを信じよう」




