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ルートヴィヒは、副隊長の二人の護衛と対する。

 季節は確実に、秋から冬に向かっているのだろう。

 前へすすむたびにまとわりつく夜の空気は、身を裂くように冷たい。

 

 その夜気は頬を切って耳に伝わり、背へと流れる。その流れはまだ終わらない。長く伸びる艶やかなルートヴィヒの黒髪をも細やかに砕き、さらさらとうしろへなびかせていく。

                 

 師やほかの弟子たちが宿で傭兵どもと争っているあいだ、ルートヴィヒは馬を走らせ続けていた。


 宿を襲撃しに来た傭兵の馬を一頭奪い、その鞍にまたがってからずっと追いかけていたのだ。宿から去った副隊長のあとを。

                 

 すぐには副隊長に追いつけなかった。副隊長が向かったと思われる方角をたどっていっても出遅れて馬を走らせたぶん、なかなかふたたび巡り会えなかった。

                 

 それでもあきらめず、必ず見つけてやろうと夜陰のなかをしばらく疾駆していたら、ようやくルートヴィヒにも見えてきた。

 月の光に照らされて、馬に乗る男のうしろ姿が。

 それにやや遅れ、男のやや後方の左右で並走する二人の傭兵たちの姿も。

                 

 顔は見えないが、うしろ姿だけでもわかる。さきほど見たから間違いない。その男はまぎれもなく、こちらが追っていた副隊長だろう。

                 

 さて、どうする?

 まずあの副隊長と話をつけようとして、やっと追いついたのはいいけれど。

                 

 馬を走らせながら、ルートヴィヒは考えた。


 とりあえず、そばに寄ってみるか。とにかく近くに行かなきゃ、話もできないしね。

                 

 ルートヴィヒは、両手に握る手綱をしならせる。馬の速度がもう一段上がった。副隊長との間の距離は徐々に縮まっていく。

                 

 ただ前方を行く者たちも、さほど鈍感ではない。彼らも追跡者がいることに気づく。


「あとを追いかけてくる奴がいるな。それも味方じゃないようだ。あんな奴、見たことがないしな」


 馬を走らせながら顔をうしろへ振り向かせて、副隊長はそうつぶやいた。


「何が目的で、追いかけてくるんでしょうかね?」


 副隊長の横で並走する傭兵の一人が上官にそう問いかける。


「さてな。だがどうせ、この町にいる奴らは皆殺しにする予定なんだ。おまえら、あいつを始末してこい。二人でかかれば、手っ取り早く始末できるだろ」


 副隊長からの指図を受けて、その左右の傭兵たちはうなずいた。


 傭兵たちは剣を抜き、同時に馬の速度を落としはじめる。背後から迫ってくる者を待って、斬り殺すために。

   

 その意図に、ルートヴィヒも敏感に気づく。

                  

 副隊長のそばにいるあの二人。剣を抜いて速度を落としながらこちらに近づいてくるということは、どうやらこちらを始末する気か。でも、あの二人を殺すわけにはいかないな。

                  

 俺はあの傭兵隊の奴らと手を組むつもりなんだから。

 あの副隊長を通して、傭兵隊の隊長に俺を仲間にするよう働きかけてもらいたいんだ。

                  

 にもかかわらず、それにさきだってその仲間を殺したとあってはまず引き受けてはくれまい。あの副隊長も、こちらが望むそうした働きかけなどは。

 俺に憎悪や反感を持つだろうし、副隊長自身も気が進まなくなるだろうから。俺を仲間にするだなんて。

                  

 そうなると副隊長による隊長への働きかけで、奴らの仲間になるという俺の目論みも潰えることになってしまう。

                  

 かといって、こちらに危害をくわえようとしているあの二人を放置することもできない。いまのところ、あの二人は邪魔だ。襲ってこられては、あの副隊長とゆっくり話もできない。

                  

 ルートヴィヒはため息をつく。仕方ない。ここは手加減して奴らを殺さず、なんとかこの場から排除するか。それから副隊長に近づき、話すことにしよう。

                  

 そう思惑を固めると、ルートヴィヒも腰から剣をすらりと引き抜く。

 そのルートヴィヒの剣は、刀だった。扱いやすいことで、彼は細身の刀を好んで使っていた。


 そのうちに傭兵の二人は自ら速度を落としたことで、するするとルートヴィヒに近づいてくる。

 かたやルートヴィヒは速度を下げなかったために、やがて傭兵たちとの距離は詰まる。

                  

 傭兵たちとルートヴィヒの位置が、ほぼ重なりあう。

 

 そのときを狙い、傭兵の一人が剣を横薙ぎに勢いよく振り回した。ややうしろにいるルートヴィヒ目がけて。

 

 高らかな金属音が夜陰に響く。

 

 傭兵の斬撃を、ルートヴィヒは自身の剣で受け止めていた。

 

 続けざまに、もう一人の傭兵がルートヴィヒの真横から剣を突く。ルートヴィヒの脇腹を狙って。

 その突きも手早く剣を戻して薙ぎ払うと、ルートヴィヒは反撃に転じた。

                  

 自身の乗馬の鞍に片足をかけて、跳躍する。横を走る、突きを放った傭兵の馬を目がけて。


 次の瞬間、見事にその傭兵の背後に飛び移る。間を置かず傭兵の頬に向け、その背後から強烈な肘撃ちをお見舞いする。

 

 その衝撃で、悲痛な叫びを上げながら肘撃ちをくらった傭兵は落馬した。

 

 かたやルートヴィヒは手綱を握り、そのまま馬を走らせる。


 道に転がった傭兵は待て、と怒鳴るが、肘撃ちと落馬による苦痛で躰が動かない。哀れにも置いて行かれてしまうこととなった。

                  

 残るは一人。

 

 ルートヴィヒは馬腹を蹴り、副隊長を見失わないように速度を上げる。

 

 いま一人の傭兵をすぐにでも始末したいところだが。


 ルートヴィヒは眉を寄せて前方を見る。


 ふたたび両者のあいだには、距離の差ができていた。さきほどの傭兵を始末することに、ルートヴィヒがやや時間を割いているうちに。

                  

 両者に距離の差ができていたのは、この時点に至るまでにいま一人の傭兵が思い直していたからである。副隊長を守るという、その護衛としての自身の使命を。

                  

 その使命を果たすためには、副隊長のそばから離れすぎるのはまずいと考えたのだ。

 

 もしこの追跡者に仲間がいたら、守るべき副隊長の身が危険にされされかねない。

 

 その点に思いが至り、残った傭兵はルートヴィヒの横に一旦は来たものの副隊長のもとへ戻るべく、ふたたび自らの馬をまえにすすめたのだ。命じられた追跡者の始末よりも、副隊長の身の安全を優先して。

 それで仲間の戦況が気になり、後方を振り返りながら敵との一騎打ちを見守りはしていたが、いままでルートヴィヒに襲い掛かってこなかったのだ。

 仲間もそこそこの腕なので一人でも大丈夫かと思って任せたという面もあったが、あいにくと彼の見込みちがいに終わってしまった。あっという間に、仲間は敵に蹴散らされてしまった。

                  

 残りの護衛は、舌打ちを一つする。


 仲間がやられたからには、追跡者はこちらへ向かってくるだろう。

 なにかしら目的があって、これまで追跡してきたのだから当然だ。こうなっては仕方がない。副隊長の身を守るために、あの追跡者とふたたび斬りあわねばならない。

 追跡者を放っておけば、副隊長にだって危害をくわえられるかもしれないのだから。

 

 その護衛は、とりあえず待った。まもなくはじまるであろう、そのときを。

                  

 やがてルートヴィヒが、その傭兵にとうとう追いついた。彼らはふたたび横並びとなる。

                  

 ついさきほどまで、距離が開いていたその二人の前後には最初にルートヴィヒが乗っていた馬が挟まれていた。

 彼が最初に始末した傭兵の馬に飛び移って以降も勝手に走っていたのだが、その姿はもう見えない。

 操る者がいなくなってから、その馬は自然と速度を徐々に落としていた。

 ついにはルートヴィヒともう一人の護衛が乗る馬たちについてこなくなってしまい、いつしか距離が開いて夜の闇に姿を消していた。

                  

 そんなことは気にも留めずに馬を走らせながら、護衛の傭兵は勝負の幕を上げる。

 近づいてきた敵に対して先手必勝とばかりに、自分から仕掛けた。手に持つ剣を袈裟斬りにし、斬撃を繰り出す。追いついてきたルートヴィヒの首を、斬り飛ばそうとして。

                  

 ふたたび金属音が鳴り響く。ルートヴィヒはその斬撃を、剣でやすやすと受け止めていた。

 このときに傭兵の胴もがら空きになってしまう。

 

 その隙を見逃すルートヴィヒではなかった。

 

 がら空きの胴に、蹴りを思い切り突き出す。

 真横にいた護衛は、その蹴りをもろに喰らってしまった。

 苦痛の叫びとともに馬から突き落とされ、傭兵は痛々しくあぜ道を転がった。ひとしきり転がってその勢いが止まると、傭兵はしつこくあとを追おうとする。道に仰向けになっている身を起こそうとするものの、あいにく苦痛があまりにひどかった。

 結局は躰をよじることしかできず、その場から動けなかった。


「これでよし」


 馬上でうしろを振り返りながら、ルートヴィヒは笑みをこぼした。

 

 二人の護衛をそれぞれの馬から突き飛ばしたあと、その様子は目で追って確認している。落馬させたあと動いていたことから見ても、おそらく二人の命に別条はないだろう。

                  

 でも落馬後には、さすがに二人の護衛も痛手を負ったようだ。すぐに追ってこられては困るので、そこそこ強い攻撃をくわえてやりもした。さらにはかなりの速度で走る馬から、突き落としもしてやったんだ。 

 

 あの様子では、しばらくはろくに動けまい。すぐに、こちらに追いついてくるということはないだろう。

 

 ルートヴィヒは満足を覚えた。


 ともあれ狙い通り、二人の邪魔者を殺さずに排除できたようだ。

 これであの傭兵たちはこちらが副隊長と話しているときに、しゃしゃり出てくることはあるまい。

 あとは、前方を走る副隊長に追いつくだけだ。


 ルートヴィヒは刀剣を腰の鞘に納め、手綱を鞭打つようにしならせる。馬はいなないて地を強く蹴りつけた。

 その衝撃で飛んだ砂塵が煌々とした月光で宙に映え、馬の速度はさらにあがった。



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