(25)例の電話
受話器を取ると、ハアハアと荒い呼吸が聞こえてくる。
「お、お、おくさん、今、下着の色は何色ですか」
この手の電話をしてくる男は、どういう神経をしてるんだろうか、いくら考えてもわからない。
それよりも深刻な問題は、小さい子がいる家庭では、大抵子供が真っ先に受話器を取ってしまうことなのだ。 純真な我が子がこの淫乱魔神の囁きを聞いて、変な影響でも受けたらどうしてくれるのだ。
長男、3歳。
「ぼくもしもしするー!」
顔をしかめている私の手から、強引に受話器をひったくる。
「もしもしー」
「ハア、ハア、ハア」
怪訝な顔をして、受話器から流れてくる呼吸音を聞き、3秒ほど考え込む。
次の瞬間、えらい勢いで受話器に息を吹き込み始めた。
この息子のやることには、いつも一点の迷いもない。
「フー、フー、フー!」
「ハア、ハア、ハア」
「フー、フー、フー!」
「ハア、ハア、ハア」
しばらく受話器を吹いたあと、長男はふらふらになって床に座り込んだ。
「ああッ、おくさん、今度はナメてくださあい」
息子の手から落ちた受話器の中で、何かを勘違いした電話男が恍惚になって叫んでいた。