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異世界は黒猫と共に  作者: 小笠原慎二
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ピンクの空気は重い

前回のあらすじ~

2人の仲を進展させようと、吊り橋効果を実践。うまい感じに仕上がった。

「出場亀がなければ・・・」コハクが溜息を吐いた。

帰り道。

私達は後悔していた。

行きしの荷物が少ない状態の方が馬車を捨てて逃げやすいだろうとの計算もあった。さっさとやってしまった方が後々良いのではないかという考えもあった。

だが、それは間違いだったのかもしれないと、今馬車の中で思ってしまっている。


「ほら、デューダ。あ~ん」

「キシュリー、さすがに、今は…」

「ちょっとくらいいいじゃない。はい、あ~ん」

「あ、あ~ん…」


トーフの街で買ったと思わしきサクランボのような果物を、キシュリーが少し強引に、デューダが少し躊躇いがちに、あ~んをしていた。


「主殿、ちとイライラするのう」

「そうだねクレナイ。でも抑えるのよ」

「分かってはおるのじゃが、ああも見せつけられるのもなんというか…」

「今まで抑えてたものが溢れてるような状態なのよ。我慢よ」


なるべく御者台の方を見ないようにしながら、耳に入ってくる会話を流しながら、ハヤテやコハクの相手をして気を紛らわせる。

しかし、キシュリーがあんなに積極的とは思わなかった。

気持ちが通じ合えたと分かった時から、デューダにベッタベタ。積極的に手を繋ぎにいくわ、と思いきや腕を絡ませに行くわ。私達は確か買い出しの護衛に来たのであって、恋人達のデートの護衛に来たわけじゃないんだけどな、とふと思ってしまうほどに。


しかしキシュリーもプロである。買い出しの時はしっかり荷物を確認し、値段も交渉し、満足げな顔をして荷物を積み込んでいた。仕事はしっかりこなしていた。

そして、馬車ではちょっと手も空いてるしと、ラブラブな空気をこれ見よがしに垂れ流しながら、あ~んをしている。


「美味しい?」

「う、うん」

「良かった」


上目遣いで顔をちょっと傾けて聞くその様子は、恋する乙女の顔。喜びに満ちあふれているのがよく分かる。

それを受け止めているデューダは、その可愛さにタジタジになっているのがよく分かる。

これは、将来尻に敷かれるのだろうな。


「ピンクの空気が重い…」

「主、ピンクの空気とはなんであるか?」

「う~んと、ああいうラブラブな空気を言うのよ。恋とか愛とかってピンク色で表される事が私の世界では多かったから」

「なるほど。納得である」


シロガネが2人の様子を見て、納得したように首を振っている。

結局街に着くまで、2人のラブラブっぷりを見せつけられる事となるのだった。

















荷物を店に置いて、私達の仕事は終わった。

馬車と馬をキシュリーとデューダが揃って返しに行った。

やっとピンクの空気から離れられた。


「ヤエコ! 有り難う! あの2人良い感じになったじゃない!」

「うん、荒療治が効いたみたい…」

「さ、報酬と、存分に食べていって! 腕を振るうわ!」


表の依頼の報酬をしっかりともらい、裏の依頼は現物支給。思う存分に食べて良いとのことだったので、みんな好きな物をたらふく食べた。私もちょっとやけ食いだ。

クレナイも今回は5人前をペロリ。それでもちょっとは遠慮していたのだそうだ。どれだけ食べられるんだその胃袋…。

私達の食べっぷりにおじさんが少し顔をひくつかせていたけど、頑張ったんだから良いよね!特に帰り道ね!クレナイ頑張って抑えてたんだよ!

途中帰って来たキシュリーとデューダも、私達を見て驚いていた。


食べるだけ食べて、膨れたお腹を抱えながら、お店の皆に別れを告げて、宿へと帰る。

リルケットとおじさんに改めて礼を言われた。いやなに、私もやきもきしていたからさ。

さすがに食べ過ぎたのか、宿に帰ってベッドにひっくり返ったら動けなくなった。

みんなそんな状態だったので、お風呂は諦めてそのまま寝ることに。

ウララちゃんがブラッシング出来なくて寂しがっていたと、次の日の朝聞くことになった。

















「で、主殿、今日はどうするのじゃ?」

「そうだねぇ。とりあえず王都に帰ろうか」


朝風呂(タライ風呂だが)に入りながら、クレナイが聞いて来た。

ここでの用は済んだ。後はまた色々情報収集に動かなければならないだろう。


「ドラゴンの里にも行きたいし、ええと、ユートピアだっけ? 温泉街にも行ってみたいし」

「ほう、温泉街じゃと? それは気になるのう」

「でしょでしょ? お風呂は気持ちいいもんね~」

「おふろ~。ハヤテもはいる~」

「うん、ハヤテもお風呂好きだよね~」

「ハヤテ。早く体を拭かないと風邪ひきますよ」


すでに服を着終わっていたコハクがタオルを持ってハヤテに飛びつく。

放っておくと、ハヤテは裸で走り回るのだ。さすが幼児。


「風呂なぞ何が良いものか…」


クロの呟きが聞こえる。

クロのおかげでシャワーが楽しめているのだが、クロはお風呂が大嫌い。

でもお風呂に浸かる猫もいたりするんだよね。どうやったらクロがお風呂好きになるかしら?


「風呂好きの猫なぞ稀だの」


く、考えが読まれていた。

支度を整えて、ちょっと迷ったけど、一応ギルドに挨拶に行こうという事になった。


「また、また絶対に来て下さいね!!」


非常に残念な顔をするウララちゃんに見送られ、お昼のお弁当もしっかり頂いて、ギルドへ向かう。

宿のおじさんの料理は美味いからね。

中に入ると、やっぱり人が少ない。まあ今日はお風呂にも入っていたしね。


「あ、ヤエコさん」


エリーさんが顔を上げて、私達を見つけた。


「今日もお仕事ですか?」

「いや、この街での用もとりあえず終わったので、ちょっと移動しようという話しになりまして」

「・・・。ヤエコさん?! この街を出るんですか?!」

「は、はい。そうですが…」

「ヤエコさん! せめて、せめてこの依頼だけでも…、いえ、これだけの依頼を片付けてから…!」


エリーさんが紙の束を押しつけて来る。


「すいません! 急ぎますので! 皆、行くよ!」

「ああ! ヤエコさん! 待って下さい! これだけ、これだけでも~~~~!!」


捕まらないうちにと、ギルドを飛び出した。

そのまま急いで街を出る。


「人材不足は分かるけど、あれだけ依頼をこなしてったら、あの街にどれだけ足止めされてたか…」

「ギルドマスターのコウジに挨拶せんかったが、いいのかの?」

「直接挨拶したら余計に仕事を押しつけられていた気がするからいいよ」


また挨拶しに行く機会も多分あるだろうから、その時に一緒に。

しばらく進んで、まだ昼間だし、シロガネに乗って行こうといつも通り道を外れようとした時。


「ヤエコ。ちとこのまま進んで行け」


クロがそう言った。















しばらくすると、後ろから少し立派な馬車がやって来た。荷馬車ではなく、人が乗る馬車だ。中に誰が乗っているのかは見えない。

道の端に寄り、馬車が通り過ぎるのを待つ。すると、馬車がゆっくりと目の前で止まった。


「もし。お尋ねしたいのですが」


馬車の中から声がした。少し高めの男の人の声。

皆と顔を見合わせ、どう見ても私達に話しかけて来ているようだと思い、


「ええと、私に、でしょうか?」


一応尋ね返す。


「はい。ちょっと道をお聞きしたいのですが、ダンジョンの街と呼ばれている街へ行くには、どう行ったら良いのでしょうか?」

「ああ、それなら…」


どう行くんだっけ?いや、途中で道を逸れるのは覚えているんだけど、空から行ったから何が目印なのか忘れてしまっているよ。


「よろしければ、中に地図がありますので、それで説明して頂けないでしょうか?」


いや、外に地図を持って来いよ。

いやいや、お貴族様とかだと、外に顔を出せないとか、謎のマナーなんかがあるのかもしれない。

と、御者台から御者の人が降りてきて、ドアに手を掛けた。入れという事なのだろう。

扉が開かれるも、中で黒いカーテンが引かれているので、中がまるで見えない。

リンちゃんがそっと、ハヤテの頭の上に移動した。


「ええと、じゃあ、失礼します」


クロを抱いたまま、カーテンを除けて中に入ると、男の人が2人向かい合わせで座っていた。

右に金髪の、顔の下半分をマスクで隠した多分美形の男性。

左に紺の髪の、やっぱり下半分をマスクで隠した鋭い目つきの男性。

金髪のお兄さんの手に、地図らしき紙が握られている。

中は3人が余裕で座れる程の広さがあった。馬車ってこんなに広いものなのか。


「こちらへどうぞ」


金髪のお兄さんが示すお兄さんの隣に、とりあえず腰を下ろす。

広げられた地図を見て、


「ええと、今がこの道ですから、こう行って、確かこの辺りでこっちに…」


と説明し始めると、何故か扉が閉められた。

お貴族様はこんな話にも機密性を持たせるのかと思った瞬間、


「スリープ」


聞き慣れた英単語を聞いた途端、私の意識は闇に落ちて行った。




















「妖にもそれなりにルールというものがあっての」

「何よいきなり」


「まあ聞いておけ。妖のものはの、家に入るにはその家の者に招かれなければ入れないという決まりがあるのだの」

「なんだそれ?」


「家というのはそれだけである種の結界のようなものなのだの。故に、招かれなければ入る事は出来ぬ。後は、家の者にマーキングしたりとか、何かその家の者と縁を持たせなければ入る事は叶わんのだ。人をとり殺すのも、色々手順のようなものがあるのだの」

「へ~。で、それが今何か?」


「うむ。下準備は必要なのだということだの」

「言ってる意味が分からないよ」


「そのうちに分かる」

「クロは秘密主義だわね」


「猫だからの」

「モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ」

「腹はやめい!」


従魔ズが羨ましそうにそれを見ていた。

コハクは冷めた目でそれを見ていた。

八重子が満足そうに顔を離すと、疲れたようなクロが、皆を見て言った。


「ちとこれから色々あるが、まあ我が輩が八重子の側にいるのだ。問題ない。落ち着いて行動するのだの。そして、日頃の鬱憤を晴らすが良い」


クロの言葉に、皆が首を傾げた。

すると、後ろからゴトゴトと何かが近づいて来る音が聞こえ始めた。


お読み頂き、ありがとうございます。

ちょっと途中時系列が入れ替わっておりますが、間違いではありません。効果です。

気付いたらブクマの数が増えており、喜びもひとしおです。ありがとうございます。

昨日は一時通過の事を知り、しばらく興奮して眠れませんでした。

二次通過を祈りつつ、まだまだ先を書いていきたいと思います。

これからもよろしくお願いします。

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