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「満足」 公爵の洞察と直感が、真実を見抜く。

「ん? どうやら処刑が再開されるようだな」


 公爵は眼下の、広場の状況に気づいた。

 暴徒による混乱は兵によって収拾がつきつつあった。処刑がふたたびはじまるような動きが、広場には見受けられた。

 死刑執行人たちは多数の警備兵たちに未だ囲われ、その混乱から罪人とともに身を守られている。

 その死刑執行人に公爵は目を向ける。


「しかし随分、そなたの弟子どもは鍛え上げられた躰をしておるな」


 公爵は弟子たちの身体つきに注目した。


 弟子どもはみな黒衣を一様に身に着けているが、それでもわかる。その下の躰は尋常のものではない。相当に鍛えなければ、なり得ない躰だと。

                    

「なにぶん死刑執行人は忌み嫌われるだけでなく、憎まれてもおります。そのせいでさきほど公爵閣下もごらんになられたように、襲われることもあります。その襲撃に備えて、随時こちらは鍛えているのですよ。襲撃を受けたときに、身を守るために。

 そのせいで自然とそうした躰つきになったわけです」


「そうか」


 公爵はつぶやいた。


 一応筋は通るが、本当にそれだけのために鍛えているのだろうか? こやつや弟子どもはすべて、まるで一流の戦士のような躰をしておる。

                    

「剣の訓練もそなたが弟子に施しておるのか?」


「ええ、まあ。私はもと傭兵として、剣の鍛錬をそれなりに積んでもいます。剣術にはいささか自信がございますもので」

                   

「ふむ、それで? 弟子の腕はどれほどだ。そなた以上の腕前になったか」


「いや、まだまだ。私には遠く及びませんな」


「そなたは凄腕の傭兵だったが、現役を離れて久しい。普通に考えれば、多少は剣の腕も当時に比べて衰えているはず。そのそなた以下というなら、弟子どもの腕前はたいしたことはないわけか。

 教えるそなたが腕の衰えた元傭兵であるものな。なら、それも仕方ないか」


 くくっと公爵は薄く嗤う。見下されたとみなして、師は憤然とする。

                 

「人をなめないでほしいものですな。そこいらの兵に比べたら、弟子たちの腕はかなり磨かれていますよ。それもこの私にかなり近いほどに。私の腕も、まだ衰え知らずなものでね。現役を退いても訓練だけは欠かさず重ねてきていますので、その腕は上がっております。現役の当時よりも格段にね。

 その私が鍛えているのですから、弟子どもの腕が磨かれるのも当然ですが」


「なるほどな」


 そっけなくつぶやいたが、内心では公爵は満足していた。


 グローを含めた死刑執行人どもの腕前のほどを知りたくて、わざと怒らせて真実を答えるよう仕向けたが、いい答えだ。


 公爵は酒杯を手のなかで揺らし、弄ぶ。

                    

 グローの奴は、現役のころ以上の腕前であるのか。その躰つきからしてそんな気がしていた。

 ゆえにこやつが現役を退き、流れた年月のあいだに腕を磨いている可能性もついさきほど抱いたわけではあるが。

 

 しかし、わかった。それほどの実力をグローの奴が未だに持つというのであれば、やはり正しいと云えよう。

 あの町にいた灰色の狼の傭兵どもをグローの奴なら皆殺しにできるであろうという、こちらの見立ては。


 当時の腕前を維持しているのなら、グローの奴が賊として暗躍するのも可能だろうしな。

 

 その弟子たちについても、奴に準ずるほど腕が立つという言質も取った。


 あの体つきなら当然だが、弟子どもはやはり強いか。

 

 ならあの弟子どもも、奴らの師とともに賊として暗躍できよう。師と弟子がそろって躰を鍛えているのは、賊として暗躍するためという見方もできるか。

                    

 さらに云えば、あの弟子どもの助力もあれば灰色の狼を壊滅することも容易であろう。

                    

 であれば、これでますます濃いものとなったわけだ。グローの奴が灰色の狼の壊滅に関わっており、裏で悪事を働いてもいるという疑いは。

 ベルモンの奴が未だ強く、あの弟子どもの存在もあるのならその実現も可能であろうしな。

                    

 ともあれ、いま得た情報はグローの奴を黒とする判断材料としてくわえることができよう。

                    

 大体が普通に考えれば、灰色の狼というかの傭兵隊を壊滅することなぞはなかなかに難しいことであるのだ。隊の規模は少数ながらも傭兵という職業柄、荒くれ者がそろっていただけに。灰色の狼を仕切っていたあの傭兵隊長とているんだしな。

                    

 あの傭兵隊長の実力のほどは知っている。私も王国軍司令官だけに、傭兵どもとの関りもすくなからずあるのでな。

                    

 あやつはそれなりに強かった。少数ながらも、荒くれ者ぞろいの傭兵隊の隊長の地位に就いているだけのことはある。剣に関しては衆を抜きんでた力があった。

                    

 わが国のなかでも、あの隊長を剣の腕で凌駕する者などそうはおらんだろう。


 今回あの隊長、ウルグス町で殺されはしたが、本来ならかくも容易く始末される男ではないのだ。

                    

 が、グローの奴の腕前が現役当時より上がっているというのなら、話はべつだ。

 

 現役のころのままなら、グローの奴はあの隊長に敵うまい。惜敗するというところか。

 

 しかし、いま聞いたところではグローの力も上がっているという。

 それは偽りなかろう。この私の見立てでも、随分と腕を上げているように見える。

 それもグロー自信が述べるように、現役のころより格段に。その躰を見るのみならず、隙のない雰囲気から察するにな。

 いまやグローの奴は、あの隊長を軽く超えるほどの実力を確実に持っているはず。

 その実力をもってすれば、殺すことも可能であろう。あの隊長をグローの奴はたやすくな。


 あるいは奴の弟子だけでも、その殺害は可能やもしれん。弟子たちが奴に準じるほどの腕前を持つというのなら。それほどであれば、あの傭兵隊の隊長と比べても弟子どもの実力もおさおさ遜色はなかろうしな。

 

 そんな弟子どもがグローの奴にはついているのだ。グローただ一人でも、おそらくは相当に強力だというのに。


 それでは灰色の狼という傭兵隊ごとあの隊長を始末するなど、グローの奴を含めた死刑執行人どもにとっては造作もないことだろう。いくらあの隊長が手練れであっても、傭兵隊の手下どもが荒くれ者ぞろいであってもな。

                    

 となると、やはりなってしまうな、これは。あのウルグス町での一件に、グローの奴が手を染めた可能性が高いということに。奴を含めた死刑執行人どもの力をもってすれば可能であろうし。あの夜、町にいた者たちすべてを皆殺しにすることも。

                    

 もちろん世の中は広い。

 あの傭兵たちと隊長を町の人間ごと全滅させうる輩は、ほかにいくらでも探せばいよう。

 かの傭兵隊と隊長の強さからして全滅させるには余程の手練れか、相当に人数を上回ったうえに訓練もされているそれなりの集団にしかできんだろうが。

 そのうえ町の人間もすべて殺すとなると、それなりに人手もいるであろう。

                    

 しかし、あの一件が起きた日。そうした多数の集団やかなりの手練れはいなかったという。聞き及んだ話では、あのウルグス町にも。あの一件が起きた夜のうちに、ウルグス町にいけるような近辺にも。


 町へ行くのに片道一日ほどは掛かる、とてもあの夜のうちには行けない場所にはいたらしいが。

                    

 一方、グローの云い分もこちらは耳にしているが、それによると死刑執行人ども一行も事の起きたときにはウルグス町を出ていたという。

                    

 だが奴ら以外の他の勢力には、事件の夜にそれぞれがたしかにその場所に居たという証立てが一応はある。反面、死刑執行人どもにはそれがない。自身でそう云っているだけだ。

 

 とすると、グロー側の云い分が出まかせではないとは云い切れまい。知らばっくれているというだけやもしれん。


「それはたいしたものよ」

                   

 公爵は酒杯をあおってベルモンを見据えた。

                    

 こうなると、あの町での一件には死刑執行人どもが関わっていると考えた方がやはり自然だな。というより、疑う対象がほかにおらん。

                    

 それに、嗜虐性の高いグローにしてはやはり変だ。処刑や拷問がしばらくおこなえないのに死刑執行を弟子に譲り、苛立ち一つ見せないというその態度も。

                    

 さきほど思ったとおり、そんな態度をとるのはどこかで罪を犯しているよい証左やもしれん。

                    

 死刑執行人どもが相当の手練れというのなら、尻尾を掴ませずに集団で暗躍するのも可能だろうしな。

                    

 であれば長らく巷間を騒がせている賊、朧がグローやもしれんという線も真実味を帯びてくる。その弟子ともどもにな。


 あるいは朧でなくても、裏でグローが弟子とともに悪事を働いている可能性は充分ある。

                    

 もちろん私のこの考えに確証などはない。


 然るに、これほど黒だと思われるような判断材料があるのだ。すくなくとも連中が隠れて罪を犯している可能性は、その力のほどとグローの奴の怪しげな態度を照らしあわせて考えればひどく高いとみるべきだろう。

                    

 公爵の洞察と直感が、脳裏に答えを点灯させていた。


 こうしてみると、やはりベルモンは黒だ。すくなくとも、限りなく黒に近い。


 公爵は、ふっと薄く嗤う。


 これでこちらの欲する見極めは、とりあえずできたな。存外うまくいった。

 

 あらかじめ私は考えていたが。

 ベルモンに今回の処刑のお預けをくわせること。ベルモンの現在の腕前を知ること。それらを判断材料として、グローの奴が罪を犯しているか潔白か、黒か白かの見極めをしようと。

                    

 途中、奴の弟子どもの躰が鍛えられていることに気づき、連中の腕前のほどもその判断材料にしようとして急遽くわえたが、それらによって充分に見極めができた。

                    

 ただ、なぜウルグス町に傭兵隊の連中が行ったのか。奴らと死刑執行人がどうして争ったのか。そのあたりの謎は、はっきりと解けておらんが。だがまあ、そんなことはどうでもよい。

                   

 私としては、自身が望む見極めができさえすればいいのだしな。


 傭兵隊の奴らにしてもそこへ向かったのは、なにかしら行かねばならぬ事情でもあったのだろう。

 略奪という線が濃いという話だが。ウルグス町で傭兵どもとグローどもが争ったことについても、当然なにか理由があるのだろうが。まあどうでもいい。

                    

 そんなことより、こちらとしてはもっと重要で考えねばならんことがある。

                    

 罪を犯しているのなら、グローの奴を始末するべきか否か。そうすることが損か得か。それについても見極めねばならん。

                    

 とりあえず罪を犯しているとして、こちらに害を為してからでは遅い。では、そうなるまえに始末した方が良いか。それともやはり生かしておいた方が、こちらの役に立つことになり得か。それを見極めるために、いますこし試してみるか。

                    



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