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異世界は黒猫と共に  作者: 小笠原慎二
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とある妖精の話

前回までのあらすじ~

従魔登録して、ペガサス達をとりあえず宿屋に預けた。預金が金貨200枚+αになった。

仕事を終えて帰ってくる。

厩舎に寄って様子見る。


「ただいま~」


声を掛けたけど返事はなし。

暗い中でも白いペガサス目立ってます。

仄かな灯りの中、厩舎の中へ入って行くと、ペガサスがこっち向いた。


「ただいま。ご飯ちゃんと食べた?」


私は頂いてきました。


「ああ」


無愛想に(馬だから表情よく分からないけど)ペガサスが答えた。

グリフォンはやはりぐったりと寝そべっている。


「グリフォンさんもちゃんと食べた?」


話しかけて見たけど、こちらを見もしない。


「食事はちゃんとしていた。我が見ていたから大丈夫だ」


代わりにペガサスさんが答えたよ。


「そか。ならいいや」


食べられるならなんとかなるだろう。


「狭い所でごめんね。明後日まで仕事だから明後日までここにいてもらうことになるけど」

「問題ない。今までの所と変わりない」


う~ん、どんな待遇を受けてたんだろうね。


「不思議だな」

「何が?」

「何故謝る? 我らは魔獣だぞ?」

「魔獣には謝っちゃいけないの?」

「・・・。人間は魔獣を下に見ているのではないのか?」

「大概の人はそうかもしれないけど、私はそうじゃないってことじゃない?」

「そうか」

「何せ猫にも謝るし」

「そうだの」

「クロ様様です」

「うむ。崇めよ讃えよ」


クロ偉そう。


「・・・。不思議な人間だな。何故猫に遜る?」

「そりゃあ、猫様ですから」

「うむ。敬え」

「猫様?」

「私の世界では、猫の飼い主=猫の下僕なのです!」


これ常識。犬飼いは主、猫飼いは下僕になるのです。


「私の世界?」

「あ、やべ」


これがあるからクロにあまり人と話すなと言われてるのよね。うっかり。


「八重子…」

「滑りました」

「まあよい。どうせこれから始終関わる奴らなのだ。話しておいても良かろう。魔獣紋で喋れないようにもできるだろう」

「そうよね。まあ、あまり縛り付けることしたくないけど」

「これに関しては仕方なかろう」


人がいないことをクロに確認してもらって。


「実はね、私とこの可愛いクロさんは、ここと違う世界から来た、迷い人なのです」

「迷い人…」

「そ。んで、元の世界に帰る方法を探すつもりなのです」

「つもりかい」


クロのツッコミ。


「だって~、あるかどうかも分からないし。こういうのって大概戻れないってのが相場でない?」

「諦めるでない」

「もちろん探しますよ~。戻れるなら戻りたいもの」

「やる気があるのかないのか…」

「資金がある程度貯まってから行動しようかって思ってたけど、…貯まりましたしね」


一気に怖い金額が。


「今の仕事が終わったら、あちこち行ってみようかなって思ってるのよね。クロのおかげで書物もある程度はどうにかなりそうだし」

「ふん。なるほどな。それで足として我らを使うのか」

「へ? 足?」

「移動手段として我の背に乗ることでも考えているのだろう? だがな、我は人間なんぞ背に乗せる気はないからな」

「おお、そんな方法があったのか! でもいいや。私乗馬の経験ないし。うまく乗れなさそう」

「え? 乗らないのか?」

「あ、乗合馬車とか乗るのに、魔獣ってどうしたらいいんだろ?」

「その辺りは聞いてみるしかないの」

「そうだね」

「の、乗らないのか?」

「乗せたいの?」

「い、いや、そんなわけないのだが…。人間は乗りたがるものかと」

「てかさ、ペガサスって何処に乗るの? 鞍とか付けられないよね?」


翼があるから。


「・・・・・・」


そこまで考えてなかったらしい。


「まあいいか、細かいことは後で考えよう。もう今日も疲れたから寝るわ。お休み~」


返事はなかったけど、まあぼちぼちね。慣れていってくれればいいでしょう。

部屋に入ると、扉を開けた途端に、緑の小さな光が鳥籠に逃げるように入って行った。

おお、部屋の中を自由に飛ぶくらいはできるのか。良かった良かった。

飛ぶ元気もなかったらどうしようかと思ったよ。


「妖精さん、ただいま」


鳥籠を覗き込むと、ビクリとして震えている。

怖いんだね。


「ご飯食べた? てか、妖精って何食べるんだ?」


困った時のクロ様。


「ふむ。今は恐怖で感情が染まってしまって、何も読み取れんの。ああ、もしかしたら、ペガサスが知っているかもしれんの」

「おお、そうだね。明日にでも聞いてみるか」


もう今日は眠いのでお休みなさい。

妖精さんはそっとしたまま、ベッドに潜り込んだ。

クロは今日も左脇の定位置をキープ。

ああ、この可愛い抱き枕、最高です!











次の日、行く前にペガサスに聞いてみたら、妖精は特に食べ物を必要としないらしい。

ただ、花の蜜を吸うのは好きらしいとのこと。

仕事が終わったらみんなでピクニックにでも行こうか。

6日目終わって帰って来て、ペガサスはそこそこ話をしてくれるけど、グリフォンは相変わらずそっぽ向いてるし、妖精さんも籠の中で震えている。

これは時間かかるかもしれない。

7日目、最終日。

お店に出勤すると、知らない女性が店にいた。


「あ、あんたがヘルプの冒険者さん? おかげで助かったわ~」


と声を掛けられた。


「初めましてだね。あたしはリルケット。この店の看板娘」


この店看板娘が2人もいるぞ。

おや、でもこのリルケットさん、デューダさんにどことなく似ている。

それを指摘すると、笑顔で答えてくれた。


「あたしがこの店の本当の娘。もう1人のキシュリーは近くに住む幼馴染みだよ」


と、顔を近づけて来て小声で話し出す。


「キシュリーは兄貴狙いなんだよ。まあ、十中八九両思いだとは思ってるんだけど。母さんが亡くなって人手が足りなくなった時に、これ幸いとここに働きに来てくれてるんだ。こちらとしても助かってるから有り難いんだけどね」


おおっと、色恋沙汰でございましたか。

確かに、あの2人仲良いんだよね。

リルケットと顔を見合わせてニヤリと笑い合う。


「何かあったらお手伝いしますぜ!」

「ありがとう。その時は頼むよ」


固く握手を交わす。女の友情の誕生です。

その日はもうほとんど治ったと言い張るリルケットを、キシュリーが今日まではきちんと休まないとダメだとなんとか裏方に押し込め、私は最後の給仕の仕事をこなした。

今日で最後になる賄い飯に舌鼓を打ち、惜しまれながら店を後にした。

なかなか楽しい仕事だったな。

次の仕事も楽しい仕事だと良いなと考えながら、宿屋へ戻り、いつものようにペガサス達に顔を見せ、部屋に戻る。

今日もグリフォンは顔も見せてくれず、妖精さんも籠の中に逃げ込んだ。


「明日は休みにして、みんなでちょっと遊びに行こうかと思うんだけど」


ペガサス達もいつまでもあそこにいたら窮屈だろうし。


「うむ。良かろう。ここのところ働きづめだったしの」


7連勤でしたからね。

一応明日ギルドに行って、サインをもらった書類を提出して、それから散歩にでも行こう。

どこに行こうかとクロと話ながら、眠りに落ちていった。













その妖精は、ある日好奇心から、出てはいけないとされている、妖精郷から出てしまった。

ちょっと面白そうだったのと、美味しそうな花が咲いていたから。

夢中になって花の蜜を味わっていたら、突然何かに捕まった。

慌てて逃げだそうとしたが、それは妖精を決して放してはくれず、しかも従魔紋までつけられてしまい、いよいよ逃げ出すことが出来なくなってしまった。

狭い鳥籠に閉じ込められ、どうなるのかと思っていたら、なんだか嫌な空気を纏う人間の元へ売られた。

従魔紋による束縛により、妖精はその力を無理矢理使わされ、時にナイフ投げの的にされたり、死なない程度に痛めつけられたり。

妖精は珍しいと部屋に飾られ、多くの人間の視線に晒された。

時折ペガサスやグリフォンと顔を合わせることもあった。

グリフォンは暗い顔をして、こちらに見向きもしなかったが、ペガサスは隙を見つけては妖精に話しかけたりしてくれた。

ペガサスの聖なる気配は、妖精の救いだった。

屋敷の中はいつも嫌な空気が立ち込め、その屋敷の主人というものが、一番嫌な空気を纏っていたから。

そんな空気の中にいたためか、妖精は少しずつ弱っていた。

妖精は食事を必要としないが、綺麗な空気や、循環する魔力が必要だ。

ペガサスが纏う綺麗な空気だけが、妖精の命を繋いでいた。

死ぬまでこんな毎日が続くのかと、絶望していた時。

とある夜、外に不思議な気配を察知した。妖精のいる所からは見えないが、その不思議な気配は、家中に広がる嫌な空気を操っているようだった。

家中の嫌な空気が、一番嫌な空気を纏っていた人間の周りに集められた。

その日から、一番嫌な空気を纏っていた人間は、姿を見せなくなった。

不思議な気配は毎晩訪れ、昼の間に少し拡散した嫌な空気を、夜の間に再び集めていた。

そんな日が何日か続いた後、妖精は屋敷を離れ、別の人間の元へとやって来た。

その人間が、新しいあるじになった。

その人間は、鳥籠の入り口を開けたまま、無理矢理外に出そうともせず、自分を掴んだりもしようとしない。

時折心配そうに鳥籠を覗き込むだけで、妖精に何かさせようともしなかった。

昼間、あの屋敷と同じように部屋に置かれているが、鳥籠の入り口は開けたまま。部屋の中だけならば自由に飛ぶことが出来た。

時折別の人間が入って来て、部屋を掃除していくが、その人間も妖精に無理に近づこうともしなかった。

何より有り難かったのが、嫌な空気がないこと。

完全にないわけではないが、あの屋敷に比べたら天国だった。

また主となった人間が夜になって帰って来て、明日は休みだとか、どこかに行こうとか黒猫と話している。

その人間と一緒に行動している黒猫が、あの時の不思議な気配のものだということは分かっていたが、やはり怖くて近づくことも出来なかった。

そして部屋が暗くなる。

すぐに人間の寝息が聞こえて来た。

この人間は何故自分に何もしないのだろう?

妖精は首を傾げる。

今までに出会った人間は、自分に触りたがったり、自分の力を欲しがったり。嫌な事しかしてこなかった。

恐る恐る鳥籠から出てみる。

大丈夫。人間は寝ている。


「そう恐がらなくとも、何もせんぞ」


そんな声が聞こえてきて、慌てて籠に戻った。


「驚かせたかの。すまぬ」


暗闇で、闇が動いた。

あの黒猫だ。

黒猫は人間の横で座ったまま、妖精を見つめてきた。

金の瞳が暗闇で光り、とても綺麗だと思ってしまった。


「大丈夫だ。八重子はお主に何もせん。そこらの嫌な人間とは違うぞ」


黒猫がそう語りかけてきた。


「お主も薄々感じてはおるのであろう? 今なら眠っておる。もそっと近づいてみろ」


黒猫の言葉に、妖精は恐る恐る、籠から出てくる。

この黒猫は、結果的にあの状況から自分を助けてくれたような者だ。害意はない。

ふわりと飛んで、人間を上から観察してみる。

幸せそうによく眠っている。


「八重子はの、我が輩の大事な人間なのだ。だからの、お主の助けが欲しいのだ」


黒猫の言葉に首を傾げる。


「八重子はの、我が輩の命の恩人なのだよ。だからの、死なせたくないのだ」


その黒猫の言葉で、妖精は察した。


「お主のその癒やしの力で、八重子に何かあった時に助けてもらいたいのだよ」


人間が妖精に欲する力。癒やしの力。

どんな怪我も、時にはどんな重傷な者でも治すことが出来る癒やしの力。

この力を求め、人間が集まってきた。

前の主は請われるまま、相手に大金を払わせ、従魔紋の縛りにより妖精に命令し、無理矢理力を行使させた。


「残念なことにの、我が輩には癒やす力はないのだ」


黒猫が悲しそうに言った。よほどこの人間が好きなのだろう。


「だからの、お主に頼むのだ。どうか八重子を助けてやってくれ」


切実に、黒猫が頼んできた。

そんなこと言われなくても、この人間が命令すれば済む話なのに。


「うむ。八重子はの、お主が嫌がったら、命令はしないだろうの」


その言葉に目をパチクリさせる。


「ん~。まあ、なんというか、そういう人間なのだよ。いずれお主にも分かると思うがの」


よく分からないけど、黒猫がそこまで感心を持つ人間に、少なからずとも興味が湧いた。

人間の顔の横に降り立ってみる。

よく寝ている。

怖さもあったが、妖精は恐る恐る、そのヤエコという人間に触れてみた。


台風の影響で電車が動きませんでした。

おかげで仕事にいけなかった・・・。お給金が減ってしまう・・・。


クロさんの陰の活躍がちょろっと書けました。よきかなよきかな。

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