(5)顔面崩壊
あッ、と思った瞬間、前輪が引っかかった。
後輪が跳ね上がり、自転車はハンドルを中心に一回転。
道路に投げ出されるまでが案外長かった。
手を突いて顔面強打を避けようとしたが、勢いが良すぎて役に立たなかった。
ほっぺたが地面にドッキングする瞬間はコマ送りのようで、憎いアスファルトの亀裂がしっかりと目に焼きついた。
平日の昼間だから主人は仕事、2人の子供は小学校。
私は買い物途中に自転車で転倒して顔面を強打し、救急車で運ばれた。
幸いにも骨折はなく、顔の打ち身だけだった。
そのかわり、自分でも誰だか判らないくらいに顔面が腫れ、人相が変わった。
怖いというか、不気味な顔だった。
病院の鏡で自分の顔を見て、これは子供が泣くかも、と思った。
学校から帰宅しているはずの子供たちが泣かないように、病院から電話をかけて、
「すごい顔になったから驚かないでね」
と、言い聞かせてから帰宅。
子供たちはさすがに泣きはしなかったが、なるべく私の顔を見ないようにしていた。
でも、主人の職場にまで電話するのははばかられ、知らせずにおいた。
夕方帰宅した主人。
「ただいま」と声をかけても私が振り向かないので、怪訝そうな様子。
そのうちどういうわけかイタズラ心を起こし、結婚して一度もやったことのないお茶目をやった。
後ろから忍び寄り、おどかしたのだ。
「わッ!!!!」
「きゃッ!!!」
驚いて振り向いた私の顔を見て、主人は床から7センチほど跳んだ。
ちなみに救急車のおじさんには、「えらく何にもないとこでこけたもんだね」と言われました。