同伴者、その名は
受付嬢 メリッサ
彼女は少しばかり間を置き、
「メリッサさんがそう言うならあなたに同伴を依頼するわ、おじさん。」
不承不承といった様子で頷く彼女に再び怒りが込み上げてくる。それなのにあなたは…
「ははっ。一応まだ25歳だからね。おじさんは勘弁してほしいな。」
朗らかに笑うあなたに思わず奥歯を噛み締める。
あなたはこんな小娘に侮られていい人じゃない。
あなたはもっと万人に敬われるべき人だ。
それでもあなたが望まないというのならせめて、
「ファナさん。もしも今後このギルドで活動していくのでしたら彼への中傷は控えることをおすすめいたします。仮に今、『赤かる風』のメンバーがいたのなら、あなたは無事にギルドを出ることはできなかったでしょう。正直な話、私もあなたを叩き潰したくて仕方がありません。」
殺気の乗った言葉に彼女は後ずさる。
以前のわたしのことは知らないでしょうが殺気は言葉よりも雄弁です。
「メリッサさん、そんなに怖い顔をしたら折角の美人が台無しだよ?」
苦笑を浮かべながらこちらを見る彼にため息を1つつき意識を切り替える。
「それでは依頼の内容を確認させていただきます。ファナさんは『星鈴草』の採取を目的とした『非常の森』への立ち入り。同伴者は1名。基本的に報酬はございませんが採取品、討伐証明部位の換金はギルドで行いますので帰還の際に提出していただければ査定させていただきます。そして同伴者への報酬ですが…」
「それは依頼者と要相談させてもらうよ。なに、所詮Cランク冒険者の気まぐれだからね。大した額を請求することはないさ。」
えぇ、そう言うと思っていましたとも。
本当に今回の同伴は彼の気まぐれなのだろうから。
ましてや、彼がお金で動くことなどありえない。
彼を動かすことのできる人なんてこの世界に2人位しかいないのではないだろうか?
「さて、確認も済んだことだしぼちぼち動き出そうか。夜までには帰ってきたいからね。」
そういって歩き出す彼にファナさんは驚いたような顔を向ける。
それはそうだ。通常『非常の森』へ挑む者は最低3日、長くて1週間以上は戻ってこれないというのに彼は1日で帰って来るといったのだ。
だが、彼ならそれが可能だと私は知っている。だからこそ…
「いってらっしゃいませ。」
深々と頭を下げる私を見て彼女は慌てて彼のもとに駆けていった。
「待ちなさいよ!せめて自己紹介ぐらいあってもいいんじゃないの!」
ゆっくりと彼女の方に振り返り柔らかく微笑みながら彼は答える。
「自分はルシル。ただのルシルだ。詳しい自己紹介は道中でしようじゃあないか。」
そしてまた扉へと歩き出す彼の背は誰よりも頼りがいがあり、誰よりも儚いものだった。
「いってらっしゃい、ルシル。」
ポツリと零れた私の言葉は周囲の喧騒に掻き消されていった。