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短編横丁  作者: 友野久遠
11/27

(11)恥、かき捨てならず

 「おおッ、みッつあんじゃないか! アゲちゃんも!」

 「キョンちゃんだあ!!」


 幼稚園に就職して最初の年、系列私立幼稚園の合同新人研修会があった。

 その時前日から泊まり込んだホテルで、たまたま同窓生2人と一緒になってしまった。 しかも他の研修生とは違うビジネスホテルに3人きりという偶然。


 3人とも歌好きで、高校の軽音楽部でくっついていたアカペラ仲間だ。

 保育の世界には時々、ただ歌ったり踊ったりが好きなだけで、特にものすごく子供が好きなわけではない人間がつい足を踏み入れてしまうことがある。 私たちがそのいい例で、別に3人とも今回の研修に意欲を燃やして来たわけでもなんでもなかった。

 それで、申し込みも期限ぎりぎりだったため、会場からかなり離れたホテルに泊まらざるを得なかったのである。



 その晩、ホテルの部屋で再会を祝して乾杯し、ついでにアカペラで歌を歌って盛り上がった。

 

 ひとしきり歌った後、大浴場に3人で行ったら、他に誰もいなくて貸切状態だった。

 隣の男子浴場ともきっちり隔たったつくりだったので、鼻歌でハモっているうちにエスカレート。

 だんだん大コンサート会場のようにみんなで堂々と歌い始め、ついには裸で振り付きフルコーラス熱唱。


 「ああキモチよかったねえ」

 「オンステージやね」

 なんてことを言いながら浴場を出て、湯上りのコーラを買うためにロビーの自販機に向かった途端。

 ザーッとお湯を流す音がロビーに響いて、背筋が凍りついた。


 「ああ。ええお湯ですねえ」

 「あ、そっちは薬湯みたいですよ」

 「小林さん、こっちにあったシャンプー!」

 なんと。

 私たちの後から入ってきたおばあちゃんたちの会話が、ロビーに筒抜けだった。


 私たちの歌が、さっきまでロビーに響き渡っていたことは疑いなかった。

 そのつもりで改めて周囲を見回すと、マッサージ器を使いながら雑談をしているおばちゃんの集団が、ちらちらこっちを見ながら笑いをこらえている様子。

 受付の人はさすがにポーカーフェイスだったが、きっと陰では笑い転げたに違いない。

 ちなみに曲目は、シャネルズの「ランナウェイ」だった。



 次の日、研修会場に行ってびっくり仰天。

 あのロビーにいたおばちゃんたちが、揃って壇上に居並んでいるではないか。

 そう、彼女らは研修指導員の先生たちだったのである。

 その後の一週間、私たちが「元気の余っている新人さん」として、壮絶な指導と恥かき役のスケープゴートになったことは言うまでもない。

 

 実話です。 このほかにも歌で数回失敗してます。 そのうち書きますね。

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