傭兵隊長は、死刑執行人たちの殺害を企てる。
「話は終わった。もうここにいても仕方ない。我々も行くぞ」
外に出たあと、ミゲールは配下の二人にそう声をかける。
ミゲールが振り返らず死刑執行人の家をあとにすると、その連れの二人も王都のなかを歩きはじめる。
その最中に、まえを進むミゲールの背に向けて、連れの頭がはげた一人が口を開く。
「あんな調子じゃ、絶対に仕えねえでしょうなぁ。初代隊長は、リネイラ隊長に」
「だな。説得すりゃ、なんとかなるかなって思っていたがよ。人に蔑まれる卑しい死刑執行人よりも、傭兵の方が立場的にいいだろうから、むこうもこちらの話に応じると踏んでな。だがそいつは、ちと甘い考えだったようだ」
ミゲールは舌打ちする。そのあいだも歩を止めない。
「俺としては、どうしても仕えさせたかったんだが。あのグローの奴を。部下にすりゃ、俺らの力になるに決まっているからな。俺らがのし上がるにゃ、必要な奴だと思うしよ」
「初代隊長にゃ、そんなにすごい力があるんで?」
「ああ。傭兵としては、ずば抜けているよ」
傭兵時代のベルモンを知るミゲールは、そう答えた。そのベルモンに、髭をはやした部下が尋ねる。
「けどやっぱ、隊長の方が優れてるんでしょ?」
「当然だ。いまはな。そりゃ、昔は奴の方が上だったよ。だが奴も傭兵暮らしから離れて久しい。長いあいだ現役を離れていりゃあよ。腕を落とすことも免れられねえだろ。現実にあの野郎は、現役時代より力を若干ながら落としているようだ。ひどく落魄したというほどに衰えちゃいないがよ。いまじゃどうやら、多少なりともその腕のほどをさび付かせてやがるみてえだ。先ほど奴らの訓練を見せてもらったが、その手並みからしてそう思えたしよ。まあ無理もねえがな」
ミゲールは薄く嗤う。
「この俺の見立ては、まず間違っちゃいまい。訓練とはいえ、あの家であいつは弟子と結構激しくやりあってやがった。その激しさからしても本気か、それに近い実力を見せていたと思うしな。実際にこの目で見て受けた感じじゃ、奴の現在の腕前はそんなところだろう」
歩みながらミゲールは肩をすくめる。
「とはいえ訓練の動きからしても、剣士としてかなり高い腕前を持っていることは疑いない。
あいつは俺を殺すなどと、のたまってもいたろう? そいつも、そのいい証拠だ。そんなことは、そうそう云えまい。相当に、自分の腕前に自信を持っていなけりゃ。
訓練でも、実際にいい動きを見せていたしよ。自信たっぷりなうえに動きも悪くないってんじゃ、いまでも充分にできるだろうよ。戦場で剣を振るって、傭兵としてかなり優れた働きを。きっと、あのグローの奴は。そのくらいの力は、いまなお保っているとみたぜ」
ベルモンが目の前にいない状況でまで、礼を守る必要もない。ミゲールはベルモンを姓名で呼び捨てにした。
「けどその一方で、俺はずっと傭兵として鉄火場を渡り歩いてきた。奴が戦場を離れているあいだにもな。危険を潜り抜けて、ずっと自分の力を磨いてきたんだ。すでに俺は、全盛期のあいつを越えたと思っている。
だから、いまでは俺の方が力は上だろうよ。当然だが、その力が現役時代より衰えているであろう、いまのあいつにはむろんのことだけどよ。よしんばあいつが全盛時の力を維持していたとしても、いまの俺なら勝てるだろうさ。その自信はある」
「おお、さすが隊長」
まあな、とミゲールが微笑すると、頭のはげた連れが提案をする。ミゲールの背に向けて。
「隊長は、初代隊長を仕えさせたいんでしょ? だったら、力づくで屈服させるってのはどうです? 隊長の方が力が上だってんなら、そうするのもたやすいでしょうし」
「そりゃ、俺も考えたよ。口で丸め込むのが無理なら、力づくで云うことを聞かせてやろうかってな。いまの俺なら、できると思うしよ」
歩きながらも後ろを振り向いて、ミゲールは答える。
「けど、途中で思い直したんだ。やっぱ、力づくで仕えさせるってのは無理だなって。云いやがったろう? あいつ。死んだって、俺に仕えたくないってことまで。そんときにな。
そうまで云うからには、断固として拒絶するだろうよ。何があろうと俺に仕えることは。昔から云いだしたら、聞かない奴だったしな。その性格も変わっちゃいまい。
話したかんじでは、昔どおりの奴だったしよ」
ミゲールは軽く嘆息をついた。
「ああまで拒絶されてりゃ、部下にするのはあきらめるしかないだろうよ」
やや長めの焦げ茶色の髪をいらだたしげに右手でかきむしると、ミゲールは毒づいた。
「くそ、部下にするつもりが、グローの奴の怒りを買って命を狙われる展開になっちまうとはな。失敗したぜ。まったく、厄介なことになった」
「初代隊長は、本当にリネイラ隊長の命を狙ってきますかね?」
そう尋ねるひげのはえた部下に、ミゲールはうなずく。
「来ない道理があるまい。
あの野郎は、いまもそれなりに剣士としての力を保っていやがる。その腕前への自信も、たっぷり持てるほどに。実際、この俺のいまの実力を知らねえから、てめえの方が腕前が未だにうえだと野郎は勘違いしてるみてえだしな。この俺を見下せるくらいに。
そこそこ腕の立つ弟子どもも、従えていやがる。
戦う力は、奴には一応あるんだ。あまつさえ、あの野郎は俺を殺すって息巻いてやがった。あいつは誰かを殺すって云ったら、本気でその命を奪いにくる男だ。それに、怒らしちまったようだしな。俺は、どうやらグローの奴を。
あいつは自分を心底怒らした奴には、仕返しをしっかりとする野郎でもある。とすると、やっぱり本気で俺を殺しに来るだろうよ。性格も昔通りだってんなら。自信たっぷりの腕前と、強い味方を頼りにしてな」
ミゲールは街の路地に、ぺっと唾を吐き捨てた。
「じゃあ、どう対処しやす?」
はげた部下が問うと、ミゲールはふいに立ち止まって考え込む。顎先を指でつまんで、目をぎらつかせる。
「こうなりゃ、こっちが先手を打つか」
ミゲールは部下たちの方へ振り返った。
「もうどうせ、俺に仕えることがないってんならよ。これ以上、グローの奴を生かしとく理由もねえ。いっそ、グローの奴を殺しちまおう。殺られるまえに、奴を襲って」
まだ街はずれを出ておらず、ここは王都のなかでもさびれた場所で周囲には誰もいない。なにを話そうと、誰に聞かれる恐れもない。安心して、ミゲールは物騒な話を口にした。
「殺るんですかい?」
はげた部下の問いに対し、ミゲールは首肯する。
「仮に殺るとして、できやすかね? 相手はもと凄腕の傭兵たる、初代隊長なんですが。その弟子どもも、そこそこ強いと隊長もおっしゃってましたし」
「楽勝だろ」
微笑すると、ミゲールは説明をはじめる。
ミゲールは、二人の部下を見る。
「とりあえずグローの奴の手勢は、どれくらいだと思う? さっき聞いた話じゃ、弟子は三人らしいからな。俺としては、その手勢は四人だと思うが。弟子どもと、グロー自身をあわせて。奴は、たかが一介の死刑執行人だ。そんな身分では、ほかに多くの手勢なんて持ってないと思うしよ」
「たぶん、そうだと思いますぜ」
ひげをはやす男が云うと、はげた部下が付け足す。
「確証はありやせんが、相手は偉え身分の奴じゃない。死刑執行人っていう、低い身分にある野郎ですから。立場上、そんなにたくさんの部下を持てるわきゃありませんし」
「ということはだ。グローと俺の手勢を比べた場合、数に於いてこちらは上回るわけだ。こっちの手勢は、俺を含めて八十名ほどはいるからな」
ミゲールは続ける。
「もちろん、死刑執行人の奴らは腕利きだ。さっきの訓練での動きを見た限りじゃ、そう思う。
その評価は動きやしねえ。ことにグローの奴は衰えたとはいえ、未だ剣士として別格の力をもっていやがんだ。なので、こっちの手下のなかにゃグローに敵う野郎はいねえけどよ。こっちの手勢もみな手練れぞろいだとはいえな。
しかし奴の弟子と、こちらの手下を比べりゃどうだ?
そりゃ、あの弟子どもの動きはそこそこのもんだ。悪くなかったよ。だが恐れるほどでもねえ。
まあ、こちらの手下よりあの弟子どもの力の方が上回りはするけどな。さっきの訓練での動きを見る限りじゃ。あちらの弟子と俺の手下。お互いの個人としての力を比べれば。一対一なら、あちらの弟子に俺の手下は敵わねえ。
俺の手下が一人で立ち向かったところで、あちらの弟子にやられちまうだけだろう。
それにしたって、俺の手下連中の腕前のほども悪くねえ。複数でかかりゃ、あの弟子の一人を殺すくらい造作もねえだろう。みな熟練の傭兵たちで、歴戦の猛者ばかりだからな」
はい。二人の部下は、にやにやと笑んだ。熟練の傭兵という誇りを鼻にかけて。ミゲールはなおも云う。
「グローの奴にしてもよ。あいつは別格とはいえ、俺と比べたら劣るのはどちらだ? そりゃ、奴さ。さっき云ったとおりにな。
死刑執行人どもと、わが傭兵隊。互いの集団の首領同士の力についちゃ、昔はどうあれ、いまとなってはこっちの方がうえなんだ。
ただ奴の腕は、多少なりとも衰えたりとはいえどもよ。依然として高い技量が維持されてるんだ。昔と比べても、そこまで腕を錆びつかせているってわけでもねえ。
そのせいで奴と戦えば、接戦することになるかもしれねえがよ。
それでも最後に勝って立っているのはこの俺だろう。
とすると俺たち全員でかかりゃ、奴らを殺そうと思えばたやすくできるだろ。
こっちにゃ、兵力は充分にあるんだ。複数で奴らに対せるだけの。互いの勢力を率いる首領の力にしたって、どちらがうえかは歴然としてるんだ。これで勝てねえはずがねえもんな」
ミゲールはにやりと笑むと、思い返した。
「いや、なにも俺たち全員でかかる必要すらねえかもしれねえな。
さすがに俺一人じゃ、無理だと思うがよ。いくら俺が強くても、奴らを全滅させるのは。グローもそれなりに手強いだろうし、かなり鍛えられている弟子が三人もいるってんじゃあな。
けど俺の見立てじゃよ。俺を抜きにして、おまえたちだけで襲ったとしても可能だろうよ。奴らを全滅させるのは。それも、おまえたちが全員出張るまでもねえ。隊のある程度の人数を割いて襲えば、奴らを始末できるんじゃねえかな?」
ミゲールは視線を部下に据えて、説明する。
「まず、あちらの弟子の始末は問題ねえだろ? あちらの弟子一人に対して、こっちの手下が数人で襲いかかるようにすりゃ。グローの奴の始末も、難しくなかろう。弟子より強いとはいえ、いまの俺よりかは劣る奴だ。
弟子に対する以上の人数で、こっちの手下が襲っちまえば始末できるはずだろうしな。つまるところ始末できるだけの戦力をきっちり整えさえすれば、連中はこちらが殺せない相手じゃないってわけだ」
なるほど。はげた部下が納得した。
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