道中
シーフ ファナ
道中、このどこか怪しげな同伴者と自己紹介を済ませた。
彼の名はルシル。Cランク冒険者で基本的にソロで活動しているようだ。
ジョブは剣士で見慣れない剣を装備していた。彼が言うには『カタナ』というらしい。なんでも以前、大陸を巡っていた際に流浪の民から教わり知り合いに打ってもらったそうだが、こんな横から叩けば折れてしまいそうな剣にどれ程の力があるのだろうと思うばかりである。
それよりも1番気になるのはメリッサさんと親しく話していたことである。
メリッサさんといえば超美人受付嬢として数多の男性の好意を叩き潰してきたことで有名だ。彼女にアタックして撃沈していった男の数は数えるのも馬鹿らしい程だそうだ。
そんな彼女がこの男を特別のように言ったのだ。
本人達は気にも留めていなかったようだが周囲にいた冒険者達は一様に驚きで目を見開いていた。
そこまで考えているとふと思い当たることがあった。
大陸を巡り、メリッサさんと親しい。そんな人間が1人いたではないか。
7年前、魔王と戦い停戦協定まで結んだ『停戦の3英雄』、『クリムゾン』と呼ばれた人間が。
しかし、流石にそんな人間が朝っぱらから酒を飲むような、ましてやこんな怪しげな風貌をしているはずがないだろう。それに…
その人は2年前に汚名と共に失踪してしまったではないか。
「考え過ぎか…」
「何がだい?」
思わずこぼれた言葉に返事がくるとは思っていなかったので驚きそうになるのを隠し、あくまでも平静を装う。
「こっちの話。」