(8)留守中に失礼
この事件には、マエフリのようなものがあった。
前日の晩、主人が帰って来るなり、
「おい、玄関の鍵が開きにくいぞ。
鍵穴に差し込んでるのに回らんことがある。 ドアがゆがんでるんだろう。
今はお前が開けてくれたが、今日の昼休み、留守の時に用事で帰ったら入れなかった。
お前も、外から帰って来た時に困るだろう。 管理人に連絡しとけよ」
と言っていたのだ。
「わかった、明日言っとく」
私はそう返事をしたのだが、翌朝電話すると管理人は留守だった。
そして夕方、事件は起こった。
買い物から帰った時、差し込んだ鍵がどうしても回らないのだ。
ドアを持ち上げて見たり、鍵を押し気味に回してみたりして何度もトライしたが回らない。
うわーほら見ろ、だから言わんこっちゃない!
と怒ってみても、管理人が留守ではすぐにどうしようもないのが現実。
途方に暮れて階段下を見ると、隣の部屋の奥さんが、駐車場で立ち話をしていた。
玄関前に荷物を放り出し、階下に降りて隣の奥さんに泣きついた。
「ごめん、お宅のベランダから入らせてくれないかなー!」
お隣さんは快諾してくれ、一緒に階段を登った。 うちは5階なのだ。
ところが、4階まで登ると、そこにさっきの買い物袋が置いてあるではないか。
それでやっと気づいた。
私は最初から、1階下のよその家の鍵を開けようと頑張っていたのだった。
これはエッセイであり実話です。
浅田美代子さんが同様のエピソードをお持ちのようです。 先日テレビで言ってました。