第54話 辺境伯領北部地方
いつもご愛読ありがとうございます。
第54話をお届けします。
今後ともよろしくお願い致します。
翌朝はレイムの高級宿の一室でミナミに抱き枕にされな
がら起床した。朝食はレイムの町を散策したかったので、
チェックアウトして、町に繰り出した。
レイムは辺境伯領で第三位の都市だったはずで、人口は
4万人を超える程度の大きさで、北部諸侯地方に向かう街
道の入り口になっている北東部の都市だ。
昔からある程度栄えていた都市なので、何か面白い物か
変わった食べ物でもあるのかと思って街中に繰り出してみ
たのだが、何も無かった。
食事は薄味で、栄養も無さそう。唯一食べられた栄養の
ある物は大森林産の魔物の串焼き位だろうか。それもやは
り薄味で大味な感じだった。
都市自体にあまり活気が無い気がする。確かにレイムに
は積極的に手を入れて来なかったが、多少なりとも領内の
好景気の影響が及んでいるはずなのだが。。。
・・・マナミ?起きているか?・・・
・・・もちろんです。我が主の事を思って
枕を濡らしておりましたが。。。・・・
スルーしよう。。。
・・・今、レイムに来ているが思ったよりも
活気が無いな。
商会の支店で何か掴んでいるか?・・・
・・・レイムですか?確かに売り上げは悪いですが
現地採用組に任せているので、特に報告は上がって
来ておりませんね。・・・
・・・そうか、わかった。
支店に寄って様子だけ聞いてみるよ・・・
・・・お手数をお掛けしますがお願い致します・・・
ああ、そうか思い出した。エルムとリンド辺りは商会を
乗っ取った時に支店長を紹介されたが。クエドとレイムは
現地組だったんだな。
少し歩いて、シェルム商会のレイム支店を見つけた。
うむ。なんか微妙な建物だな?
「こんにちは~」
店先で声を掛けてみる。
暫く待っても返事が無い。
カウンターの向こうの扉をミナミが無遠慮に開け放ち、
俺は後に続く。扉の向こうには廊下が続き、幾つかのドア
が並んでいる。
「領都の本店に相談した方が良いんじゃないか?」
「領内巡回商隊に相談してみるって手も。。。」
「ん~レイムは見捨てられているからな~」
ドアの向こうから話し声が聞こえる。会議中の様だ。
「でも、レイムの都市規模で言えば売り上げはこの程度
だと思うけど?」
「タイールやキースク、領都の売り上げは文字通り桁が
5つとか違うんだ。。。俺の立場にもなってくれ」
「レイムの産業なんて北部諸侯領への宿場と大森林の魔獣
素材の転売くらいですよ?無理がありません?」
「農産物はレイム単独の需要と供給に釣り合っていますか
らね。販売する物も無いし、買う物も無い。」
「貨幣経済が浸透しない理由ですよね。商家にはきついで
すよ。」
「まあ、何か思い切った事をしようとすると都市長に止め
られますしね。保守的な意味では有能な方なんですが、
こうなって来ると単に視野が狭いのかと思ってしまいま
すね。」
コンコンッ
ドアを開け放ってドアの内側をノックする。
「ん?だれ?」
「やばっ。。。まさかの白昼の強盗?」
「ら、ラファエル様」
支店長らしき男の一言で皆が固まった。
「うん、まず。。。会議で営業を行っていないなら、
正面口を占めて来なさい。」
「ジム、頼む」
「了解!」
若い手代が店先に駆けて行く。
「支店長は君だったかな?」
「はい、ポールと申します。」
「では、ポール。
第一に店は複数人の店員が店舗内に常駐していない限
り開けてはならない。
第二に支店長たる者は意見を聞いたら決断を下す覚悟
が必要だ。
第三に私はレイムを見捨てたつもりは無いよ?単純に
人手とリソースの問題で遅くなってしまった事は申し訳
無く思うがね。
第四にシェルム商会は普通の商会とは役割が違う。辺
境伯領に限っては経済規模が小さくても撤退は出来ない。
分母が小さいからパイが小さいって言い訳は聞かないの
で、分母を大きくする努力をしなさい。」
「はい、全員メモを取る。商会の人間がメモをするため
の用紙は配布されているでしょ?植物紙製造過程の端切
れなので、そういった経費は惜しまない事。」
「ミナミ、マナミを呼んでくれ。」
「アヤネ、悪いが都市長をここへ連れて来てくれ。
ごちゃごちゃ言うなら更迭するから放って帰って来い。」
「支店の皆は筆記用具と会議机を準備しなさい。
揃い次第、皆で話し合いましょう。」
30分ほどで都市長のハルクがやって来た。
「お初にお目に掛かります。レイムの都市長を任されて
いるハルクと申します。お呼びの様ですが?」
「ああ、ちょっとレイムの今後の方向性などを打合せした
くてね。」
「殿下、そう言ったお話は領主の辺境伯様が成されるべき
ですし、仮に殿下がご提案下さるとしても一商会の会議
室では無く、我が都市長邸で行うべきと愚考いたします。」
あ。。。ミナミがイラッとした。。。
「ならば、ハルクに問おう。
辺境伯領の都市長は大村と開拓村2つを従えて、領地の
発展に寄与する事が本分であり、決して納税や司法だけ
を行う代官では無いはずだ。
この5年間で北西部はかなりの発展を遂げて、中央の
領都及び東部のエルム迄波及効果を与えているが、ハル
クは何を成し遂げた?」
「そ。。。それは。。。」
「組織や領地を維持して行くためには、少なからず保守的
な手続きや権限の分担、権威などが必要な事は理解して
いるが、他都市が発展を優先している今、レイム周辺だ
けが取り残された場合、どのように追いつき追い越すの
か、ハルクの具体的なプランを聞かせてくれ。」
「ぷ。。プラン。。。いや。。。それは。。。」
「ハルク?今後数年の間に王国は大きく様変わりします。
経済規模も人口も王国全土で爆発的に増大します。
現状維持はマイナスでしかありません。我々が言って
いるのは何年後に人口を何倍にする。所得を何倍に。。。
と言った具体的な話なのですよ?」
いつの間にか登場したマナミが口を開いていた。
「そしてそれはポール。あなたもです。ラファエル様の
御用商会の紋は軽くはないですよ?」
会議室を沈黙が支配してしまった。
「ふむ、ハルク、ポール。これでは話にならん。とりあえ
ず、ハルクとレイム支店全員、タイールに1週間研修に
行って来い。」
「マナミ、1週間レイム支店は休業で良いな?」
「はい、巡回商隊も居るので大丈夫です。」
「ハルク、異論も反論も許さん。最後のチャンスだと思え。
父上には報告をしておくから、すぐに荷物を。。。
いや、いいな。荷物も要らん。」
「アヤネ、都市長邸に1週間出張で不在の件だけ伝えて
来てくれ。」
「御意!」
いずれにしろ、アイル大村と開拓村のアイラ、アシムは
レイムを中心として、北部への玄関口と大森林の資源を中
心にやって行くしかない。テコ入れとして多少の工場等を
建設するのはやぶさかでは無いが、大きな水辺が遠くて水
を多量に使用する産業には向いていないし、領境が近すぎ
て兵器や火薬工場にも向かない地方だ。
都市の基礎能力の底上げはハルクの研修中に農地改良と
機械化の必要性を実感させて自主的に進める方向に誘導し
よう。
後は、大森林の浅い地域に何か新たな資源があると良い
のだが、リングウッドで鉄鉱石が算出しているのだから、
何かありそうなものなんだが。。。
とりあえず、レイムの本格的なテコ入れはハルク達の
研修待ちとして、他の村の視察をしておこう。
ハルクとレイム支店の人員はマナミに任せて開拓村で
あるアイラに向かった
数十分で到着したアイラはレイムよりもむしろ活気が
あり、人工的にも開拓村の規模を大きく超えていた。
「いったい何が違うんだろう?」
「アイラはリングウッドの影響を強く受けていますね。
2次男はリングウッドへ移住もしていますが、週末以外
をリングウッドの鉱山で働いて、週末はアイラで家族
と過ごすと言った生活様式が定着しつつあるようです。」
ミナミがアイラの住民に聞き取りを行って教えてくれた。
「ふむ、予想の斜め上を行ったがそれも有りだな。結局の
ところ、お金をアイラに持ち帰って使ってくれれば産業
が少しづつ育って、ちょっとした商店や大工の仕事など
が増えて行くだろう。
たぶん、現状は領内巡回商隊でお金を消費しているの
だろう。これをレイムへ誘導すれば良い訳だ。」
「いっその事、輸送隊でトラックへの変更で余剰になって
いる荷馬車を乗合馬車に改造して、レイムからリングウ
ッドの間を走らせてはどうですか?」
ミナミが提案してくれる。
「うん、それは良い考えだ。但し、現状レイムの魅力が
乏しすぎるな。。。」
「ですが、いずれは鉄道の北部線がレイムに停車するよう
になるので需要は有りますよね。」
「そうだね。必要なのは美味しい食事、娯楽と宿かな?」
どうも話を聞くとアイル大村も同様の様子らしい。
「今日の所は、アイラとアイルの防壁範囲を広げて、それ
ぞれに公衆浴場を設置するだけにしておこう。浴場の
管理は各村長で良いな。」
アイラは直径2km、アイルは直径4kmの防壁範囲
だったので、それぞれ4kmと8kmの倍に拡張して、
防壁から約1000mを伐採して、監視範囲としても農地と
しても使用できるようにした。
予定とはだいぶ違ってしまったが、散歩なので気にせず
にタイールへの帰途へとついた。
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アルテイル正教会 聖女アリアンヌ視点
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私は教皇様の命を受けて大海原を快速帆船に乗り、フィ
ステント帝国を目指して北上しています。
慣れない船旅で船酔いが酷く、碌に寝れない日々を過ご
しています。
教皇様の命は、フィステント帝国、ウリエル王国及びリ
スリッド王国の3国にマキシアム王国を滅ぼさせる事、そ
して新たな教会である神意教会を滅亡させて、自称使徒で
あるラファエル・ロンドベルの首を上げる事です。
文字通りこの身体も使った、ありとあらゆる手段を用い
て3国に奮起を促し協力を得る事と、戦場の先頭に立って
戦い、勝利を得るまで帰国を許可しないとも教皇様に名言
されています。
船酔いに苦しみながら薄暗い船倉に持ち込まれた粗末な
ベッドに横たわっていると自分の半生について考えてしま
います。私は物心付いた時にはすでに、商連合国の首都の
孤児院で同じく身寄りの無い子供達と過ごしていました。
食事は一日一回、パン粥かオートミールが支給されて死
ぬことは有りませんでしたが、お腹が満足に満たされた覚
えも有りません。
年齢を重ねるごとに私より年上の仲間が、そのひもじさ
から盗みを働いて捕まったり、奴隷商に自分を売り込んで
一人、また一人と居なくなって行きました。
私も何度自分を奴隷商に売ってそのお金でお腹いっぱい
食事をしたいと思ったのか判りません。ですが、奴隷商
に身売りをした子供は最終的に、娼館で病気になるまで使い
潰されるか、運良く羽振りの良い商人や貴族に買われても
サディスティックな性癖を受け続ける内に死んでしまう事
がほとんどでした。
極まれに成人である15歳まで孤児院で生き延びる事が
出来た子供は教会の下働きになれます。それだけを生きる
糧にして孤児たちは頑張っていました。
ですが、実際には別の道もあったのです。当時は知りま
せんでしたが、極一部の見目麗しい男女児は10歳程度の
年齢の時に聖歌隊へ入隊する者、教会の一員として貴族へ
養子に行く者、高位聖職者の下働きになれる者が居たので
す。もちろん、教会は大きな組織なのでそのチャンスは
ほとんど皆無に近く、私の周りにそのような幸運に出会った
者は居なかったのです。
私は10歳の時に孤児院の院長を兼ねる司祭様に連れら
れて、聖国の土を初めて踏み締めました。湖を渡り聖都に
入るまでは、聖国の豊かな自然と穀倉地帯に感動していた
のを覚えています。
そして、聖都の大聖堂まで司祭様と共に向かうと温和な
笑みを浮かべた枢機卿様がお待ちになって出迎えてくださ
いました。
司教様は、「教会の一員として私心無くご奉公しなさい」
とおっしゃってお帰りになられました。
枢機卿様は「お前は今日から正教会の聖女だ。どんな時
でも笑顔を浮かべて、誰よりも美しくしていなさい。」と
言われました。その後、教皇様にもお目通りさせて頂き、
聖女の認定を頂きました。
大聖堂を辞する時、枢機卿様に「私はお恥ずかしながら
貧民の出で学も無い馬鹿な小娘ですが、聖女様などと言わ
れて宜しいのでしょうか?」と聞きました。
「何、心配する事は無いですよ。神託は教皇様が伝えま
すからそのまま口にすれば良いのです。多少の治癒魔術は
使えた方が良いのでそれは私が教えます。しばらくは私の
所で勉強をして貰いますよ?」
今思えば、枢機卿様の下世話な笑みを見て察するべきで
したが、当時の幼い私は何も疑問に思わず頷きました。
その日の夜には神の名を口にしながら処女を貫かれ、鞭打
たれては自分で治癒を行う事を強制される毎日。
1年が経つ頃には、立派な治癒魔術の使える娼婦と成り
果てました。逆らう気も起きずに3食もの食事を頂くため
にひたすら従順に淫靡にお勤めを果たしてきました。
ですが、私もすでに聖女となって10年を超えました。
今では5名居る枢機卿のうち1名のご寵愛しか頂けており
ません。
今回の教皇様の命を見るにもう用済みなのでしょう。
私は一体何のために生まれて来たのか。。。
神などこの世界には居ない。
神が居たら恨まずには居られませんから。。。
教皇様いえ、教皇!ただでは死にません!
みっともなく、泥臭く、不潔で不浄であっても生き抜き
ます。生き抜いて、堕胎させられた数だけ聖都を呪って
あなた方が苦しみ発狂する様を見ながら死んであげます。
聖女は呪いのように呟くと船酔いのせいか
眠りに落ちて行った。。。
(白金貨215649大金貨9金貨1大銀貨1銀貨7大銅貨2銅貨2)




