「守秘」 ゴーマは悄然としたが、師はなおも指示する。
「そうですね。俺も同じ嫉妬に、ときに駆られますからね。ジマの気持ちはわかるつもりです」
ゴーマは同感の意を示すと、ゴーマは杯を卓に置いた。
「ジマといえば、どうですか? そろそろジマに打ち明けてはいけませんかね? このルートヴィヒの出生の秘密を」
ジマの話題が出たついでにそう思ったこともあり、ゴーマは尋ねてみた。
「我々が朧だということも世間に露見すれば死罪。ですがジマはそのことを世間にこれまで一度として露見したりはしませんでした。秘密は守れる男です。ならルートヴィヒの秘密を漏らしても問題ないと思うんですが」
だめだ。すげなく師は首を振った。
「たしかに、ジマはばらしはしないだろう。秘密は守れる奴だと俺も思っているんでな。しかし秘密というものは、当然ながら知る者が増えればそのぶんだけ漏れる可能性は高くなる。
なら秘密を知る人間をあえてこれ以上、なにも好きこのんで増やす必要もなかろう」
「ジマがなにも気づいていないなら、ジマにはこれまでどおり思い込ませたままにしておけばいいと? ルートヴィヒは捨て子だと」
「そうだ。この話は可能な限り秘密にしておいた方がいい。いまのところ秘密が守られれば、こちらの身が安泰になるだけに。
だから知らないならいちいち話さなくてもいいと考え、いままでジマにも秘密にしておいたんだしな」
師は酒を飲む。
「あらためて云われずともジマに秘密にしておいた理由などは、とうにおまえにもわかっているとは思うが。これまで何度か、同じ話をしないでもなかったしな」
師は冷笑する。
「ふん。とはいえ、わからんでもない。ジマに打ち明けたいという、おまえの気持ちも。おまえとしては、ジマと秘密を分かち合いたいというのだろう? 秘密を共有することで、仲間意識を高めるために」
まあ、とゴーマはつぶやく。
まさに、それが秘密をジマに打ち明けたい理由だ。当然、師ならその理由を知っているだろう。
これまで何度もジマに秘密を明かすよう伝え、その理由も師に打ち明けているのだから。
「だが俺の意見は変わらん。いくらジマに秘密を打ち明けるよう、おまえが勧めてきたところでな。ジマに秘密を打ち明けるのはならん。わきまえておけ」
師に云われて、ゴーマは軽く肩をすくめる。
俺としては気心の知れた仲間であるジマと秘密を共有したかったんだが。それにより、二人のつながりをより深めたかったんだけどな。
ジマは悄然としたが、師はなおも指示する。
「だけでなく、当の本人であるルートヴィヒにもだ。ついさきほど云った理由から、その秘密を耳にいれてはまずいんでな」
師は軽く肩をすくめる。
「まあ知られてまずいのは、奴らばかりというわけではないが。誰に知られても、まずいわけだが」
「誰かに知られてしまえば、ルートヴィヒやアルプレヒト公爵の耳に入る危険も可能性としてありますしね。人づてに、その秘密が漏れて」
「だからこそ表向きは、ルートヴィヒの出自を捨て子ということにしているわけだしな。その真の出自を人に知られず、秘密にするために。そういうことにしておけば、秘密は守られるんでな」
師は話を続ける。
「ルートヴィヒを、なぜいたぶるのか。それを、たまに人に問われるときもあるだろう? そのときにも、いままでどおりの説明をしておけ。
これまで同様に奴の出自の秘密を守るため、単に奴が気に入らないからとでもな」
師は注意を重ねる。
「ルートヴィヒにも云うなよ。奴はたまに問うときがあるが。なぜ自分を俺たちがいたぶるのかを。一応その理由を奴としても納得しているだろうが。
俺には、奴に恐怖を与えて支配するという目的もある。それを奴も知っているので、その目的で自らが虐げられているのだとな。
ほかに、俺もおまえたち弟子も奴の美しさが気に障ることも隠していないからな。そのことも虐げられる原因になっていると知ってもいるだろう。
しかし俺とおまえが抱く、それ以外の奴をいたぶる理由については云うな。奴にもな」
「ですね。奴をいたぶる本当の理由を云うなら、明かさねばなりませんしね。奴の真の出自までも。
奴や、ほかの人間に」
ゴーマは答える。
俺にしても師にしてもルートヴィヒを憎むのは、奴が公爵の血を流すことに端を発している。憎む理由を問われて本心を打ち明けるなら、そのことについて触れなければならない。
しかし、そんなことなど到底できようはずもない。
ルートヴィヒの真の出自を秘密にしようとするのなら。
そうだ。答えると、ちらりと師はあたりを見回す。ルートヴィヒやジマに聞かれていないかを確かめるために。
周りには二人の影はない。自室にいる二人に聞かれぬよう、声も抑え気味に話している。
あの二人に聞かれていることはないだろう。
満足して、師はゴーマの方へ向き直り念を押した。
「ともあれ、くれぐれも奴の出自に関することは秘密にしておけ。よいな」
「わかりました。師がそうおっしゃるなら話しません。たとえジマにといえども」
ゴーマはうなずいた。主である師に拒まれてしまっては、あきらめざるを得ない。相手が親しいジマだろうと、その秘密を話すことは。
「とはいえこの秘密、黙っていてもいずれ周囲に知られてしまうかもしれませんよ?」
ゴーマは云う。
「公爵の娘の殺害。および公爵の孫の拉致。師が犯したそれらのことについては、その事実を知る我々が黙っていれば露見しないでしょう。
ですが、ルートヴィヒが公爵の血を引いているという点についてはどうでしょう? 露見しないとは云い切れないのでは?」
そこまで云うとゴーマは言葉を切った。その云わんとしている意味は師にもよくわかった。
「まあ、な。奴はひどく似てきた。奴の母親にその姿形が。まさに瓜二つと云えるほどに。娘の姿形を知る者が見ればまず気づくだろう。
その容姿から二人のあいだに血のつながりがあることに。
すくなくともその疑いは持つだろう。その可能性は充分にある」
「そのときには、どうします?」
「それなりの処置を。そのときに最適な対処を施すしかあるまい」
師は杯に酒を注いだ。




