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異世界は黒猫と共に  作者: 小笠原慎二
178/194

タカマガハラ子爵

前回のあらすじ~

光の御子さんに会うのは諦めて、国を出たら、貴族の使いに掴まった。

さすがはお貴族様の馬車。揺れも少なく、お尻も痛くならない。

しかも途中で、先は長いからと、飲み物を勧められた。折角なので頂く。あ、私もハヤテと同じジュースです。


「うなん」


と甘えた声を出して、クロが珍しく可愛く甘えてくる。


「うふん、どうしたのクロん」


その可愛さにナデナデしていると、耳元でクロが囁いた。


「そのままで聞け。タカマガハラ子爵とやらはどうにもきな臭い。油断はするなだの。そして、万が一日本語で語りかけてきたら、我が輩が八重子の腕を2度叩く。その時はそれらしく振る舞うのだの」


一瞬真顔になりかけるも、必死にメロメロの顔を作りつつ、クロの話を聞いた。周りには猫が甘えている様にしか見えないだろう。

というか、話ながらも顔に顔を擦りつけてくるから、それだけでもハアハア…。

え? 顔作る必要ないんじゃないかって? そうかもしれない…。



子爵様とやらの領地はそこそこ遠いらしく、1度だけとある街の宿屋に泊まることになった。しかし、仮にもお貴族様にお呼ばれした身。それはもう高級なお宿に泊まりましたよ。

お食事も美味しく、お風呂もきちんと付いていて、皆満足していた。

でも良く考えたら、私、お金あるからこういう所泊まれるんだな…。つい節約精神で少し安めの宿を探しちゃうんだよな。ふ、どうせ庶民。











そのまま馬車に揺られ続け、夕方近くにそのお屋敷とやらに着いた。


「でか…」


眠っている所をクレナイに起こされ、窓の外を見ると、これまたお貴族様らしきでかい屋敷。

なんで門から玄関までこんなに距離が必要なんだろうってくらい。

門から玄関に行くまでに、様々な魔獣を見た。まるで魔獣の展覧会だ。


あれ、ユニコーン? シロガネの親戚かしら? あれ、ワイバーンてやつじゃない?

他にも知らない魔獣が数匹。こんな数、従魔師が複数いるのかしら?


玄関先で下ろされ、メイドさんに案内されるがままに1つの部屋に通された。

客間なのか、一応ソファとテーブルがあり、その上には用意の良いことにつまめるお菓子。そしてメイドさんがお茶を入れてくれる。至れり尽くせり。

調度品は金ぴかというわけでもなく、落ち着いた雰囲気で、趣味の良さが窺える。でも、そんな中、クロがどこかピリピリしている。珍しい。それほど油断ならない相手なんだろうか。

粗茶にお菓子をつまんでいると、扉が開き、これまたイケメンの人と執事さんらしき人が入ってきた。


「初めまして。僕はヒカル・タカマガハラ子爵だ。急な招待を受けてくれて有り難う」


にっこりイケメンスマイル。

黒髪に黒い瞳に東洋系の顔立ち。確かに日本人ぽい外見をしている。年の頃は20前半くらいかしら? 普通にジャニー○にいそうなイケメンだ。


「初めまして、私は冒険者やってます、八重子と申します。こちらがクレナイ、ハヤテ、シロガネと、頭の上の子がリンちゃんで、この子がクロです」


皆が無言で頭を下げた。


おや? いつもなら何か一言言うのに。


ちらと皆の顔を見ると、クロのように何故かピリピリしたような顔。さっきまで寛いでお茶を飲んでいたのに。


「そして、僕の本当の名前が、矢部光。矢は弓矢の矢に、部活の部、そして光る。れっきとした日本人だよ」


クロがトントンと私の腕を叩いた。日本語の合図だ。


「迷い人、なんですね」


イケメンが嬉しそうに笑った。


「そう。迷い人。君の名前は?」


再びクロがトントン。しばらく日本語で話す気か?

これは、私の向こうでの名前という事だよね。


「外岡八重子です」

「とのおか? どういう字を書くの?」


再びトントン。

まあ、漢字のことなんて、他の人に聞かれてもさっぱりぴーではあるけれど。


「外に岡場所の岡に、八重桜の八重に子です」

「外に岡で外岡か、面白い名前だね」


やっぱりトントン。

まあ、あまり被らない名字ではあるけど。

しかし、何故だろう。このヒカルって人、人懐っこい笑顔してるんだけど、なんだか油断できない気がする。私もなんだか緊張してしまっているのが分かる。何故なのかよく分からないけど。


「急なご招待で申し訳ない。近頃よく話に聞く冒険者さんと是非話してみたかったんだよ。こんな時間だし、これから夕食でもご一緒しながら歓談しようじゃないか?」


今度はトントンなし。こちらの言葉で喋っているらしい。

まあ、皆にも話しかける感じだったから、そうだろうね。

お断りしてすぐにでも出て行きたかったけれど、この人の話も聞いてみたかったし、お腹も空いていたので、夕食にご招待されることになった。


ちょっと仕事が残っているからと、タカマガハラ子爵は出て行った。

うん、良く考えたら、タカマガハラって、高天原じゃない? 確か日本の神様のいる所の名称だったと思ったけど…。

なんか、厨二こじらせ感が滲み出てきたんだけど…。

ちょっと早まったかと後悔するも、やっぱりやめたと出て行くわけにも行かない。


「なんだか、妙な男じゃったのう」

「うむ。どことなく、気味の悪い人間だったである」

「う~」


皆も気味の悪さを感じていたのね。

少しして、準備が出来たと別のメイドさんが呼びに来た。

メイドさんに案内されて食堂へ行くと、これまた立派なテーブルに豪華な食事が乗っていた。なんでこう、テーブル、長いんですかね。


案内されるままに、奥のお誕生席のような所に座らされる。もう一端の方にも食事が置いてあるから、あちらは子爵さんが座るのかもしれない。テーブルマナーがよく分からないけど、これって普通なんだろうか。

私の左にハヤテ、右にクレナイ。ハヤテの向こうにシロガネが座った。クロはもちろん、お膝の上。

少しして、子爵さんもやって来て、私の向かいに座った。ちょっと遠いんだが。


「遠慮なく、食べてくれていいよ」


そう言われ、一応いただきますの形を取ってから、食事に手をつけ始める。その前に、じろっとクレナイに視線を向けておく。言葉のままに食を進めそうだったので。


「食べながらでいいから、僕の話を聞いてくれるかい?」


そう言って、返事も聞かずに勝手に己の半生を話し出した。

まあ、興味があるから聞くけどね。

















10歳の頃にこの世界に紛れ込んだヒカル少年は、突然の事態に訳が分からず、見知らぬ街の片隅で泣いていた。そこに親切な人が通りかかり、彼を保護してくれた。その人のおかげで、なんとか行き倒れることはなかったが、その人もただで彼を助けたわけではなかった。

簡単な言葉を覚えたヒカル少年を、その人は奴隷商に売りつけた。


奴隷となったヒカル少年は、とある商家の下働きとして買い取られる。慣れぬ仕事に悪戦苦闘しながらも、彼は簡単な計算が出来たこともあり、その商家でそこそこ大事にされた。暴力がなかったわけではないが。

そして、ある時買い物を頼まれたヒカル少年は、釣り銭が間違っていると店の者に言っているのを、通りがかったとある貴族の令嬢に見られた。


その令嬢は、この年できちんと計算ができるヒカル少年に興味を覚え、彼を商家から買い取ったのだそうな。以来、彼はその令嬢の元で働くようになった。

10歳までとはいえ、そこそこの知識を蓄えた少年を、令嬢は大事にしてくれたらしい。それこそ、かなり心が近くなるほどに。

結ばれないことは分かっていても、彼はその令嬢への想いを断ち切ることは出来なかった。せめて、その令嬢が幸せになってくれればと、彼は願っていた。


しかし、そんな思いも虚しく、彼が14の時、令嬢のご両親が事故に巻き込まれ他界してしまう。この時令嬢は13歳。まだ成人とは認められない年だった。

なので、後見人として、彼女の叔父がやって来た。


後にヒカル少年は、この叔父が令嬢のご両親を殺したのではないかと思うようになる。確証はなかったが。


なんとか身辺を調べてみると、やはり何か黒いものが見えた。しかし証拠が見つからない。

令嬢にそれとなく進言してみるも、彼女は叔父がいなければ生きていけない身だった。

そして、令嬢の家の実権は、ほぼ叔父が握る事となり、令嬢は叔父から結婚を迫られるようになった。彼女が生きている限りは、その家の爵位は叔父のものにならず、彼女が死んでしまっても、その家は叔父のものにはならない。つまりは、その家の権力を手に入れる為に、叔父は令嬢に結婚を迫った。


最初は拒んでいた令嬢も、叔父の説得に迷うようになる。貴族の暮らししか知らぬ世間知らずの令嬢が、全てを捨てて生きていけるものか…。


ヒカル少年、いや、青年になった彼は、令嬢を逃がそうと彼女を説得するが、彼女はそこまで聡明な人ではなかった。弱い令嬢だった。

なので彼女は、1つだけ彼の為にしてやって、その身を叔父に捧げる事を決意したのだった。

彼の、奴隷という身分を買い戻してやったのである。


自由になった青年は、その家を追い出された。最早自分には何も出来ることはない。

悔しさに涙を流しながらも、与えられた僅かなお金を持って、彼は次の仕事を探す。

しかし、身元もハッキリしない彼を雇う所も少なく、彼は仕方なく冒険者登録をするのだった。

令嬢の元で、魔法の勉強もさせてもらっていた彼は、そこそこの腕の魔導師として、そこそこの暮らしを続けた。耳にした従魔師の話に興味を持ち、従魔師の弟子にもなった。飲み込みの良い彼は、すぐに一人前として認められた。


しかし、彼は従魔師になっても疑問だった。彼の知識の中には、元の世界で遊んでいたゲームの知識も残っていた。つまり、捕まえた魔獣を従わせる方法である。

そのゲームでは、レベルなどがないと捕まえたモンスターが言うことを聞かないこともあった。なので、彼も切磋琢磨したのだが、どんなに頑張っても、弱いと称される魔獣さえも、彼の言うことを素直に聞くことがなかった。


なので、彼は考えた。有り難いことに、彼には魔力量が人並み以上にあった。そして、知識も。

魔術を組み上げ、考えさらに組み上げ、彼はとうとうその方法を見つけ出す。捕まえた従魔を、確実に従わせる方法を。

そして彼はその従魔達を使い、令嬢を救い出す決断をする。とにかく、確証はないが黒いあの叔父を、殺してしまおうと。


普通の従魔師の何倍も多い従魔を従え、彼は夜闇に紛れて屋敷に忍び込み、ベッドでよろしくやっていた叔父を殺すことに成功する。そして、彼は令嬢を救い出した。はずだった。


「なんてことを!!」


助けたはずの令嬢は、彼を詰った。この先どうやって生きていけばいいのかと、喚いた。

彼は自分が令嬢を支えると告げるも、


「貴族でもないくせに!」


令嬢はそう叫んだ。


その瞬間、彼の中で何かが壊れた。


この術を組み上げた時、もしかしてこれは人にも出来るのではないかという考えが浮かんだ。しかしそれは人道的にどうだろうと、その考えは捨てたのだった。

しかし、助けたはずの令嬢に詰られ喚かれ叫ばれ、彼は令嬢に向けて術を放った。

途端、令嬢は大人しくなった。以来、彼女は青年の言うことを素直に聞く、とても良い女性になった。















途中から、食事が進まなくなっていた。

彼の口から語られる、彼の半生。途中からなんだかおかしな単語が聞こえ始め、話が物騒になっていく。こういう話を全部聞かされる時は、あまり良いオチはない。

味どうこうじゃなく、もう喉を通らない。皆も警戒して、目の前に座る男を睨み付けている。


「そんなに睨まなくても。君達を傷つける気はないよ」


にっこり微笑む。どうしよう、鳥肌が…。


「それでね、八重子さん。僕からお願いがあるんだけど。僕は珍しい従魔を集めているんだけど、君の持っている従魔、譲ってくれないかな?」

「嫌です」


即答。

嫌だ、絶対に嫌だ。何が何でもこの人だけには譲りたくない。


「うん、そう言うとは思ってたよ。じゃあ、君の名前は、「桜」にしよう。マナ、「桜」を与える。僕に従魔を譲ってくれるね?」

「嫌です」


即答。

てか、桜って何? 気味が悪い。


子爵の目が驚きに見開かれる。


「おかしいな? 君は「桜」にしたんだよ? 僕の言うことが聞けないの?」

「何意味の分からないこと言ってるんですか? 私の従魔は譲りません。お食事の途中ですいませんが、気分が悪いので帰らせて頂きます」


本能が警鐘を鳴らしている。この人ヤバい。もうここにいたくない。

ガタリと席を立つと、皆も一緒に席を立った。


「おかしいな。僕の術が効かない? そんなはずは…」


戸口に行こうとするも、メイドさんや執事さんに阻まれる。


「其方ら、痛い目を見たいか?」


クレナイが前に出るも、メイドさんや執事さんの顔は変わらない。おかしい、クレナイが殺気を向けているのに。

というか、この人達、表情がずっと変わってない気がする…。


「まあいいか。君の口から譲って貰わなくても。人化するドラゴンか。珍しいよね」


つい子爵を振り向いてしまった。ニヤリとこちらを見て笑う。まずい、これじゃあ認めたことになる。


「その赤い髪の女性でしょ? いいね。美人は好きだよ」


クレナイも子爵を睨み返す。動じてない。


「決めた。君には、マナ、「真紅」を与える。「真紅」、君は今から僕のものだ」


クレナイがビクンとなる。


「クレナイ…?」

「あ…るじ…どの…。にげ…逃げる、のじゃ…」


クレナイがよろめきながら、窓の方へ向かう。


「クレナイ!」


追いかけようとするも、シロガネに肩を掴まれた。


「まずいである。人化が解ける…」

「え?」

「真紅。何やってるんだよ。人の姿のままでこっちに来い」


子爵が相変わらず訳の分からないことを言っている。

その言葉にちらりと子爵を見るクレナイ。


「わら…わの…、あ、るじ…は、あるじ…どの…だけ、じゃ…。ううう、あああああああああああああああ!!!」


クレナイが窓を破って外に飛び出した。


「クレナイ!!」


クレナイの体が光り、ドラゴンの姿になる。


「え? なんでだよ。どうして人の姿のままじゃないんだ…?」


子爵も立ち上がり、外のクレナイを見上げる。


「おい、人の姿になれ! なれったら!」


クレナイに命令している。どうして?


「クレナイ! 逃げよう! というか、逃げて!」


私が叫んでも、クレナイは子爵の方に目を向けるばかり。どうして? 私の声が聞こえてないの?


「主、逃げるである!」

「でも、クレナイが…」

「今まで話していたであろう! あの者が妙な術を放ったであるよ!」


子爵を見る。

そうか、話の中に意のままに操る術って…。


「逃がさないよ。珍しいペガサスとグリフォンと妖精でしょ? よし、ペガサスにはマナ、「白天」を与える。グリフォンにはそうだな、マナ、「翼」を与える。妖精は、マナ、「緑」を与える。これでいいか」


皆の正体がバレてる?!


「うああ…」

「いやの…」


リイイイイイイイイ!!


皆が苦しみ出す。


「シロガネ! ハヤテ! リンちゃん!」


すぐに、皆も元の姿になってしまう。リンちゃんも頭の上から、シロガネの頭の上に移動してしまう。


「皆?!」


そこで気付いた。皆の目、虚ろだ。

何も映していないような、感情のない目…。怖い…。

最初の頃のハヤテの死んだような目とはまた違う、感情のまったく籠もっていない目…。


「八重子! 逃げるのだの!」


腕の中のクロが飛び出し、人の姿になった。私を抱えて窓の方へと走り出す。


「その猫も魔獣なのか?! 面白い! お前の名は、マナ、「夜」を与える! さあ、その女を放り出せ!」


クロの足が、窓の所で止まった。


「クロ…?」


まさか、クロも? これで、クロにも何かあったら…。


「どうやら、我が輩にも効かぬようだの」


クロがニヤリと笑って子爵を見ると、窓から外に飛び出した。


「なぜ…! くそ、追え!」


後ろから足音、空から羽ばたく音。色んな音が追いかけてくる。

すでに闇に包まれた街中を、闇に紛れながらクロは私を抱えたまま走り続けた。


ブクマ、評価、ありがとうございます!


やっとここまで来れました~。何故こんなに長くなった・・・。

な~んとなく察しては頂けてると思いますが、後は終わりに向けてラストスパート!

でもまだあっちの設定とかこっちの設定とかまだむにゃむにゃしていて・・・。

きちんと書き上げられるのだろうか・・・。

これからも応援よろしくお願いいたします!(切実)

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