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異世界は黒猫と共に  作者: 小笠原慎二
18/194

我が輩は猫又である

前回までのあらすじ~

金貨200枚で従魔を押しつけられた。

八重子が仕事に疲れ、朝寝に勤しんでいる時。

寝坊ではない。どうせ仕事は昼からだということで、ちょっと朝遅くまで寝ているだけである。もちろんウララちゃんには了承を得ている。

そんな八重子が布団の中でウダウダと睡眠を貪っている時、クロはちょいちょい外へと出かけることがあった。

寝ているならば人と会うこともないだろうし、クロもおトイレとか散歩とか、いろいろ用があるのだろうと、八重子は気にしていなかった。


街中を歩く黒猫に、特に誰も気にとめることもなく、クロは気ままに街中を歩いた。

そしてクロが人気のない路地へと入っていくと、入れ違うかのように、黒髪に金の瞳、全身黒い服を着た青年が現われる。

青年は朝早い騒がしい街を、ぶらつくように歩いて行った。






早朝は誰も彼もが仕事を始めるために忙しない。

冒険者達も、朝早くに張り出される良い仕事を求め、ギルドに押しかける。

実は八重子が来るのはいつも少し遅めだったのだが…、まあ今は置いといて。


銀翼の剣の面々も、近頃の鍛錬のおかげか、狩りの成功率なども上がり、簡単な討伐依頼なども受け、どっこいどっこいではあったが、それなりに報酬を手にすることが出来るようになって来ていた。

昨日の成果は灰色狼が3頭。森で群れに囲まれた時は焦ったが、それほど大きな群れではなかったことと、近頃のミーティングによる陣形、実力をめきめきと上げて来ていたダナのおかげもあり、なんとか3頭討伐し、群れを撃退することに成功したのである。


大きな怪我もなく、灰色狼を倒せたことに沸き立った4人。

買い取り金額も1頭に付き銀貨3枚と思ったよりも良い値が付き、宿代飯代などを引いて、余った分をどうするかという話になった。

実力もそこそこ付いてきたのだし、武器をちょっと良い物に新調したいとか、防具を買いたいなど、1人1人が自分の意見を言い出すが、さすがに4人分を新調できるほどの余裕があるわけでもない。

4人が4人共譲る気配もなく、昨夕から続く話し合いが朝早い道端で白熱しかかっていた時。


「こんな所で言い合っていると、通行の邪魔になるぞ」


4人に注意する者がいた。

その声にハッとなり、振り向く4人。

そこにいたのは、黒髪、金の瞳、黒い服の青年。

ダナ以外の3人が、途端に緊張して体を硬直させる。

ダナは嬉しそうに黒服の青年に近づく。


「クロ様。お待ちしておりました」

「うむ。頑張っておるようだの」


4人を眺め回し、クロが鷹揚に頷いた。


「少し時間はあるかの? 聞きたいこともあるでの」

「もちろん…あ、と」


ダナが口元を押さえ込む。そしてリーダーのギムを振り見た。


「うえ? ああ、もちろんです!」


ダナの視線に気付かされ、返事をするギム。


「うむ。では少し場所を変えるかの」


そう言って歩き出す青年の後を、4人は大人しく付いて行った。











人気のないスラム街の一角に、5人は足を踏み入れた。


「ここなら良さそうだの」


適当な瓦礫に腰を下ろすと、4人にも座るように指示する。

ダナは嬉しそうに、あとの3人は少し恐る恐るそこにあった物に腰掛けた。


「それで、何か話はあったかの?」


クロが促すと、ダナが話し始める。


「はい。それとなく聞いて回ったのですが、それほど集められなくて。一つはこの国の建国に、迷い人が関係していたという話です」

「え…と、どこからともなく現われたその人物が、その叡智をもって、まだ小さかったこの国を大きく強くしたって話です」

「昔この国は今よりももっと小さくて、周辺の国に今にも乗っ取られそうだったとか」

「救国の英雄として祭り上げられて、その時のお姫様と結婚して、王様になったらしいです」


ギム、コール、レンカも聞いた内容を話す。


「ふむ。なるほどの」

(それは大体の人間の頭の中にもあったの)


有名な話なのだろう。


「その人物は、王になって、その後どうなったか分かるかの?」


大体の人間の頭の中の話だと、突然現われたその聖者(と呼ばれているらしい)によって、この国は救われ、その後お姫様と結婚し幸せに暮らしましたとさ、で終わっている。

クロが知りたいのはその先だ。

王となり、知識を集めるに都合のいい立場になり、元の世界へ帰る手立てを見つけられたのか、そうではないのか。


「その王、賢王と呼ばれているらしいのですが、この国を平穏に治め、最後はご病気になって亡くなられたそうです。王都にその墓があって、今でも色んな人が訪れているらしいです」


ダナが答えた。

ダナはクロが本当に知りたがっているであろうことを察し、そこまで情報を集めていたのだ。何気に優秀。


「そうか」


クロが少しがっかりしたように視線を落とした。


「もう一つお話しがあります。冒険者ギルドの創設者が迷い人だったのではないかと言われているそうです」


ダナがクロを気遣うように言葉を紡ぐ。


「うむ」


その話もギルドの人間の頭を覗いて知っている。ただ、やはり最後まで詳細を知っている者はなかなかいなかった。


「色んな国を回って、冒険者ギルドの必要性を説いて回ったそうです」

「珍しい物を売り捌いて、大金を得てギルドを作ったとか」

「本人もそこそれなりの実力者だったらしいです」


ギム、コール、レンカも聞いた話を口にするが、そこはやはりクロの知りたい所ではない。


「そのギルドの創設者のお話なのですが、最後はどうもあやふやです。旅に出てしまったとか、何かの依頼を受けて失敗して死んだとか、色んな説が出ているようですが、確実な話はないようです」


またもやダナが付け足した。


「ほう…」


それは突然いなくなったということだろうか?

であるならば、突発的に元の世界へ戻る方法を発見し、帰った可能性もある。もちろん、どこかでのたれ死んでしまった可能性もないではないが、これは調べてみても面白いのではないかと記憶に留めた。


「あともう一つ、いえ、もう1人いるのですが」

「1人?」

「はい。確かな話では無く、噂になっている人物がこの街にいます」

「ほう?」


クロの金の瞳が光る。

ダナがその瞳を真っ直ぐに見つめながら言った。


「この街の、冒険者ギルドのギルドマスターです」












ギルドマスターの執務室で仕事をしていた「コウジ」は、異様な気配を感じ取り、顔を上げた。

いつもと変わらない部屋の中なのに、何かが違う。

全身を緊張させ、辺りを窺う。いざという時はすぐにでも戦闘態勢を取れるように、少し椅子をずらした。


「すまぬ。驚かせてしまったかの」


どこからか声が響いた。

すると、闇からにじみ出るように、1人の青年が現われた。


「・・・。何者かね?」


警戒を解かずに問いかける。


「ふむ。お主はこの言葉を知っておるかの? 『猫又』というのだが」

「猫又?」


コウジは驚いた。この世界にはそんな存在はいない。そんな呼び名もない。


「君は、あちらの世界から来たのか?」


驚き、思わず立ち上がりながら問いかける。

青年は薄い微笑みを浮かべたまま、コウジの言葉に答える。


「その問いは正解である。我が輩はおそらくお主と同じ世界から来た。ただし、我が輩は1人では無く、1人と1匹であるがの」

「1人と1匹?」

「猫又と言ったろう? 我が輩はとある女性に飼われている可愛い黒猫だ。10歳の年を過ぎ、猫又と成った。この世界に来ることがなければ、特に変わらぬ普通の猫として暮らし続けていたのだろうがの」

「ね、猫又?」


コウジは思わず青年の腰の辺りに目を向ける。


「尻尾が2本あるのかい?」

「人間は何故そこを気にするのだ?」


まあ、猫又という名前の由来にもなってますからね。


「出そうと思えば出せるが、今はそんなことをしに来たのではない。お主に尋ねたいことがあって来たのだ。ギルドマスターよ、お主、元の世界へ帰る方法は探したのか?」


ギルドマスターのコウジの顔が途端に暗くなった。

そして、力が抜けたかのように、どさりと椅子に座り込んだ。


「探さないわけがあると思うか? 突然訳の分からない世界に放り出されて、元の世界に帰ることを唯一の希望にして、がむしゃらに生きてきたんだぞ。迷い人に関しての話はどんな話でも集めて、様々な所へ赴いた。しかし、決定的な方法は見つからなかった。そのうちに、私にもこの世界で大切な者が出来てしまって…。今はもう諦めて、こうやって仕事をしているよ」


深い溜息を吐き出した。


「ふむ。なるほどの。あい分かった。それでお主、もしだが、もし我が輩達が、元の世界へ戻る方法を見つけたら、お主も戻るかの?」


コウジが顔を上げた。


「まさか、あるのか? 見つかるとでも?」

「それはまだ分からぬ。もしもの話だ。見つけたら、お主、帰るのか? 元の世界へ」


コウジの口が開きかけ、止まった。

視線をあちこちに漂わせ、何か迷っているようだった。


「ふむ。まあ今すぐ答えを出す必要はない。一応考えておけ。方法を見つけたらお主にも報せてやると約束しよう。それでは、邪魔したな」


黒い青年が背中を見せる。


「おお、そうだ。今度、時間がある時にでも、我が輩の飼い主と少し話をしてみてはどうだ? 盛り上がることもあるだろう」

「君の飼い主か。名前は?」

「猫を連れた冒険者としてそこそこ噂になっとるよ」


そう言うと、出て来た時と同じように、青年は闇に溶け込んで行ってしまった。


「猫を連れた冒険者。彼女か」


虹彩雉を捕ってきた時の騒動の時に、一度だけ見たことのある、それといって特徴もない、普通の女の子だった。思い出してみれば、確かにその腕に、大事そうに黒猫を抱えていた。

元の世界に帰る。

諦めた夢なのに、コウジの胸の中で、消えたはずの希望の灯火が、再び灯ったような気がした。






銀翼の剣の話し合いは、クロの助言により、貯金に回すということで決着が付いた。

新調するにはまだ未熟過ぎると、クロから辛辣なお言葉をもらった為である。



残業続きで書けなくなってます。

何故かクロさんが文字にするとあちこち動き回っています。やめろ、後で収拾する私のことも考えてくれ・・・。

頭の中で考えるよりもクロが自由に動き回っていて、今後どうなるのか作者も予想できない・・・。

いや、これ以上おかしなことはしないと・・・、思いたい・・・。

は! これがキャラが動き出すと言うことか?!

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