(4)イケイケサイン
まだ合コンなんて言葉を覚えたばかりの大学時代の話である。
コンパじゃなくて合同ハイキングの話が持ち上がった。
この計画、じつはAという男子学生のために立てられたものだった。
Aは学園祭で私の友人M子に一目惚れし、知り合いを手繰って私に紹介を懇願したのだった。
なんとも純情な話にロマンを感じ、全面協力を約束した私たち。
カップル決めのクジに細工し、まんまとAとM子をふたりきりで車に乗せることに成功した。 車は全部で3台。
AとM子で一台、残りが4人ずつ2台に分乗して出発したのだが、Aは出だしから相当緊張していた。
まずスタート時点にいきなりエンスト、周りが冷や汗をかく。
駐車場から出るときにミラーをこすり、もう一度エンスト。
途中でトンネルに入り、出てきたらライトが点けっ放し。
当時はまだ携帯が普及しておらず、私たちは並走する車の中から合図してライトを消させようとした。
「おーい、ライトライト」
掌をパカパカやってみんなで叫んだ。
緊張の余りさっぱり気づかない様子のAに、繰り返し手のひらで合図をした。
すると何を考えたのかAは満面の笑みを浮かべ、車を脇道に入れてあっという間にどこかへ走り去ってしまった。
「ライトライト」を「バイバイ」と勘違いしたのである。
それきり戻っては来なかった。
二人きりになってさぞかし健闘したのだろうが、その後AとM子が付き合っているという話は聞いたことがない。
これはエッセイであり実話です。
誤解は願望に起因する。
by久遠