(23)わらしべ長者型パニック
我が家の長男、小学校の頃は忘れ物の名人だった。
まず荷物がランドセルしかなくても、そのランドセルを忘れて行くのである。
体操服だけ持って出て、ランドセルを玄関に忘れて行ったことも幾度となくある。
だからもちろん、ランドセルを背負っただけで、体操服や給食袋を忘れて行く、なんてありきたりな忘れ方なら、ほとんど毎日やらかす。
家が学校からかなり遠かったので、忘れ物をすると大変だった。
田んぼ道を延々泣きながら戻って来る。
おまけに動揺しているととめどなくポカが続く。
まず「体操服がない」と戻って来て、入れ替わりにランドセルを玄関に置いて出る。
「あ! ランドセルがない」とまた戻り、今度は体操服が玄関に置き去り。
取りに帰る時、道路にランドセルを投げ捨ててくることもあり、今度はそれを探していて体操服をなくす。 これではいつまでたっても、学校に行き着かない。
何度でも戻って来るので、「ヨーヨー」とあだ名がついた。
そうなると、今度は自分の管理能力に自信がなくなってしまうのである。
持っていかなくていい物まで、取りに戻るようになる。
「エーン、みんな絵の具を持ってる。 僕忘れた!」
「絵の具なんて3年生からしか使わんでしょうが!」
そんな時代の秀逸な忘れ物エピソードは、いつものように彼の勘違いから始まった。
泣きながら玄関に走り込んだ長男が、またしてもありえないことを口走る。
「エーン、僕だけ『給食袋』がない!」
「お前当番じゃなかったろ! 持って帰ってないでしょうが」
「うわーん、そうだった!」
まだ時間があったので、すぐに学校に向かわせたのだが。
10分後、ゴミ出しに行った帰りに、近所の奥さんに声をかけられた。
「司くん、無事に戻れた? 『体操帽子』を忘れたって、泣いて走って行ったけど」
お昼すぎ、買い物に行ったら、八百屋さんのご主人に呼び止められた。
「今朝、無事に忘れ物取りに帰ったかね?
店の前で他の子が『習字道具』を持ってるの見て、僕忘れた!って走り出したんだよ」
極めつけは、しっかりものの姉、長女の蘭が帰宅して言ったセリフ。
「司、無事に取りに戻った? 『宿題』机の上に忘れたって泣くから、戻らせたんだけど」
道中、何度忘れ物の内容が変わったのだろう。