第29話 モフモフ
朝目が覚めると、見慣れない光景が広がっていた。
新しいコンクリート製の壁に木材の床、その上に毛布を
敷いて大勢の女の子が雑魚寝している。
まだ若い子が多いせいか、規則性も無く思い思いの場所
で様々な寝方をしていた。
俺の傍はキョウコが片側に寝ており、俺の腕をしっかり
と抱きしめている。問題は反対側だが、幼女が3人鈴なり
にしがみ付いて寝ている。
幼女たちはそれぞれ、猫、狐、狼の獣人で可愛い猫耳を
生やしている。そしてそれぞれのモフモフの尻尾がパタン
パタンと俺を叩いている。
思い出した。俺はこの孤児院に彼女達を誘導して来て
既に睡魔に襲われていたが、狐獣人のこの子の尻尾の誘惑
に耐えられずにモフモフしてしまい、そのまま寝てしまっ
たのだ。
決して〇リコンではない!やましい事は何もない!
モフモフの誘惑に耐えられる日本人が居るだろうか?
いや、居ない!ゆえに正義である。
朝食は今日も魚介の煮込みスープと白パンだった。
やっと現実味が湧いてきた奴隷の子達が恐る恐る白パンに
手を伸ばす。
「みんな好きなだけ食べなさい。スープも何杯でもお替り
して良いからね!」
「「「ありがとうございます!」」」
この子達の素晴らしい処はこの挨拶だね。
日本人であったロジーナの教育の賜物だろう。
「キョウコ、この子達どうしよう?」
「どうしよう?って言われても困りますが。。。」
「ああ、そういう意味では無くて、ここで教育した方が
良いのか、キースクか領都の方が良いのか?って意味」
「驚きました。何も考えずに引き取られたのかと。。。
でしたら、こちらタイールが最善だと思います。孤児院
も学校もすべてが、これから始まりますから定員的にも
時期的にも一番抵抗なく受け入れられると思います。」
「うん、そうだよね。」
「ロジーナ。」
「は、ハイ。」
幼子の面倒を見ていたロジーナがこちらに向き直る。
「この子達はこのまま、ここ新生タイールで生活して
もらうよ?近々旧タイールの住民も映って来るから
1ヵ月後には多少人が住み始めると思う。
そして、教会に頼んで神父と修道女達、学校の教師
を早急に入れて貰うから心配しなくて大丈夫だよ。」
「ロジーナは当面、俺のお付き兼タイールのお目付けを
やって貰う。タイールの責任者はヤマトで、工房の
責任者はアヤメをはじめ配下6人、商会が2人だね。
後でキョウコに紹介して貰うと良い。
基本的な所在は領都になるけど、オーサを使って良い
から当面はタイールに重点を置いてくれ。
配下総出の作業は明日で終わるが、大工さん達の建設
作業は当面続くし、専門的な工場の調整設置もまだまだ
多いから俺の代わりに進捗を見てくれ。
必要なら念話で指示を出すからそのつもりでね。」
「か、かしこまりました。ありがとうございます。」
ロジーナが真意に気付いて深く頭を下げる。
「そう言えば、ロジーナはいつの何処出身なの?」
「私は死んだ時が、2008年の夏で名古屋出身です。」
「あ~じゃあ、年号が変わる前だな。俺は2020年の1月
で、令和2年だったよ?出身は長野だったけど東京で
サラリーマンしていた。」
「あ、平成は思ったより早く終わったんですね。」
「うん、天皇が崩御されたのではなく、生前退位なされ
たんだ。皇太子もすでに良いお年だったからね。」
「なるほど。」
などなど。。。お茶を飲みながら久しぶりに、二人で
同郷の話に花を咲かせた。
「さて、キョウコ。ヤマトを呼んでくれるかい?」
「御意!」
「お呼びでしょうか?」
相変わらず張り切っているヤマトがやって来た。
「うんまず一点、俺は明日で領都に戻ってしばらくは
引き籠る事になる。理由は人員不足だが、アルス兄様
が学園に出発するので護衛にキョウコとマニエットを
付けるつもりだからだ。
事前の打ち合わせ通り、ヤマトにタイールの総指揮を
任せる。俺は早く米が食べたいので水稲栽培に関して
抜かりなく、住民に指導してくれ。
配下の協力と農業用器具の開発に関しても自由裁量を
与えるので上手くやってくれ。農業用器具はひょっとし
たら使徒のロジーナが多少なりとも近代機械を知って
いるかも知れん。相談してみろ。
二点目はその使徒ロジーナだが、当面はこちらに配置
する。俺のお付きだが、お前のお目付け役だな。
少なくともずっと進んだ知識を持っているから、ダメ
元で相談できることは相談してみろ。
ある程度落ち着いたら、ロジーナには裏を一人付けて
建設集団を指揮して貰うつもりだ。すでに商会はあの
規模の建設集団はきついだろう。商会から独立させる
つもりだ。
三点目だが、当たり前だがここタイールは工房の労働者
が大勢住む街にはなるが、同時に我々以外の商会にも門戸
を開く話同様に住民も広く募集したい。都市のキャパ的に
は10万人位は行けるだろう。
そちらもお前の裁量でやって良いが、闇ギルドと人族
至上主義者だけはダメだ。あとは好きにやれ。
以上だ。」
「承知いたしました。
ご期待に答えられるように全力を尽くします。」
来た時に増して張り切ってヤマトが去って行った。
ヤマトはもっと任せた方が生きるのかもしれんな。
もっと今居る配下を上手く使って行かないといかんな。
朝のまったりした時間を終えて、現場の作業を再開する。
今日はどちらかと言うと仕上げ作業。防壁の門部分を繰り
抜いて側面を石で仕上げたり、コンクリート工場の建設と
設備の設置を行う。
コンクリートが無いと埠頭も完成しないしね。。
俺はと言うとオーサでキーリクと往復して、孤児院の
布団などを運搬していた。ベットや建具は建設集団の大工
が最優先で作ってくれたが、布団や衣類はそうもいかない
からね。
昼前になって、今日も天気が崩れそうも無いので、旧
キーリクに行って女将さん達を誘って、干物製作の実演を
行った。幼女ばかり構っていると誤解を招くしね。。。
「へ~何か天日だとあっという間に乾燥するもんだねえ。
でも、これミイラみたいだけど本当に食べられるの
かい?」
女将さんがもっともな疑問を挟んで来た。
「そうですね。でも、天日に長時間当てすぎると乾燥と
同時に腐っちゃう場合もあるので、1時間表面を天日で
乾燥させて、あとは日陰で潮風に乾燥して貰いましょう。
4~5時間で水分が完全に飛んで1~2週間では腐らなく
なるし、旨味が凝縮されるので美味しいですよ?」
「ホントかねえ。いや、御曹司の言う事だから信じたいん
だけどねえ。」
「夕方、ご一緒するので焼いて食べてみましょう。それと
私が洗った昆布は一日中天日で干しておきましょう。
お土産に持ち帰りたいので。」
その後はのんびりモリスの家で過ごした。久しぶりに
昼寝をして、何故か港町に多い野良猫を構いながら女将と
話をしたりして過ごした。
まあ、新ラシールの方からはドカンとかバコンとか
刺激的な音が轟いてはいたが。。
「そう言えば、御曹司?保証の金貨を配ったんだけどね。
良かったのかい?みんな税金も免除なのに何に使えば
良いか悩んでいたよ?」
「結構稼いでますし、最終的には私の利益になりますので
金貨なんて安いものですよ?それと、金貨はしばらく
持っていた方が良いですよ。新しい町ではお風呂とか
飲食店とか服飾店が店を出す予定ですから、見た事の
無い商品も変えると思ますからね。」
「そうかい。みんなににも伝えておくよ。」
夕刻になり干物を回収する。俺はアイテムボックスに
入っていた炭に火魔術で火を熾すと、試験的に作らせた
網を置いて焼き始める。
油が炭に滴り落ち良い匂いがする。お米が無いのが
本当に残念だ。良いおかずになるのに。
「女将さん。私は飲めませんが、お酒を飲める方は
お酒のつまみに最高ですよ?」
「ふふん。塩水につけていた時点でそうじゃないかと
思って旦那の秘蔵の酒を持って来たよ」
女将さんが悪い顔をして革袋を見せびらかす。
「うん、もう良いですよ。食べてみましょう。」
網から干物を下ろすとみんなで試食を始める。
「ちょっと塩っ辛いけど美味いね!
確かに酒のつまみに最高だけど、焼き魚ってこんなに
美味かったかい?」
「絶対、生よりこっちの方がおいしいわよ!」
「お酒が進むわ~うちの旦那の酒、終わっちゃった」
皆口々に言ってあっという間に食べ尽くした。
「ちなみに、パンには会いませんので現状は酒のつまみか
麦粥と食べると良いかも知れません。
一番相性が良いのは東方で食べられている米です。
新しい農地ではこの米を栽培して貰いますので、楽しみ
にしていてください。麦をやめて米にするのは僕の好み
もありますが、主にこの魚の干物やしょっぱい物、甘辛
い物との相性が良いからです。腹持ちもする上に面積
当たりの収量が麦の3~5倍なので効率も良いんですよ?」
「はぁ~御曹司は本当にいろいろな事を知っているね~
流石は使徒様だ。」
「あはは、10年後にもう一度聞きに来ますよ?まだ私的に
は始まったばかりですから。
新しい町はずっと私の技術開発拠点として運営してい
きますので、まだまだお付き合いいただきますよ?」
「ありがたいことです。私もモリスも最高の運が回って
来たってもんだ。」
「あ、でもタダでは無いですよ?」
「「「えっ!」」」
女将さん以下みんなが固まった。
「勤勉に働く事、子供に勉強をさせる事、
子供をたくさん作る事。が条件です。」
あからさまにみんなほっとする。
「そんな事は当たり前だし、子作りはみんな得意だから
任せておきな!旦那から搾り取ってやるからね!」
相変わらず豪快だ。。。。
火も暮れたので孤児院に戻って就寝する。
いや、個室ですよ?個室!テントよりベッドにお布団の
方が気持ち良いからね!
翌日はギムレットに誘われてガラス工場を見学してから
帰る事にした。
ガラス工場は技術的にかなりハードルが高かったので、
興味があったのだ。工場の敷地は幅500mx長さ1.5km
に及ぶ。工場建屋は幅200m×長さ600mほどで残地の一角
にはパレット製造予定工場が20mx50m、溶解窯用の
燃料(石炭)貯蔵庫100x300mが立ち並ぶ。
今回は大量生産供給のため、溶解したガラス原料を溶解
したスズ槽の上に流し込み表面張力で平坦になるのを利用
した製法を採用した。いわゆるフロートガラスである。
このスズは融点230℃程と低くガラスが固まる温度より
低い。比重が重いためガラスと混ざる事無く、綺麗で平坦
な境界面ができる。浮かした表面側も表面張力で平坦な
面が形成されて、それぞれの面を磨く必要が無い。
これは前世でも主流の製法であるが、当然様々な技術
レベルが低いこの世界では全く同じには出来ない。
確か、前世ではフルオートメーションのローラー制御で
ローラーによる連続引き出しを行っていたが、今回は
半連続引き出しである。ローラーの動力制御などまだ
出来ません。
ガラス原料は四角い釜に投入して1500℃で加熱されて
溶融ガラスにする。これを一辺に溢れさせるようにして
1200℃程度の原料を長さ50mの溶解スズ槽に流し込む。
本来は平坦に広がった段階で徐々にローラーで厚さを
調整して送り出すのだが、そんな技術は無いので厚みは
無調整で約6mmだけになる。
溶解スズ槽の終端側は1100℃で固まり始めて600℃で
ほぼ固まるので、今回は1000℃近辺でガラスに直接フック
を溶融ガラスを接着剤にして取り付けた。
動力無しのローラー上を400tのガラスを引っ張るため
貴重なディーゼル発動機と減速ギアが投入されている。
徐々に冷ますための釜が100mほど続いて出て来る。
本来は連続して製造するが、現段階では50m分を完全
に引っ張りだしてしまい完全に冷却後に切断する。
この一ラインの工程のため、幅10mx長さ300mを
占有している。ちなみに横の区画には研究開発用の第二
ラインがスペースを開けて設置されている。
まあ、あまり良いものは出来ないだろうが、
必要は成長の母だ。存分に試して失敗して欲しい。
教えられた技術だけでは身に付かないからな。
「オオワシ、良くやった。流石に製品が出来上がるのを
待って見ていられんが、たぶん当面は品質的に満足
できないかもしれん。思ったように行かないかもしれん。
それはそれで良い。持ち前の探求心で改良を続けろ。
実際に商業生産を開始して販売するのに3ヵ月やる。
低品質品等はキースクとタイールで使え。」
「「「御意!」」」
オオワシと共に工房の職人も返事をする。
「オオワシ、白金貨50枚を渡す。改良に使え。
それから大金貨2枚をやるから工房の連中に飯を
食わせてやれ。」
「「「ありがとうございます!」」」
さっきより声が大きい職人連中。。。
さて、領都に戻りますかね。
モフモフっ子3人衆を持って帰りたかったな~
「キョウコ、領都に戻るぞ。そろそろアルス兄さんの
旅立ちの日だ。」
「御意!」
オーサを呼んで領都へ帰還する。御屋敷生活も久しぶり
だな。お母様達は元気にしているだろうか?
1時間も掛からずに帰還した。ちょうど昼辺りだろう。
我が家の中庭では軽食を並べたお母様達がお昼を食べよう
としていた。
我が家でも軽食ではあるが一日3食になりつつあるのだ。
「ミランダ母様、エメルダ母様、クリス母様。
ただいま戻りました。お久しぶりです。」
また小言を言われるかな?と身構えていたが違った。
「あらあらあら。」
「か、可愛い!」
「照れちゃって可愛いわねぇ」
ん?可愛い?
「ラフィー、早く紹介なさい。」
ミランダ母様が催促して来る。
へ?後ろを振り向くと。。。そこには
モフモフっ子3人衆がちょこんと立っていた。
しかも、ぶかぶかのメイド服なのにどこか得意げで
3人共に尻尾が機嫌よくユラユラ揺れている。
もちろんその後ろで、キョウコが大成功!的
な笑みを浮かべていた。
キョウコ。。。何してんの?
「あら、この子達ロンドベルの紋章じゃなくて、
キョウコと同じラフィーの紋章じゃない?
これってお嫁さん候補ってことだったっけ?」
クリスお母様が白々しい事を言って来る。
「クリスお母様。。。本当の事に少しの嘘を混ぜるのは
やめてください。危険ですから。」
「みんな、挨拶は出来るかい?」
3人娘に聞いてみる。
「は、はい。。。。チョコです。4歳です。」
狐耳幼女が答える。
「み、ミュウにゃ。4歳にゃ」
猫耳幼女は語尾がやっぱり、にゃんなのかな?
「チェルです。4歳です。はくろう族です。」
狼耳幼女は白狼族か。。。将来強くなりそうだな。
「良くできました。これご褒美のお菓子よ」
「こっちのお菓子も食べなさい」
「チョコちゃん私の膝にお座りしなさい」
だめだ。。デレデレだ。。。。
恐るべし。。。モフモフ幼女たち。。。
「キョウコどうしてこの子達が居るんだい?」
「私が不在の間のおもちゃ。。失礼。護衛にございます。」
「おい。。。。」
「主様がことのほかお気に入りの様でしたし、基礎能力も
非常に高いです。将来の側近としても申し分がござま
せん。
加えて、本人たちも主に懐いていますし、ロジーナ様も
領都と行ったり来たりなので、特に問題ないとの事で
した。」
「わかったわかった」
キョウコのしてやったり顔。。。
「「「キョウコ、良くやったわ!」」」
お母様たちがキョウコを褒めちぎる。
「教育の方はお任せください。」
いつの間にか登場したマニエットが請け負う。
「降参降参!3人共、お行儀良くね!」
「「「はい!」」」
(白金貨174大金貨1金貨9大銀貨0銀貨3大銅貨2銅貨2)
当方、初めて物書きに挑戦いたします。
誤字脱字、読みにくい等のご指導をお願いいたします。
豆腐メンタルなので過激な指摘はご容赦くださいますようにお願いいたします。
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