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異世界は黒猫と共に  作者: 小笠原慎二
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我が輩はクロと申す

「こんな物で我が輩を射止めようとは。大した輩ではないの」


矢は黒猫の鼻先で、何かに掴まれているかのように空中で止まっていた。


「ファイヤーボール!!」


声と共に、少し大きめの火の玉が飛んでくる。


「ここじゃ…!」

「巻き込まれる!!」


4人が頭を抱えて地面に伏せた。

覚悟をして歯を食いしばる。

ところが、いつまで経っても爆発音が聞こえてこない。


「ふむ、森の中のような場所では、火系の術はいかんと教わらなかったのかの?」


のんびりとした黒猫の声が聞こえてきた。


「こ、こいつ…!」

「やっぱり魔獣か!」

「我が輩は魔獣ではなく妖ぞ」


黒猫の尻尾が少し激しくフリフリする。


「あ、お前ら、黒狼の牙!」


木陰から姿を見せた、柄の悪い男達を見て、ギムが声を上げた。

冒険者パーティの中でも評判の悪いパーティとして有名である。

ギム達も一度、獲物を横取りされたことがあり、文句を言おうにも相手の方がランクも上で逆らえなかったのである。

放たれた炎はどうなったのかと気になったダナが、上を見ると、どうなっているのか、渦を巻く赤い炎の球が、黒猫の前で止まっている。

その考えられない光景に、ダナがポカンとなった。


「これが魔法というものか。ふむ。やはり我が輩とは少し理が違うようだの。まあよい。折角なのだ、使わせてもらおう」


黒猫がそう言うと、赤い炎の球が、紫色に変化した。

見たことのない炎の色に、ますますあんぐりと口を開けてしまうダナ。


「火とはこう使う物だの」


そう言うと、炎が4つに別れる。

逃げようと背を向けていた4人に、その炎が放たれた。









「なんか、悲鳴が聞こえるんですけど…」


すんごい気になる。めっさ気になる。とっっても気になる。

何が起きているのか、もんのすんごい気になるんだけど、見に行ったら怒られるかしら?

進みかけていた足を止め、しばしその場で熟考。

でもよく考えたら、ゆっくり進めとは言われたけど、後ろに戻るなとも見に来るなとも言われていない。

よし、見に行こう。

私は来た道に足を向けた。










体に紫の炎が纏った4人が静かになると、炎も消えた。

唖然となるギム達4人に、クロが話し始める。


「此奴らはお主達が八重子の技を盗んだと言いがかりをつけてお主らを殺し、八重子に恩を売るつもりだったようだの。その後八重子の技を無理矢理にでも吐かせて、あわよくば八重子に不届きな振る舞いを考えておった。故の処罰だ」


「あ、あの…、ぼ、僕らは…」

「よい。分かっておる。お主らに八重子を害する気はないと。それと、お主らにやって貰いたいことがある」

「は…?」

「我が輩からの秘密裏の依頼ぞ。受けるも良し、受けぬも良し。受けぬのであれば、ちょっと怖い目に遭って貰わなければならないかもしれぬが…」

「う、受けます受けます!」


慌ててギムが声を上げる。


「そう恐がらなくとも良い。と言っても今更かの。報酬は、そやつらから巻き上げた金品ぞ」


黒猫がそういうと、それまでゾンビのようにぼーっと立っていた黒狼の牙の男達が、体中に身に付けていた物を脱ぎ捨て始めた。

貨幣の入った革袋、道具の詰まった鞄、装備していた防具や武器。

ポカンと見つめる銀翼の剣の4人の前で、男達は服のみを身につけた状態でボーッと立っている。


「古着もいるかの? 金になるのかの?」

「い、いえいえ! いりません!」


さすがにこれ以上剥いでは可哀相になり、4人が首を横に振る。


「そやつらの持っていたものを好きに持っていけ。それが報酬ぞ。そうそう、依頼ではあるがの、我が輩のことをこっそりと噂して欲しいだけなのだの」

「え? あなた様のことを噂していいのですか?」


大人しめのダナが声を上げたことに、3人が驚く。


「どこからか聞いたような風の噂程度にな。魔獣と称されるのは不本意ではあるが、どうやら普通の猫ではないといういような噂を流してくれればいいのだの」

「そ、それだけでいいんですか?」


コールが拍子抜けという感じで声を上げる。


「それだけで良い。少し我が輩に考えがあるのでの」


そう言って、黒猫が少し目を細めた。


「あ、あの、あなた様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「だ、ダナ?!」


レンカが慌ててダナを止める。

魔獣にとって名とは、それこそ存在そのものを示すものであり、軽々しく、ましてや人間などに教えられるものではない。


「うむ。我が輩はクロと申す。八重子からもらった、大事な名ぞ」

「クロ様…」


ダナ以外の3人がポカンとクロを見上げる。


「我が輩は魔獣ではないからの。気軽に呼んでくれて構わぬぞ」


そう言われても、さすがに軽々しく口に出来ないと思う3人。


「クロ様。謹んで、その依頼お受け致します」


ダナがクロの前に跪いた。


「だ、ダナ?!」

「リーダー俺なんだけど…」

「いや、もうこれ、受けるしかないだろ…」


3人もダナと同じように跪いた。


「うむ。頼んだぞ」


黒猫が鷹揚に頷いた。


「それとお主ら、もしこのまま冒険者を続けたければ、もう少し技量を上げろ。手練れの者でも各上の者でも、教えを請え。でなければ、いつか命を落とすぞ」

「は、はい!」

「あ、あの、魔術師は、そもそも師となってくれる人がほとんどいなくて…」


時折村にも、ダナのような魔法を扱える者が産まれることもあるが、魔法の基礎などを習うことの出来る王都などにある学院に入ることなどできず、ほとんどが冒険者となる。

ところが基礎も習っていないので、それ以上に実力を上げることもままならず、ほとんどが消えていった。

魔法も秘匿する者が多く、その技は一般には広まらないのであった。


「ふむ。それでは、お主には我が輩の知識の片鱗をやろう。我が輩の目を見ろ」

「は、はい!」


恐れることなくクロの目を見つめるダナ。

少しハラハラと見つめる3人。

少しして、クロが目を閉じ、視線を逸らす。


「これで良い。いきなりその知識を吸収することは難しいだろうので、夢で学習できるようにした。少しずつ知識を吸収していけ」

「は、はい! ありがとうございます!」


ダナが頭を下げた。


「だ、ダナ、大丈夫?」


心配そうにレンカが声を掛けるが、


「大丈夫! 私、頑張る!」


とても嬉しそうにダナが笑った。

そのダナの笑顔にポカンとなる男2人。少し顔が赤くなっている。


(このパーティの行く末を見るのも面白いかの)


クロがそんなことを考えた時。

ガサガサと草を掻き分ける音がして、黒髪に黒い瞳の女性がひょっこりと現われた。









「大丈夫! 私、頑張る!」


そんな女の子の嬉しそうな声が聞こえてきた木の向こうに、ひょっこりと顔を出すと、そこには私よりも幾分か若い男の子2人と女の子2人。

1人は剣を持った剣士のような男の子。1人はハンマーのような武器を持った剣士の子より少し大きい男の子。1人はちょっときつい目の弓を持った女の子に、1人は嬉しそうな顔をした魔道士のようなローブを羽織った女の子。

皆14、15くらいにしか見えない。

皆こっち見てる。なんか注目を浴びてる…。


「なうん」


クロが木の上から降りてきて、私に飛び乗ってきた。


「お、クロ、お帰り」


腕の中に収まったクロが、4人を見つめた。


「「「「すいませんでした。そして、ありがとうございました!!」」」」


何故か4人に頭を下げられる。


「え? は? はい?」

「八重子、さっさと行くぞ」


腕の中からクロが囁く。


「え? う、うん…」


訳が分からないけど、クロが急かすので先を急ぐことに。

後でクロに教えてもらおう。

なんか面白いことを見逃した気もするけれど、あまりクロのことがバレるのも嫌なので、私は足早に森の中へと入っていった。









「なんか、夢を見てたみたい…」


レンカが呆然と呟く。


「いや、夢じゃないよ…」


ギムが答える。


「私、頑張ります、クロ様…」


ダナは1人キラキラしている。


「で、報酬、頂いてくんだよな?」


コールが尋ねる。


「い、頂いていかないと…」

「あたしたち、お金ないんだし…」


しかし、あの4人の目の前から持ち去るのもちょっと不気味である。

いかにぼーっとしているとはいえ…。

恐る恐る振り返ると、いつの間にか、黒狼の牙の男達はいなくなっていた。


「あ、あれ? さっきまで、そこにいたわよね?」

「う、うん、そこに、立ってたのに…」


3人は改めてぞっとした。

どうなったのかは、考えたくもなかった。


「よし。皆、拾って帰ろう! そしてクロ様の噂を流そう!」


ダナが1人で張り切っている。

それから4人はできるだけ金目の物、または役に立ちそうな物をとにかく拾い集め、街へと帰っていった。

しばらくは安宿ではあったが、宿に泊まれるようになって喜んだとか。

そして、この日から、不思議な猫の噂がコソコソと広がっていく事になった。



ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

一日2つ載せるのはきっと今日まで。

明日からは出来る時更新に、なるはず・・・。多分。

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