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異世界は黒猫と共に  作者: 小笠原慎二
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尻尾は正直

前回のあらすじ~

お嬢様言い負かして泣かせちゃった。

折角なので、フリード君と皆で戯れていると、しばらくしてウィルシアがすごすごと戻ってきた。


「貴女! お父様に何を言ったのよ! 私のお願いをお父様が聞いてくれないなんて!」


とプリプリと怒っている。

おお、領主様は私の条件をちゃんと守ってくれたのだね。いい人だな。


「そりゃあね。貴女のお父様と、貴女の面倒を見る代わりに、幾つか条件を出したからね。それをきちんと守って下さるなんて、良い人だなぁ」


普通貴族の人って、一般市民を見下して、約束なんて簡単に反故にしてしまうものだからね。


「どんな条件を出したのよ?」

「んふふ。まず1つ目は、お嬢さんにどんな態度を取っても不問にすること。2つ目は、私が解決したと報告するまで、勝手に解雇しないこと。3つ目は、これはお嬢さんの問題なのだから、親が口出ししてこないこと。以上の3つです!」


全部クロの入れ知恵です。


「…、だから貴女、私に対して、そんな態度を取ってたのね」

「その通り!」


不敬罪にされません。

ギリギリとこちらを睨んで来るけど、無視。子供に睨まれても怖くもないわ。


「それよりもシア、フリードを手放す気になった?」

「勝手に人の名前を略さないで! それに、手放す気なんてないわよ!」

「だって、ウィルシアって長いんだもん。ウィルだと男の子っぽいから、シアで」

「だから略すな!」

「いいじゃん。私のこともエーコって呼ぶことを許そうではないか」

「呼ばないわよ!」

「ノリが悪いよ」

「そういうことじゃないでしょ!」


いや~、子供ってからかうと面白いわ~。


「ねえシア、このフリード、思った以上に賢いよ」

「だから略すなって!」

「お手」


右手を乗せてきた。


「無視するな!」

「おかわり」


左手を乗せてきた。


「おみ足」


右後ろ足を乗せてきた。


「ね!」

「なんで足まで…」


面白いからいいじゃない。


「ふせ」


伏せた。


「コロコロ」


転がった。

こらこら、ハヤテも転がらない。


「バァン!」


動かなくなった。

ハヤテとリンちゃんも芝生の上で動かなくなる。


「ね!」

「最後のは何よ…」


面白いからいいじゃない。


「この子賢いわ~。教えたこと片っ端から覚えていくんだもの。偉い偉い」


撫でてやっていると、ハヤテとリンちゃんも頭を押しつけてくる。

はいはい、皆をナデナデナデ。

クレナイはしないっつーに。あっちで寂しそうな顔してるシロガネと待ってなさい。

クロは相変わらず肩の上。ずっしり感がないのは、何か力を使っているのかな?


猫を肩に乗せて~なんて憧れるかもしれないけど、じっさい、4、5㎏(太っていればそれ以上)もする物体が肩に乗っていると、かなり重いです。

重くなってくると、妖怪こにゃき爺が現われたと、家族皆で笑っていたものだなぁ。


「じゃあ、なんで私は…」


恐る恐る手を伸ばし始めると、


「うぅ~…」


唸り始めた。

余程嫌われてるんだね~。


「私、何もしてないのに…」


シアの目がちょっぴり潤んできた。

悔しいのか悲しいのか。どちらもか。


「よし。シア、まずはフリードと仲良くなる所から始めましょう!」

「な、何言ってるのよ。近づくだけで唸るのよ。仲良くなんて…」

「まずは基本のナデナデから。はい、座って」

「貴女、人の話聞かないでしょ!」


良く言われる。


「犬には上から目線の方が確かにいいけど、最初は目の高さを合わせてあげないと。怖いものが怖いままだよ」

「私、怖くなんてないわよ!」

「そう思ってるのは自分だけでしょ。フリードの気持ちになってみたら? 毎回顔を合わせると怒鳴ってばかりの人なんて、人間でも怖いと思うでしょう」

「う…」


心当たりでもあるのかな?

恐る恐る私の隣にしゃがんだ。


「か、噛みつかない?」

「フリードに言って聞かせるね」


シロガネを通じて(クレナイとハヤテは怖がる為)、フリードにシアに噛みつかない、襲わない、唸らないなどを伝えてもらう。タングスさんをいじめていたわけではないと言うこともきちんと言い含めてある。

シロガネが頷いてこちらを見た。

私も頷いて、シアを見る。


「まずは手を出して。臭いを嗅いでもらうのよ」

「なんでそんなことするのよ」

「犬の嗅覚は人間の1億倍って言われてるの。人間が分からない臭いさえも嗅ぎ分けてるらしいわ。だからまず初めに、臭いを嗅いでもらって、自分を認識してもらうの。それに、犬の挨拶って、お互いのお尻の臭いを嗅ぎ合うのよ」

「ええ? お尻の臭い?!」

「そうよ。犬の挨拶見たことないの?」

「ないわ…。ていうか、どこでそんなこと教えてもらったの?」


主にテレビから。ではなくて、


「え~と、私の故郷では、犬や猫をペットとして飼うことが多くて…」

「だから猫を肩に乗せてるのね」


これはクロが犬を嫌がっているからです。


「これは、クロ、この猫が、このわんちゃんを嫌がってるからよ」

「猫って犬が嫌いなの?」

「そうよ。そういうことも知らないのね」

「知らないわ。そんな授業なんてないもの」


そうだよね~。貴族のお勉強で、動物に関してはやらないだろうね~。

魔獣とかについては倒し方とか勉強しそうだけど。


「では、こうやって手を出して」

「こ、こう?」


恐る恐る手を鼻先に持っていく。

猫もそうだけど、犬も反射的に臭いを嗅いでしまうのね。

猫は鼻先に指を持っていくと、臭いを嗅ぎます。手をグーにして近づけても、嗅ぎます。

あの時の鼻の動きが可愛い…。

噛みつくこともなく、唸ることもなく、臭いを嗅いでもらう挨拶はすんだ。


「じゃ、今度は撫でてみようか」

「だから、触ると唸るって…」

「大丈夫。言い聞かせたから」


シロガネを見ると、ゆっくり頷いた。


「言い聞かせるって…。そんなこと出来たら…」

「まあまあ、ほら、こうやって、頭を優しくね」

「ひ…」


唸られて吠えられていたせいか、ちょっと縮こまってしまうシア。


「フリード、大丈夫だよね?」


にっこり笑いかけると、尻尾を軽く横に振る。なんて良い子。


「ほら、尻尾を横に揺らしてるでしょ。あれは、機嫌がいい証拠よ。今のうち!」

「え? 尻尾を揺らすと、機嫌が良いの?」

「犬は喜ぶと尻尾をブンブン動かすのよ。猫は反対に、尻尾をぴーんと上げるんだけどね。あれが可愛いんだな~」

「へ~、動物でも違うのね~」


「そうだよ~。お世話するとそういうのが自然に分かって来て、相手が嬉しくなると、こっちも嬉しくなってくるんだよ」

「そうなの?」

「そうだよ~。クロの頭ナデナデして、ゴロゴロ言ってくれたらもう、超絶嬉しいし!」

「ゴロゴロって何?」


「あれ、知らないのか。猫は嬉しくなったり気持ち良いと、喉のあたりをゴロゴロと鳴らすのよ。猫のゴロゴロは聞いててなんだか安らぐんだよね~」

「へ~、その黒猫は、言わないの?」

「ふふん。夜寝る時とか、甘えてくる時によく言うわよ。これで結構甘えん坊ちゃんなんだから」


クロが顔を背けている気がする。

私が撫でている所に、シアが手を伸ばしてくる。

フリードは吠えない。でも尻尾のユラユラが止まった。ちょっと警戒してるみたいだ。

恐る恐るシアが、フリードの頭を撫で始めた。

そして、すぐに手を引っ込めてしまった。やはりまだ怖いらしい。


「なんか、ツルツルしてるわ…」


犬の頭の毛は猫と比べると固いからね。犬好きの人はそれが堪らないらしいが。


「毛並みに沿って優しくね。その時に、名前を呼んで、良い子ね~って言ってあげると、喜ぶから」

「良い子?」

「良い子でしょ」


私の手はフリードをナデナデしている。反対の手は、ハヤテとリンちゃんを代わる代わる。何気に忙しい。


「シアも、お父さんとお母さんに、頭を撫でてもらって褒めてもらったら嬉しいでしょ?」

「・・・。まあ、そうだけど…」

「犬も猫も一緒。撫でて上げて、褒めて上げる。これ大事」

「そうなんだ…」

「そうよ~。私なんかはね、毎度クロをなで回す時は、「クロさん良い子ですね~。今日も毛並みがお美しい。なんて美しい濡れ羽色。あなたのこの黒は、今日も輝くような美しさですね~」とか、普通に言ってるわ」


タングスさん、何故目を背けるのですか。


「そ、そこまで言うの?」

「そうよ! そこまで言うのよ! さあ! 言ってごらん!」

「う…、えと…、き、綺麗な、えと? 綺麗な、毛並み、ですね…」


辿々しく撫でながら、良いながら、シアがフリードの頭を撫でる。

すると、ゆっくりと小さくだが、フリードの尻尾が横にユラユラと少し揺れた。


犬は飼ったことないので、分かりかねます。

むか~しの記憶の底から引っ張り上げてきた犬の記憶を頼りに書いてます。

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