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短編横丁  作者: 友野久遠
18/27

(18)失言

 こんな経験はないだろうか。

 ざわついた教室や狭いカフェの中で、あなたは友人と雑談をしている。

 周囲に人が密集していててんでにしゃべっているので、うるさくて自然と大きな声になる。

 やがてそれぞれが周りに負けない声を出しているうちに、次第にエスカレートして、みんなが怒鳴り合っているような状態になる。

 ところがその騒音が、突然何のきっかけもなく、ふっと途切れる瞬間があるのだ。

 たまたま息継ぎのタイミングが合ったのか、小さな音や光が人の無意識の注意を引いたのか。

 スポンと抜けたように訪れた、たった1秒ほどの静寂。

 その中に、あなたの声の尻尾だけが取り残される。

 「……っかみたーい!」

 あなたの声は、室内にこだまして大きく響き渡る。 その場の全員の視線を奪って。



 その日は、姉がおごってやると言ったので、ふたりで近所のコーヒー館に行った。

 姉の顔を見たのは久しぶりだった。 当時彼女は看護師を目指している学生で、看護学校の寮に籍を置き、家には週末に帰って来るだけだった。 そしてその週末の帰宅も、彼女が課せられている看護実習の都合で途絶えがちになっていたのだ。

 

 実習の様子を、彼女は面白おかしく話した。

 それによると、外科や内科、小児科などは附属病院に実習に行くので、受け入れ先でも実習生の対応に慣れている。 問題はあまり実習生を受け入れ慣れていない外部の病院に行った時で、外部実習で行く精神科、泌尿器科の実習が乱れに乱れて大変だったそうだ。

 

 その時、周囲はとてもうるさく、客のみんなが恥ずかしくない範囲で大声で話そうと、それぞれ顔をひきつらせているような状態だった。

 「どうしてそんな変な事やって気が付かないの?」

 「だから、インターンの先生のやることの方がもっとこわいんだったら!」

 「あはははは」

 その時それは起こった。

 “スポンと静寂”だ。

 

 静寂に乗り遅れた私の言葉の尻尾は、店内に響き渡った。

 「お姉ちゃん(あなた)が精神病院にいた時?」 


 

 コーヒー代は私が払わされた。

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