戦闘
シーフ ファナ
フードに隠れた彼の視線を追いかけるとそこには鬱蒼とした森が広がっていた。
ここが今回の目的地『非常の森』である。
極めて高ランクのパーティしか入れないため情報は出回っておらず、あたしのような一般の冒険者からすると異世界のような雰囲気が漂っている。
「さて、一応自分は何回かここに来ているからね。先導は自分が務めようかい?」
彼が試すように言葉を放つ。そう、剣士である彼が。
「それにはおよばないわ。臨時とはいえ今はパーティを組んでいるのだもの。シーフのあたしが先行するわ。」
依頼とはいえ無理矢理ついてきてもらっておんぶに抱っこなどあたしの矜持が許さない。
「了解だ。1つアドバイスだがくれぐれも油断しないようにしてくれ。」
「もちろんよ。言われるまでもないわ。」
そう言い彼の前を歩き始める。後ろから彼がついてくるのを感じつつ周囲を観察しながら歩みを進める。
周囲からは戦闘力ばかり高く見られがちだがシーフを名乗っている以上観察力にも自信がある。
しばらく進んでいると、ほら、痕跡が残っていた。
「止まって。あそこに糞が落ちているわ。あれは…ウルフ種のものかしら?」
あまり量は多くないが比較的新しい状態に見える。近くにブラックウルフがいるのかもしれない。
通常種グレーウルフの上位種ブラックウルフ。
グレーウルフは群れで行動するのに対し、ブラックウルフは単独で行動し、Cランクダンジョンでは最上位の脅威となるモンスターだ。
自慢ではないがあたしは単身で倒すことが可能だ。
「なるほど、よく見ているね。近くにいるかもしれないなら警戒して進むべきかな?」
あくまでも一般的な意見を述べる彼。でも…
「その必要はないみたいよ。お出ましだわ!」
木陰からのっそりと歩み出る巨体は予想に違わず黒い毛並み…ブラックウルフだった。
「こいつはあたしにまかせて頂戴!あたしの実力を見てもらえばこの先のあなたの不安も減るでしょう?」
得物であるダガーを抜きつつ彼に叫ぶ。
彼は方をすくめつつ1歩下がり言った。
「確かにそうだね。ならば自分は危なくなるまで控えているとしようか。」
これであたしとブラックウルフは1対1の形になる。
さぁ、あたしの実力を彼に認めさせてやろう。