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異世界は黒猫と共に  作者: 小笠原慎二
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ナットーの街の奴隷商にて

宿屋に戻り、いつもの部屋へ。

さすがに満腹だし、もう動きたくない。


「明日も食べられるなんて…。ちょっとこうなって良かったかも…」


あの時は冷や汗ものだったけど、結果を見てみれば結局私のお腹に入るだけなので、私が得しているだけな気がする。


「八重子はあとは寝るだけだの」

「クロもでしょ~?」

「我が輩、ちょっと出かけてくるの」

「トイレ?」

「それもある」


それもってことは、他にもあるのか?

まあ、もう眠くて聞く気にもならなかったので、気をつけてねと言って布団に潜り込んだ。

そのまま私は夢の中…。











八重子が眠ったのを確認し、クロは窓をそっと開けて外に出た。

念のため、きちんと締めて、鍵も妖力で閉める。

これで戸締まりは心配ない。

2階からのダイブも、今のクロには苦ではない。楽々と着地し、暗闇の中へと身を潜らせた。















ナットーの街の一角に、奴隷商の館がある。

そろそろ店じまいをしようとしていた店主が、来客に気付いた。

店に入ってきたのは5人の男。


最初に入って来たのは端整な顔立ちの黒髪に金の瞳の青年。上から下まで真っ黒な服を着ており、動きもとてもしなやかで、どこかの貴族かと思わせた。

後に続いてきたのは、なんだかぼーっとした柄の悪い4人の男達。

身に付けているのが粗末な服だけで、その他荷物を一切持っていないのが気になる。


「いらっしゃいませ。どういったご用件で?」


店主自ら、この怪しい客達を迎えた。

店主の頭の中で、よく分からない警告音が鳴り響いていた。


「ちと人を拾ってな。売りに来たのだが、買ってくれるかの?」


人を拾った?


訳の分からない言葉を頭の片隅に起きつつ、店主は立ち話も何だと、いつもの来客用の応接室へと案内した。

ぼーっとした男達は無言で後に続いてくる。

その異様さに、店主の背筋が少し寒くなった。

ソファに黒い男が座り、対面に店主が座る。

4人の男達は、綺麗に黒い男の後ろに並んだ。

店主はなんとか笑顔を作りつつ、黒い男へと声をかける。


「この店は初めてですよね? 私は店主のガウストと申します。以後、お見知りおきを」

「我が輩はクロと申す。よしなに」


黒いからクロという暗号名なのだろうかと、ガウストは密かに首を傾げた。


「それで、人を売りたいと?」

「うむ。

 森で此奴らを拾ったのだが、見ての通り、精神を食われたのか、まともに人として動こうとはしなくての。

 我が輩も面倒を見切れるわけでもなし、となれば奴隷商にでも売ってやった方が、此奴らのためかとの」


森で拾った?精神を食われた?

聞き慣れない単語に驚きを隠しながら、クロの話を聞き続ける。


「見ての通り体格はいいし、命令は忠実にこなすし、文句も言わぬ。

 飯も適当に用意してやれば文句も言わずに食うだろう。まさに理想の奴隷かと思うが、いかがかの?」


確かに、体格が良いので力仕事には向いているだろう。しかも命令に忠実で文句も言わないとなれば理想の奴隷であろう。ただ、力なくぼーっとした顔が少し不気味なだけで。

まともに人として生活できないとなれば、確かに命令を受けて動いている奴隷であった方が余程人間らしく生きられるのかも知れない。なるほどと納得する。


「分かりました。そちらの4人、当店でお引き取り致しましょう」

「うむ。値段はそちらに任せよう」

「かしこまりました。では急いで契約書を用意致しますので、少々お待ち下さい」


ガウストは席を立つと、急いで事務所へと向かう。

売買契約書を用意し、金額を書く欄でふと手を止める。

あの男達、正規の値段ならば、金貨5枚はくだらないだろう。

なので正規の値段ならば、金額は金貨20枚。


しかし、商人は正直過ぎてはいけない。

時に駆け引きをし、自分が得になるようにいろいろ画策できてこそ一人前。

ガウストは見積もりよりも少なく、1人頭金貨3枚分の金額、金貨12枚と書いた。

クロと名乗ったあの男、油断ならない相手ではありそうだったが、奴隷を売りに来るのは初めてのようであったので、上手くすればこれで話を進められるだろう。

ガウストは金額を記しながら、ほくそ笑んだ。

契約書を携え、応接室へと戻る。


「お待たせ致しました。こちらが契約書になります」


店用と控えを渡して見せる。

それに目を通し、クロがガウストを見つめた。


「これは、お主が書いた金額か?」


金の瞳に見つめられ、ガウストは途端に動けなくなる。


「そ、その…、何か、ご不満でも…?」


どうにか声を絞り出す。


「我が輩が聞いていることはただ一つだ。これは、お主が書いた金額か?」


うっすらと笑みさえ浮かべている男の金の瞳から、ガウストは目を離せなくなる。

離した途端、何故か命がそこで終わるような気がした。

視線を外した途端、首と体が別れる、バラバラに引きちぎられる、上下に二分割される…。

何故か頭の中を惨殺される光景が浮かんでくる。

体が小刻みに震える。冷や汗が止めどなく溢れてくる。息をするのも苦しくなってくる。


「書類をよく見て見ろ。今ならまだ、間に合うぞ?」


クロが金の瞳を閉じ、書類をガウストに投げて寄越す。

途端、金縛りから解かれたかのように体が動き、深呼吸してしまう。

汗が止まらない。

慌てて書類を手にし、大袈裟に書類を見る振りをして、

「おお! これは、どうやら、用を頼んだ者が間違えたようですな! 急いで作り直して参ります!」


少しわざとらしく大きく身振りで間違いを宣言すると、ガウストは急いで部屋を出た。

事務所に駆け込み、全身で呼吸し始める。


(なんだあの化け物は?! あれは人なのか?!)


1人になって、改めて体中が震え出す。自分の歯ががちがちと鳴ってうるさいくらいだった。

待たせるのも怖いので、震える手をなんとか押さえつつ、新しい書類を作成した。

金額を直しただけでは怖かったからだ。


今度は金額欄に、1人頭金貨7枚、合計金貨28枚と書いた。

上乗せしたのは許しを請うためでもあった。これで許してくれればいいが…。

気持ちを落ち着け、応接室へ戻る。

扉の前で一度深呼吸し、中へ入った。

改めて書類を見せると、クロは柔らかく微笑み、


「ふむ。勉強になったの」


そう言った。

それは自分に対しての言葉なのだろうかと、ガウストは密かに震えていた。

すぐさま金を用意し、袋に入れて渡した。

正直、さっさと出ていって欲しかったので。


「うむ。今回は良い取引をさせてもらったの。

 もし我が主が奴隷を所望した時は、お主を世話すると約束しよう。その時は是非頼んだぞ」

「はい! もちろんでございます! その時できうる限りの最高の奴隷を用意致します!」

「うむ。しっかりの」


クロはそう言うと、夜の闇へと消えていった。

ガウストは大きく息を吐き、とりあえず助かったと、人心地付いた。

何よりガウストが驚いたのは、あの化け物のような者に、主がいるということだった。


(あんな化け物を従える者なんて…)


絶対に会いたくないと思ってしまうガウストであった。



ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

ここはちょっと書いてて面白かった部分です。

何故クロの声が「関智一」さんになったのか考え、ふと思い出してみれば、「FATE」に出てくるあのいけ好かない王のせいかもしれない・・・と納得。

ギルガメッシュ王、でしたっけ?

あの王は「我が輩」とは言ってなかったはずだけど・・・。

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