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短編横丁  作者: 友野久遠
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(1)残業漬けの愛しい人へ

 うわーヤバ!

 ヤバいヤバい!ねえチーフどうしよう。

 えッ。なに。

 遅いぞって。

 

 遅いもクソもあるもんですか、今さら何モンク言ってんですか。そりゃ遅いですよどうせもう3時近いじゃないですか。夜が明けちゃいますよ。

 こんな夜中まで残業やってる会社が他の何処にあるんですか。時間のこと言っても全然説得力ないってんですよ、怒りますよホントに。


 もお。

 ほんとねえ、男の人はどうか知らないけど、嫁入り前の娘にこんな時間まで仕事させるなんてって、うちの親なんかカンカンですからね。

 営業の小西さんにも言っといて下さいよねえ、あんまり酷い仕事取って来るなって。

 なんで1週間で360ページもんのパンフ引き受けますよ?

 

 チーフだって、もう何日机に張り付いてんですか。

 お尻と椅子が同化してそのまま化石になりますよ。

 「5分でいいから横になって寝たい」はいはい、でもその前にお風呂ですよ。今日みんな臭かったよ。


 今朝、「おはよーございます」って来たら、男性社員全員並んで歯磨きしてたからぶっ飛びましたよ。

 まあ、さすがに今夜は他のみんなは帰ったんですね。

 よかった。

 え?ああ、コッチの話。


 あ、だからだから、何がヤバかったかっていうとですね。

 あたし今、家へ帰って来たじゃないですか。

 車で戻ってくる途中眠くなっちゃって、いつのまにかウトウトして、センターライン超えちゃって。

 ははは、はは、時間が時間だから対向車いなかったんですけどね。

 ものすごいびっくりしましたよ。

 チーフも寝不足なんですから、運転気をつけてくださいよ。


 で。ね、これ。

 今、家から取ってきたんですけど。

 はい、どうぞ。

 何って、プレゼントですよ。チーフ今日お誕生日でしょう?

 あーって、忘れてたんですか。

 まあ無理ないですけどね、忙しいですもんね。

 

 へへへ。あと1歩で30ですね、オヤジだね。

 机とセットの生活だから、すぐ腹も出るだろし。

 こんな3流会社で広告デザインなんて篭った仕事してたら、嫁さんも来にくいし。


 あれー?ずいぶん謙遜ですねえ。

 ホントかなあ、陰じゃずいぶんモテてんじゃないですかあ?

 ほら、渡辺女史とか仲いいじゃないですか、いいセン行ってんじゃないんですか?

 あの人、今日騒いでましたよ、「生理が止まっちゃった!」って。

 仕事のし過ぎって言ってたけどホントかなあ。

 チーフが止めたんじゃないか疑惑が浮上してんの、知ってます?


 え。あはははは。

 そんな暇あったら寝るって。

 まあそうか。横になった途端、爆睡ですかあ。確かにねえ。


 そんならあたしも、もっと早くアタックしとけばよかったかなあ。

 勇気が無くてグズグズしてて損しちゃった。

 え?なんでそんな顔して見るんですか。

 知ってたでしょ、あたしの気持ち。

 チーフのこと、好きです。

 ホントですよ。

 

 今日はわざわざその為に、みんなが帰るの待ったんです。

 だから一旦家へ帰って見せたりして、苦労したのに。

 

 チーフはいつもあたしをかばってくれて。

 あたしドジで仕事も遅いし、社長にしょっちゅう頭ハタかれてて。

 チーフいなかったら、とっくの昔にクビになってますよ。

 感謝もしてるし、…好きなんです。大好き。


 冗談じゃないんですったら!!

 も、冗談言ってる場合じゃないんですよ、時間無いんですから。

 あたしもう行かなきゃならないんですから。

 

 ホントはね、プレゼント渡して、今夜抱いてくださいって、大胆発言に及ぶ予定だったんですよ。

 だからお風呂まで済まして来たのに、台無しですよ。

 台無し。だって血だらけですもん、ほら。


 えッ、何驚いてんですか。

 だから言ったでしょ、センターライン超えちゃったって。

 対向車はいなかったですよ。

 ガードレール。激突がっちゃんこですよ。

 うん。ほら今、救急車走っていきましたけど、あれに乗ってるんです。

 体は乗ってるんだけど、もう手遅れなんです。

 チーフに告ってからじゃないと、死ぬ気になれませんからね。

 あ、そんな逃げないで下さいよ。

 大丈夫、もう行きますから。

 もう消えちゃいますから。

 ほら、だんだん消えてくでしょう。

 …ほら…

 ……ね…。

 ………ああ…損したなあ…

   ………

バブルの頃は、いつ帰れるかわからない勤務をえんえんとやってましたね。今時はこんな会社、ないと思いますが。

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