お風呂の入り方
前回のあらすじ~
ダンジョンの罠を教えに行きました。
ギルドを出るとすでに空が赤くなっていた。
こいつはまずいと、まずは宿を確保しに行く。
前回泊まった所が、有り難いことに空いていた。念の為厩舎も確保。
そのまま夕飯に突入。昼にあれだけ食べたのに、よく食べるねクレナイ。
ハヤテも成長期かしら?以前よりも食べるようになって来ている。うん、大きくなれよ。
夕食後は少し休んで、体に着いた埃などを落としたいと、大衆浴場、つまりお風呂屋さんに皆で行くことに。
「シロガネ、お風呂の入り方って分かる?」
「? 湯に浸かれば良いのでは?」
う~ん、そうじゃなくてね~。
「お屋敷でも入れてもらったでしょ?」
「うむ。普通に湯に浸かっていたが?」
「入る前に体を洗うとかは?」
「? 湯に入るのだから湯の中で洗えば良いのでは?」
これ、あかんやつや。
大衆浴場は日本人が作ったらしく、その作法(?)も壁に書かれていたりしていたし、皆その事を知っているらしかった。
そんな中で、体も洗わず湯に入ったら、周りから大顰蹙だろう。
「シロガネだけ宿屋で待っててってわけにもいかないしねぇ」
「それはさすがに寂しいである!」
ですよね。
そして、腕の中のクロを見る。
クロも、嫌そうな顔をしてこちらを見上げた。
「クロさん」
「嫌だぞ」
「お風呂嫌いなのは分かってるけど、今回だけ、ね?」
「嫌なのだ」
「いや、ここでシロガネが周りから顰蹙を買うと、今後のこの街での私達の行動が…ね?」
「・・・・・・」
クロが渋い顔をしている。
さすがに真正面から文句を言ってくる人も、いない…いるかもしれない。
しかし、私は男風呂に入ることは出来ないので。
となると、男の人となったら、クロしかいないわけで…。
「マグロで手を打とう」
「向こうに帰ったら1回だけマグロ祭りしよう」
契約は交わされた。
人気のない路地に行き、クロが人の姿に化ける。
いつ見てもまぶしい顔ですこと。(私限定)
ぞろぞろお風呂屋に行って、私とクレナイは女湯。今回はハヤテも男湯に行ってみてもらうことにした。
ハヤテがいればクロ達も喧嘩しにくいだろうしね。
「いい、ハヤテ。クロとシロガネが喧嘩しないように、見張ってるのよ?」
「あい! あるじ!」
使命を帯びたハヤテが、特にぐずる事もなく、素直に男風呂に行ってくれたのは有り難かった。
やはり、役割を与えると素直に動いてくれるよね。
私とクレナイと、頭の上にリンちゃんを乗せて、女湯へと入って行った。
無事にお風呂で過ごせますように。
「ほれ、行くぞ」
「ふん。仕方ないであるな」
「けんかしちゃだめー」
「分かっておる、ハヤテ。我が輩達は喧嘩などしとらぬぞ?」
「うむ。我ら、喧嘩などしていないであるぞ」
ぎこちない笑顔で笑い合う2人。
ハヤテを伴い、3人は男湯の方へと入って行った。
まずは衣類を脱ぎ捨てて、と行きたいところだが、シロガネもハヤテも脱ぐ手間がいらない。
クロが周りの目を逸らしている間に、すでにスッポンポンになっている。
クロは、そこのところリアル様式のようで、服を脱ぎ、籠の中に入れた。
「おふろ~」
すっかり風呂好きになったハヤテが、駆け込もうとするのをシロガネが押さえる。
「これ、走ったら危ないであるぞ」
「あい」
主にも言われていたことを思い出すハヤテ。素直な良い子である。
「人の常識として、せめて前を隠せ」
手拭いをシロガネに差し出す。
「ぬ? 前?」
馬はそんなこと気にしたこともなかった。
「ペガサスである!」
シロガネが誰かに向かって突っ込んだ。
自分でも誰に向かって突っ込んだのか分からず、不思議な顔をしている。
「人の常識を覚えろと八重子にも言われているだろうが。このように、股間を隠すのは常識なのだの」
「そ、そういうものなのか…」
素直に受け取り、前を隠す。
「ハヤテもー」
真似ッ子ハヤテも手拭いを受け取り、クロの真似をして前を隠す。長すぎて引き摺ってます。
「人間は無闇に陰部を晒したりはしないのだの。覚えておけ」
「む、なるほど」
馬なので全く気にした事がなかったシロガネ。
「ペガサスである!」
またもや何処かの誰かにツッコミを入れたシロガネ。
「何を言っておる。行くぞ」
「う、うむ」
誰にツッコミを入れたのかよく分らない顔をしながら、シロガネもクロ達の後に続いた。
シャワーは作れなかったようで、かけ湯用のお湯でまずは体を濡らす。
一通り頭から足の先まで備え付けの石鹸やシャンプーなどで洗い、汚れを落とす。
その作法を教えにやって来たクロなので、仕方なく自分の体も洗っている。
頭を洗うのがちょっと怖々だったりするのだが、シロガネなどもいるので、そんなことおくびにも出さぬように振る舞っている。
「なるほど、入る前に全身を洗うのか」
「洗わぬと、湯に入った時に湯が汚れてしまうであろう? お主も汚れた湯になど入りたくはないであろうの」
「ぬ。確かに。そのような事考えたこともなかったである」
「やはり馬」
「馬ではない!」
「けんかだめなのー」
「「…すまぬ」」
安全の為にも、ハヤテを2人の間に挟んで座っている。
なので2人も喧嘩しにくかった。良い傾向である。
湯に入る時もゆっくりと。ハヤテは入りにくかったようで、後ろ向きになって入っている。
湯に肩まで浸かると、何故か自然に目を閉じたくなるもので。
「はあ~、良い湯である」
シロガネは早々にのんびりモード。
「少々熱くはないか?」
クロは肩まで浸からず、胸の辺りまで。暖かくて気持ちいいのだが、やはり水は苦手であった。
「はあ~」
ハヤテはシロガネの真似をしている。
「ほれ、手拭いを湯につけてはいかんの」
ハヤテの手拭いを拾い、しっかり搾って畳むと、その頭に乗せた。
「おお?」
ハヤテが面白がって、タオルを落とさないように遊び始める。
「ほお、これを湯につけてはいかんのか」
「一応衛生面からとは聞いておる。まあ、浸けない方が無難であろう。郷に入っては郷に従えだの」
「なるほど、なるほど」
風呂の縁に置いておいた手拭いを、シロガネも頭の上に乗せた。
「む、存外滑りやすいのであるな」
そう、結構頭からずり落ちるんですよね。
上手い具合に置いて、くつろぎだすシロガネ。
「おい、ハヤテから目を離すなだの」
「うむ~? ハヤテも楽しそうに遊んでいるからいいではないか」
「子供は周りが見えておらん。こういう場では周りに合わせて大人しくするということも学ばせねばならん」
子供は時に奇声を上げたり、走り回ったりする。それはきちんと大人が注意しなければならない。特に走り回ったり泳いだりするのは、周りにも迷惑な上に、下手をすると怪我人が出る。これはまずい。
ハヤテは今は大人しく、手拭い落とさないぞゲームを静かにやっているからいいものの、子供から目を離すのはよくない。
湯船の中だと、溺れていても気づけない、なんてこともたまにあるので。
まあ、ハヤテは大丈夫だろうが。
「ハヤテ、我が輩はもう出るが、お主はどうする?」
「う?」
首まで浸かっているハヤテはすでに顔が真っ赤である。
「でう!」
上がろうとするクロを追いかけた。
「よし。では、湯に溶けてる白いのは置いて行こうの」
「う?」
ハヤテがシロガネを見ると、クロの声が聞こえていなかったのか、蕩けたような表情でシロガネが肩まで浸かっていた。
じじ臭いな。
とある小説にはまりまして、ブックオフ行脚しております。
久しぶりに行こうとした店舗が、いつの間にか閉店してました。
ガッデム!
落胆しました。




