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異世界は黒猫と共に  作者: 小笠原慎二
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たかが鳥、されど鳥

「今日はこのくらいでよかろう」

「今日は荷物楽だわ」


ほっと息を吐く。

今日の成果は薬草20本に、なんかの鳥が2羽と、角ウサギ1匹。


「これ、なんて鳥?」

「知らん。持っていって売れなければ、宿屋で調理してもらっても良いのではないか?」

「食べられる鳥なの?」

「買い取り嬢の頭の中にはあったの」

「・・・。のぞき魔…」

「嫌な言葉で言うな」


黒っぽいキジのような鳥。大きさは鳩より少し大きいくらい。

持っていくのが楽で良い。

2羽と1匹を縄で縛って、大きな枝の先に吊るして、肩に担ぐ。

お昼を過ぎた頃か。まだ陽は高い。


「・・・。まあ、薬草採っても、銅貨1枚だしね…。」

「なんか言ったかの?」

「なんでも」


こんなに早く帰って良いものかとも思ったけど、早くて悪いこともない。

慣れた道を街に向かって歩き出す。

クロも後になり横になり付いてくる。

はあ、ちょこまかのあんよがめっさ可愛い…。

ちょこまか歩くクロを愛でながら、街までの道を急いだ。


途中、来る時にはなかった空になった革袋や、古めかしい防具なんかが落ちてたけど、あれってやっぱりクロがやったんだよね?

クロに聞いても、「悪者をちょいと懲らしめた」としか言わず、何故頭を下げられたのか、あの子達は何だったのか何も教えてくれなかった。

てことは、落ちてたアレは、悪者達が落としていったのだろうけど…。

何故防具?わざわざ脱いで行くなんて、どういう状況だったんだろう?

クロに聞いても教えてくれないし、考えてもさっぱり分からなかった。











街に戻ると、衛兵のおじさんが、私の持っている鳥を見て、なんかブツブツ呟いていた。

よく分からないけど、一応お辞儀して、街に入る。

なんでおじさんがそんな事になっていたのか、ギルドに行って分かった。


「こここここここ、これって・・・・・・・・・・」


買い取りカウンターに置いた途端、買い取り嬢が鶏のようになった。

何があった。


「しょ、しょしょしょうしょうお待ちください!!」


何故か奥に引っ込んだ。

首を傾げて待っていると、案内嬢のエリーさんも、なんだか呆然としてこちらを見てる。

何があった?

と、奥から作業着姿の男の人と、買い取り嬢が姿を現し、こちらへと近づいて来ると、カウンターに置かれた鳥をじっくりと見始める。

エプロンに血が付いてるから、きっと解体専門の人なんだろう。


「信じらんねぇ…。こいつは、虹彩雉だぜ…」

「コウサイキジ?」

「かなりレアな鳥でな。警戒心も強く、滅多にお目にかかれない。

狩るのもようやっと姿が見えるかの距離から、一撃で矢で落とさなければならない。

その難しさからAランク指定になってる鳥だ。あんた、よくこの鳥を2羽も獲れたな」

「・・・。偶々です」

「・・・。弓も使わず?」

「・・・。偶々です」


視線を逸らす。これ以上突っ込まれても何も言えません。だって、実際に獲ったのはクロだし。


「でも、獲るのが難しいくらいで、なんでAランクに?」


難しいだけではAランクなんて付かないだろう。

この鳥に何かあるのだろうか?


「この鳥はな…、美味いんだよ」

「美味い? それだけ?」

「調理した後にまるで七色に光るように見えることから、虹彩の名が付けられたんだ。

その味は天下も揺るがすと言われてる。下手すりゃ、王族が買い付けに来られるかも知れんものだぞ」

「たかが鳥1羽の為に?」

「それほど美味いってことだ。一度食べたら忘れられん程に美味いと」

「へえ~。で、おいくら?」

「・・・。売って良いのか?」


そう言われると、ちょっと食べてみたくなる。まだ売る前だから私のだし。


「解体、調理をギルドで請け負うことも出来るぞ。その場合余った分だけギルドで買い取る。

1羽だけ売って、1羽は自分で食ってみたらどうだい?」


なるほど、それは良い案だ。


「それで手を打ちましょう」

「いいぜ! 請け負った!」


おっちゃんが良い笑顔で笑った。


「そんじゃ、この1羽は金貨100枚で引き取らせて貰って、もう1羽は解体して調理して、残った部位はもらって、それを解体、調理の料金に当てるぜ」

「ちょっと待て、金貨100枚?」

「なんか不服か?」

「い、いや、鳥1羽に? 金貨100枚?」

「安いか? それ以上となると、ちょっとギルマスに相談しなけりゃ…」

「いいえ! 金貨100枚で結構です!」

「いいのか?」

「いいです!」


大金過ぎて怖い。

貧乏人が大金持つと碌な事ないよね。

と、思い出したけど、銀行システムがあったんだ。

金貨100枚はそちらに振り込んで貰っておく。


角ウサギはいつも通り銀貨2枚、薬草は銅貨2枚。

ああ落ち着く。

解体、料理はしておくから、夕飯頃にまたおいでと言われ、ギルドを出た。


「一気に100万手に入ったよ…」

「良かったの。これでしばらくは遊んで暮らせるの」

「反対に怖くて眠れないかも…」

「子守唄でも歌ってやろうかの」

「猫って歌えるの?」

「・・・。歌ったことないのう?」


でも昔話では、猫ってほっかむりして歌って踊ってたような…。


「ちょっと見てみたい…」

「冗談も気をつけないといけないかの…」


宿屋に戻ると、早いと文句言われた。

え~、早いのは良いじゃん。と思ったら、掃除などをしているからもう少し外に行ってきて下さい。と追い出された。

ウララちゃん、働き者です。


ウララちゃんの宿屋は家族経営で、お父さんが主に調理場、お母さんとウララちゃんが受付や給仕、掃除などを担当しているらしい。

それなりに防犯もしっかりしているため、女性のお客さんが多いのだとか。

まあ、女ですからね。


夕飯は諸事情によっていらなくなりましたと声を掛けたら、ちょっと悲しい顔された。

ごめんね。今日はご馳走をギルドで食べるのよ。

虹彩雉を捕ってきて~と説明してたら、食堂の奥からドタドタとお父さんが走って来た。


「虹彩雉だって?!」


ウララちゃんとはあまり似てない、いや、よく見たら目が似てる?


「ほ、本当に?! 本当に虹彩雉なのかい?!」

「はあ、ギルドで見て貰ったから、間違いないかと…」

「是非! 是非僕に調理させてもらえないかい?!」


おやっさん、目がマジですぜ。

聞けば、虹彩雉を調理するのは、料理人の夢でもあるとのこと。


「で、でも、もうギルドに頼んでしまって…」

「ギルドに交渉しに行ってくる!」


お父さん、凄い早さで飛び出して行っちゃった…。


「と、父さん! 今夜の仕込み…って聞いちゃいないわね…」


他のお客さんのことも忘れないでいてあげて。

ここは1階が食堂で、結構美味しいので、泊まるお客さん以外も食べに来る。

私の為だけに調理してたら、他の調理できないのでは?

さすがに心配になったので、心配そうなウララちゃんに見てくると伝え、再びギルドに逆戻りした。














買い取りカウンターで押し問答が繰り広げられていた。


「もうギルドが請け負うと言ったんだから、これはギルドの仕事だ!」

「それはうちで泊まっているお客さんの物なのだから、うちで調理するべきだ!!」


さっきのおっちゃんとお父さんが睨み合っている。

うわあ、これどうしたらいいんだろう…。

つっと袖を引っ張られ、見るとエリーさんが立っていた。

カウンターからこちら側に来るのは珍しい。


「冒険者の方にお願いするのも何ですけど、どうにかなりません?」

「・・・。私もどうしたらいいか…」

「ですよね…」


お互い溜息。

互いが譲らず、平行線のがなり合いをしていた時、


「何やら騒がしいね」


40くらいのおっとりした感じの男の人が出て来た。


「ギルマス…!」


エリーさんが息を呑む。

え?あの優しそうな人がギルマス?つまりギルドマスター?


「ぎ、ギルマス…」


解体のおっちゃんが言葉に詰まる。

え?気圧されてる?恐がってる?あの優しそうな人に?

宿屋のお父さんも、ピタリと口を閉じている。


「何があったんだい?」


一番近くにいた買い取り嬢が、ギルマスに事の次第を簡単に説明し始めた。

説明が終わると、ギルマスがふむ、と頷き、


「なるほどね。では、当事者のお嬢さんは、どちらに仕事を頼みたいと思ってるんだい?」


こっちに丸投げしやがった―――!!

2対の瞳が、こちらをギラリと睨み付けてくる。


「「うちだよな!!」」


同じ台詞怒鳴ってるよ。

皆に注目されて、冷や汗が…。

ここで上手く答えないと、これからの私のこの街での暮らしに影響するんでないか?!

とんでもない問題を出されたもんだよ!


ない頭を必死にフル回転。

どうしたら波風立てずに問題を収束できるのか…。

先程の解体のおっちゃんの言葉を思い出し、これでダメならどうしようと思いながら、質問を口にする。


「あ、あの、先程、余った部位は買い上げるって言ってましたよね?」

「ああ、そうだが」

「それじゃ、余った部位、買い上げないで、私に、というか宿屋のお父さんに預けて下さい。

それで調理して貰って、私がまた食べます。それでいかがでしょう?」


ギルド中がしんと静まりかえる。

ちょっと待て。この静寂怖いんだけど!


「なるほど!」

「その手があったか!」


おっちゃんとお父さんが、がっちり握手した。

一先ず騒ぎは収まったようで、良かった良かった。

何故かギルドに拍手が鳴り響いてるけど、これは私への労いだよね?

男の友情に芽生えました感じの2人へではないよね?!













その後、お父さんはギルドで何処の部位を使うだのを確認して、明日取りに来ると言って帰ったらしい。

私は疲れたので先にギルドを出て、ウララちゃんに報告しに行ったよ。

ウララちゃんもほっとしてた。

部屋の掃除はもう少しかかるというので、折角なのでと街に繰り出した。


「そういえば、この街全然見てなかったね」

「この世界に来ても引きこもっていたものな」

「引きこもり体質なもので」


大きめの街と言えど、王都ほどではないということで、しばらく歩くといつも使っている門と反対の門に辿り着いてしまう。

出店なんかも結構出ていたし、ちょっと小腹が惹かれたけれど、そこはぐっと我慢して、折角なので武器、防具の店も覗いて見た。


武器は重くて持てなさそうなものばかりだし、剣を持っても剣術知らないから、きっとランドセルに背負われてる小学1年生みたくなってしまうだろう。

ナイフをちょっと見て、値段を確認し、もう1本くらい買っといても良いかしら?とちょっと悩む。今はいいやと店を出た。


防具も見たけど、重そうだし、付け慣れないと動きを阻害されそうで、なんとなく買う気になれない。でもちょっと憧れなんかもあって、いろいろ触ってみてしまった。ごめんさない。

本屋はないかと思ったけど、この世界では紙はまだ高級な物かも知れない。

コピー機がなければ人の手で写本されるはずだし、あってもそれほど出回っていないのではないかと考えつく。諦めた。


全部見て回るほどの時間はなかったので、また機会があればと早めにギルドへ戻った。

今晩はギルドでお食事です。

やって来たことを伝えると、テーブルに案内される。

クロも食事が来るまでは椅子で待機することに。

その姿にまた萌え。


クロを撫でながら待っていると、すんごく良い匂いが鼻をついた。

こ、これがそうなのか?!

運ばれてきたお皿を覗いてビックリ。焼けた匂いがするのに、何故か鶏肉は光り輝いている。

なんじゃこりゃ!!


「虹彩雉のステーキです」


給仕のお姉さんがそう言って立ち去った。こっそり袖で口元を拭いてるのが見えたけど、気付かないふり。

その場にいた冒険者達も、私のテーブルを覗き込み、皆一様に喉を鳴らしていた。

そりゃ、これだけ美味しそうな匂いがしてたらね…。

クロの分も切り分けてあげて、お皿に載せて、クロがテーブルの上に上がり、お行儀良く食べ始めた。

お、クロが珍しくがっついてる。それほど美味いのか?


クロは結構なんでも食べてくれる子なので有り難い。美味しいご飯を買うと、見るからに美味そうにがっついてくれるその姿は素直に嬉しい。

安くてそれなりのものは、それなりだ。素直な奴め。

私も早速、一切れ口に運ぶ。


一瞬、美味さのあまり、気絶しそうになった。

目から光出てない?口から怪光線吐き出してない?

我に返って口に手を当てるが、もちろん何も出てません。


いつの間に飲み込んだのか、既に口の中にお肉はなくなっていた。

次こそもっと味わってやると口に入れるが、その度に昇天しそうになる。

気付けば皿の中からお肉は消え去っていた。


「ば、ばかな…。もう、食べ終わってしまっただと…!」


お腹が大分満腹になっているので、かなり食べたことは分かるのだが、何故だか物足りない。

もっとあの味を味わっていたかった。

クロを見ると、ちょっと物欲しげな顔をしていた。

すまん、途中から忘れてたよ…。

何となく物足りなさを感じつつも、お腹はもう入らんと悲鳴を上げていたので、一応礼を言って引き上げようとすると、ギルドの料理長が出て来て、私に頭を下げた。

よく頭を下げられる日だこと。


「調理をさせていただき、ありがとうございました」


と手を握られる。

そんなに凄いことだったのだろうか?と疑問に思いながらも、笑顔で答えた。



ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

いつの間にか評価ポイントも頂いており、感謝感激でございます。

もっとポイントが付いたら、執筆速度も上がるかもしれません(あおり)。

さすがにストックもなくなったので、今日もう一度更新したら、しばらくは更新できないんじゃないかな?

なんだか筆が進んでおりますので、気合いがあったら書けるかもしれません。


あ・・・瞼が重くなってきた・・・。

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