(6)お花見列車
桜が咲く頃になると、思い出す。(こんなんばっかりや)
中学校一年の、お花見遠足のこと。
私が入学したのは、新興住宅地に新設されたばかりの中学校だった。
第一回入学生が私たちだったので、何をやるのも初めてで、行事も「とりあえずお試し」的なものが多かった。
春の遠足に、一般の列車を使って花見をさせる、なんてことをやらされた。
今だったらマイクロバスなんだろうけど、そういうところが模索段階だったらしい。
結構距離があり、3時間近く列車に乗っていた。
当時、国鉄の在来線にはもれなくトイレがあった。
到着間近になってトイレに行ったら、困ったことに鍵がうまくかからない。
ガチッとロックしきらないので、手を離すと横開きのドアがカラカラと開いてしまう。
仕方ない、誰かを誘ってドアを押さえていてもらおう、と思って出ようとしたら、なんと後ろにすごい人数が並んでるではないか。
「早くしてくれんか!」
目が合った後続のおっさんに怒鳴られて、怖くてやめますと言えなくなった。
ドアは便器の後方だ。
ドアを手で押さえてアクロバットのように下着をおろした。
でも、距離がありすぎてその恰好ではしゃがめない。
体が伸び切った状態なのだ。
四苦八苦しているうち、偶然にカチリと錠が入った。
少し甘い掛かり方だったが、今しかないと思って大急ぎで排泄。
用を足し終わった途端。
列車がカーブにさしかかり、鍵がカチャンと外れてしまうのが見えた。
遠心力でドアが開き始めるのを慌てて止める。
しかし、自分の体もカーブでドアの開く側に押し付けられることを計算していなかった。
その時のポーズは、ほぼバレエのアラベスクに近かった。
スカートは上がって、下着は下がった状態。
鍵レバーを握ったまま横倒しになり、ドアは一気に全開した。
5人ぐらい、ドアの前に並んでいた一般の乗客の前でモロ出し。
後ろに並んでいた、あのこわいおっさんとまともに目が合った。
おっさんはどういうわけか、
「あ。 す、すいません」
と大声であやまったのだった。
あんたに謝って貰っても。
その後、同校で、春の遠足に列車が利用された話は二度と聞かなかった。
一般乗客に迷惑なので、と言う理由で、とりやめになったということだった。