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ルートヴィヒは、傭兵隊に入ろうとして副隊長に。

 副隊長は、じろっと睨んだ。目のまえに立つ、この若僧を。

                 

 と同時に、疑問も湧き出てくる。

 一体、こいつはなんの話をする気なんだ?

 それに、この野郎は何者なんだ? まだ若僧なのに剣も強いし、その正体が気になる。


 その疑問を解消させるために、副隊長は最初にこう尋ねてみる。


「まずは教えろ。一体、おまえは誰なんだよ」


「死刑執行人さ。おまえたちが殺したがっていたね」


ルートヴィヒは微笑した。副隊長が目を見開く。


「死刑執行人だと? あの宿に泊まっていた奴らの一人か? おまえは」


 無言でルートヴィヒがうなずくと、副隊長は舌打ちする。


「ちっ、まったく役立たずだな。あの宿に残してきた手下どもは。死刑執行人を始末しろと云っておいたってのによ。こうしてその一人がここに来るってんなら、とり逃がしたってことだもんな」


 副隊長は立ち上がると、問いかける。


「宿から逃げ出した死刑執行人は、おまえ一人か? 宿の襲撃を命じておいた俺の手下は、おまえのほかの仲間を始末したのか?」


「さあね。知らないけど。最後まで、その場にいたわけじゃないから。

 でも、やられていないと思うよ。ほかの死刑執行人たちは。そう簡単に、くたばるような連中じゃないしね。

 あんな程度の数の単なる傭兵なんかにやられるほど、あいつらはやわでもないし」


 師たちの強さを身をもって知っているルートヴィヒはそう答えた。

 副隊長は首をひねる。


「死刑執行人どもが手強いことはわかる。初代隊長の強さも、その弟子たちの腕のほども耳に入っているしな。初代隊長をよく知り、おまえたちの訓練も見た隊長から。

 なのでこちらも隊の腕利きどもを集め、結構な戦力を送ったんだぞ。それでもか?」

                

 無言でルートヴィヒはうなずく。副隊長は眉をひそめる。


「おまえの話はにわかには、信じがたいが。こっちは隊長から聞いてもいるしな。連中はこちらが殺せない相手じゃないとも」


「へえ。殺せない相手じゃない、ね」


 ルートヴィヒは唇を歪めて冷笑する。

 その屈折した態度が、副隊長の癇に障らないでもなかった。

 が、なにも云い返せない。たしかにそうもやすやすと対抗できる相手じゃないということは、いましがた思い知ったばかりだ。事実、敵わなかったのだから。この目のまえの死刑執行人の一人である男に手を出したところで。


 舌打ちしてから、副隊長は話を転ずる。 

     

「で? 死刑執行人の一人が、俺を追いかけてきたってことはだ。俺を殺すのが目的じゃないとすると、自分たちを襲ったことについて苦情でも云いにきたのか? 

 宿を襲っておまえたち全員を殺すよう指揮したのはこの俺だしな」

                

「いいや、ちがう。そんなことのためじゃない」


 ルートヴィヒが首を振る。副隊長は訝し気な顔をした。


「じゃあ、なんのために追いかけてきた?」


「おまえたちの仲間に、くわわりたいからさ」


 ルートヴィヒは、傭兵隊に入るための交渉を開始した。


「仲間に? なぜ?」


「死刑執行人としては、もう生きていきたくないんでね。それで傭兵にでもなろうと思ったのさ。手柄を立てれば、出世も望めるしね。いれてくれるかい?

 その稼業は俺にも務まるとは思うよ。戦いの訓練はされていて、そちらも当にご存知の通り剣も使えるしね」


「死刑執行人から鞍替えしたいというのは納得したが、わからんことがあるな。ほかにも傭兵隊など、いくらでもあるだろうに。なんで、おれたちの隊に入ることを望む?」


「そちらが死刑執行人を全員殺そうとしているからだよ。俺もそうなんだ。俺以外の、ほかの死刑執行人どもを殺したい。その手伝いをしたいとも思ったからさ」

                  

 ほう、とつぶやくと副隊長は問いただす。


「なんで、ほかの死刑執行人を殺したいんだ?」

               

「簡単な理由さ。奴らが憎いからだ。俺はこれまで随分と、奴らに虐げられていてね。その仕返しがしたいんだ」


 ルートヴィヒの告白を、ふむと副隊長はつぶやくとさらに相手の言葉を聞く。


「でも俺一人じゃ、力不足で奴らは殺せない。

 だから、おまえたちの仲間になろうと思ったのさ。

 

 そちらの隊に俺もくわわってお互いに協力しあった方が、奴らを始末できる確率がより上がるわけだしね。おまえたちや俺が、奴らを個別に狙うよりも」


「なるほど。こちらの力を利用して、より確実に憎い連中を殺そうという算段か」


 副隊長がそう指摘すると、ルートヴィヒは無言でうなずいた。


「おまえは腕が立つ。そこそこ強いこの俺をも倒せるんだ。傭兵として、戦場働きもできるだろう。隊に迎え入れれば、役に立たんということはないだろうが」


 副隊長は腕を組んで吟味する風情を見せてから、ルートヴィヒに尋ねる。


「おまえはそんなに強いというのに、一人では奴らを始末できないのか? なおこちらを利用したくなるほどに、死刑執行人どもは腕が立つのか?」


 ああ。ルートヴィヒは答える。


「死刑執行人どもの剣の腕のほどは、相当に熟達しているというわけだ」


 副隊長は表情を曇らせた。ルートヴィヒは微笑する。


「そんな連中におまえたちは手出しして、敵に回そうとしているんだ。どうだい? あらためて事実を知って。その表情から察するに、怖くなったかい?」

                     

 一瞬、副隊長も気が沈鬱になりはした。


 この話は本当だろうか? でまかせだろうか? 

 

 副隊長は訝ったが、微かに首を振る。


 いや、一概に、でまかせとは云い切れそうもない。

 実際に目の前のこの若僧が、俺を軽く倒せるほどに強いのだから。副隊長は、じろりと相手をにらむ。


「その話が本当なら、たしかに恐るべき相手だとは思うが。

 しかしだな。我が傭兵隊が奴らの始末に乗り出したのも、隊長がご判断されたからだ。奴らと事を構えても、勝利は間違いないと。

 その判断は、俺も間違っていないと思っている。だからこそ、俺もその始末に反対しなかったんだ。

 その考えは、いまも変わらん。奴らを敵に回したところで、どうということもない。そう思っている。

 それとも違うというのか。その考えが間違っていて、奴らと戦えばじつは俺たちが敗れるとでも?」

                  

「ああ。このまま戦えば、逆にそちらがあいつらに全滅させられるかもしれないよ」


 ルートヴィヒは冷笑する。副隊長は、意外そうな顔をして問い返す。


「全滅? なにをいう。こちらの隊長はご判断されたのだぞ。おまえら死刑執行人ごときは、わが隊の全員でかからずとも、その一部を割けば葬れるとも。なのに隊の全員で当たったとしても、こちらは奴らにしてやられるというのか?」


「隊の一部だけで、死刑執行人を葬れるだって?」


 副隊長の科白を耳に止めて、ルートヴィヒはせせら嗤った。


「面白い。その見立ては甘々だ。間違っているよ。いまのままじゃたとえそちらが全員で襲いかかったところで、死刑執行人がわに敵うはずがないのに。隊の全員が皆殺しにされるのは請け合いなのに」


 ルートヴィヒの笑みは夜の闇に高らかに響き渡る。副隊長は嘲笑されて不快だったが、怒りはしなかった。怒りよりも驚きが、さきに立ったのだ。

                  

「奴らは、それほどに強いと?」


 副隊長は息を呑む。


 強いとは聞いているが、そこまで凄まじいのか。


 嗤い収めたルートヴィヒはうなずいた。

                  

「桁違いだと思うよ。そちらがまるで相手にならないくらいにね。だからここは、すこしでも補強しておいた方がいいんじゃないのかな? あちらの力のほどを考えれば、おまえたちの戦力を。お前たちが勝って生き残るためにも、腕利きを仲間に入れでもして」 

      

「つまりは、おまえをか」

                 

 目の前の若僧が自分を売り込んでいることを察し、副隊長は苦笑する。

                  



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