『非常の森』に入るには?
受付嬢 メリッサ
虹の月20日、今日も今日とて冒険者ギルドは冒険者で溢れかえっている。
然もありなん、この王都ガルブレイズにあるこの冒険者ギルドは本部ということもありとにかく冒険者の数が多い。
有望、有力なパーティもいくつも在籍しており彼ら、彼女らに憧れて冒険者になる者も多い。
その中の1人、大変将来有望なソロの冒険者が今現在、私の頭をおおいに抱えさせている。
「だからどうしても『非常の森』に入りたいの!ランクが足りてないのも分かっているし、お金が足りなくて高ランクパーティに同行を頼めないのも分かってる!それでもあそこに生えている『星鈴草』《せいりんそう》が必要なの!責任は自分でとるから許可を出して頂戴!」
彼女はシーフのファナ。現在Dランクの冒険者でソロで活動をしているがその戦闘力はCランクといっても差し支えのない程の実力者だ。
しかし行き先が『非常の森』となると話は変わってくる。
なにせあの森に入るにはとある条件が存在する。
彼女はそれを満たしていないのだ。
そのような者が森に入るには条件を満たしたパーティ、冒険者の同伴が必要になる。なるのだが…
「何度も申し上げていますが現在森へと入る許可がおりている『銀雪の狼』、『翠緑の山猫』、『赤かる風』の3パーティは別の依頼で外しておりますのであなたに同伴できる方達はいません。そうである以上あなたが森に入ることは許可できません。」
本当は1人だけ森に入ることができる人はいるのだが探索明けであそこでお酒を飲んでいる彼の手はあまり煩わせたくない。ないというのにあなたという人は…
「それなら自分が同伴しようか。なに、1人の女性が必死になっているところを見捨てるなんて野暮なことは自分にはできないからね。」
フードを下ろしたまま彼女の隣に立つ彼に思わずため息が漏れる。
優し過ぎる。
あなたには目的があって身も心も磨り減らして今日もやっと帰って来たというのにまた困難に手を差し伸べようというのか。そしてあろうことか…
「なによ。酔っぱらいはお呼びじゃあないわ。戯言だと思ってあげるからさっさと席に戻りなさい。」
視界が赤く染まる。
あろうことかこの小娘は彼の善意を踏みつけにしようというのか!
私が声を荒げようとしたその時、
「なに、酔っぱらいということは否定しないさ。しかしながら『非常の森』に入れるというのも本当のことだからね。少しは役立てるんじゃないかと思った訳さ。なぁメリッサさん?」
オフィシャルな対応でこちらに問い掛けてくる彼に気勢を削がれこちらも事務的に対応することができた。
「確かに彼が同伴するのであればあなたが森に入ることは許可できます。もしもファナさんがどうしても森へ入りたいのでしたら彼に頼るしかありませんね。」
彼女はその言葉を聞き、疑わしげに私と彼を見比べるのであった。