プロローグ
初投稿です。
読みづらい点も多々あると思いますがご指摘いただければ幸甚です。
速きこと蝸牛が如くのペースになるかと。
受付嬢 メリッサ
朝日の顔を出し始めた、まだ人々が夢を見ている時間。
私、メリッサはギルドの受付であの人の帰りを待っていた。
始業時間よりはるかに早いのに他の受付嬢たちもばっちり恰好を整えて自分の席から入口に向けて視線を投げていた。
まぁ、私も周りから見たらそんなに変わらない様子なのだろう。
などととりとめのないことを考えていると入口の開く音がした。
朝日の差し込む入口からは黒いロングコートを纏った1人の男性、長く伸ばした銀髪を後ろでまとめて垂らし、スッと整った姿勢でこちらに歩いてくる姿は1枚の絵画のようで何回見ても息を飲んでしまう。
その美丈夫は迷いなくこちらに歩いてきて私の前で足を止めた。
「やぁ、今日もなんとか帰ってこられたよ。」
その深みのある声で語りかけてくる彼に思わず泣きそうになることを隠しいつも通りにふるまうように意識する。
「お帰りなさい。成果の方は…あまり良くなかったみたいね。」
「まぁね。探し物は探している時が1番見つからないものだからね。」
軽く肩をすくめておどけて見せる彼の目には確かな悲しみと焦燥が浮かんでいた。
「あら、これだけ稼いでいてそんなことを言うなんてあなたも大概贅沢よね。」
「お金で買える物ならいいけどこればかりはね…自分で探さないとどうしようもないからね。」
「それで他の冒険者が羨むような額を稼ぐんだもの。他の人には話せないわよ。ほんと。」
努めて明るく、おどけて話す。彼が日常に戻ってこれるように、遠くへ消えてしまわぬように。
しかし、今日は伝えなければいけない。いつもの日常を壊すその一言。彼を苦しませるその一言。
「そういえば例の日程決まったらしいわよ。虹の月中には執り行われるそうよ。」
そう告げると彼の目には確かにほの暗い感情が浮かんだ。
周りからはわからないだろうが私には彼の目に浮かぶ余りある憎悪が見て取れた。
「そうなんだ。対魔族決戦兵器『勇者』だっけ?かわいそうだよね。急に召喚されて戦うことを強要されるなんて。」
嘘偽りのない彼の言葉にまたしても涙が浮かびそうになるのを必死で隠し話を続ける。
「儀式は第一王女主導で行うらしいわ。大方の準備は彼女が済ませていたおかげで第一王女だけでもなんとかなる段階まで進んでたみたいね。」
「相変わらずすごい情報網だね。」
「昔の繋がりのおかげよ。今の司祭様達は結構仲良くさせてもらったから。」
「絶対に違う意味でも君と仲良くなりたかった人も多いんだろうね。」
「もう。意地悪なこと言うのね。」
緩やかに、穏やかにおどけながら会話を続ける。
彼はなんと優しい人なのだろう。
これから苦難にぶつかるであろう人達に心を砕き、憎いであろう人達でさえ許そうと努力しているのだ。
あぁ、だからこそ皆、彼に惹かれるのだろう。月の光のように優しく包み込んでくれる彼に。
「まぁ、自分には関係のない話さ。少し飲んだら休もうと思うよ。」
「えぇ、一応伝えておこうと思っただけだから。今日の夕方、また付き合ってくれるんでしょう?」
私の軽くグラスを傾ける仕草に彼は苦笑とともにこう返すのだろう。
「少しだけね。」
そう告げるといつもの席に向かい静かに酒に手をつける。
あぁ、願わくば、苦難の只中にいる彼に平穏なる時間を。
願いとともに私も静かに意識を切り替えて業務に取り掛かる。
今日も1日が始まりを迎えようとしていた。
「スノウ、いい加減休みなさい!夕方に休むなんて認めないわよ!」
少しばかりの騒々しさとともに。