初依頼?
前回までのあらすじ~
文字を纏めてたら寝落ちしてた。
そして、クロが八重子に隠れて何かしている・・・。
目が覚めて、宿屋の天井を見る。
(夢じゃなかった…)
目が覚めたら元の自分の部屋にいる、と言うわけもなく、夢落ちを期待しつつ目を開け、若干気落ちする。
左から聞こえてくる可愛い鼻息が、そんな私の心を癒やす。
今日も人の腕、これほぼ肩と言った方がいいのかしら?を枕にして、私の可愛い黒猫が寝ている。
この光景を見ていつも思うのだが、私、寝返り打ってるのかしら?
眠りに就いた時とほぼ同じ態勢なのだけど、寝返り打ってるよね?
一度自分が寝ている姿を録画してみたいものだ。
クロがいつものように寝ている姿を見て、ほっこりする。
本当に、この世界に一人きりで迷い込んでいたら、こんな穏やかな朝は迎えられなかったかもしれない。ホームシックになりかけるも、クロの存在に癒やされる。
マジ、クロ様様。
「ぬ? 起きておったか八重子」
クロが目を開けた。
「おはよ。私の可愛い天使…」
起きたならばと軽くクロを抱きしめる。
はあ、モフモフ。はあ、柔らかい。はあ、ぬくい。はあ、癒やされる。
「朝からハアハア怖いぞ」
あれ?私ハアハア言ってた?
クロがヌルリと私の腕の中から出ていく。
あん、切ない。
もっと可愛さを味わっていたかったのに。
「朝なら起きろ。起きたなら体を起こせ」
うう、クロ様厳しい。
「はぁ~いはいはい」
軽く伸びをして、ベッドの上に起き上がる。
頭が目覚めても、体がね~。なかなか起きてくれないよね~。
二度寝したくなるのはなぜでしょう。
「ほれ、早くせんと、仕事がなくなるぞ」
「どうせいつもないじゃん」
「それはそうであるがの」
あ、そこは否定しないのね。
そういえば!
私はその時唐突に閃いた。
「そうか、これを試していなかった!」
「なんぞ?」
気合いを入れて叫ぶ。
「ステータスウィンドウ、オープン!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらく、沈黙の時が流れた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ご飯、行こっか」
「そうだの」
なかったことにした。
「ヤエコさん! おはようございます!」
私の顔を見るなり、エリーさんがにこやかに声を掛けてきた。
あれ? 心配かけちゃったかな?
「おはようございます。え~と、今日もいつもの…」
エリーさんが顔を近づけてきて、小声で話し出す。
「あの腐れ豚に呼び出されたって聞いて、驚きましたよ。無事で何よりですが、気をつけて下さいね。
体だけじゃなく、心から腐ってますから」
「ご忠告ありがとうございます」
一応興味はなくした感じだったんだけどなぁ。陰湿に根に持つタイプなのかしら?まあ、クロがいるからなんとかなるだろう(楽観的)。
「街中でも、できるだけ人気のない所には行かないように。街の外では人に会ったら警戒を。
何をしてくるか分かりませんからね」
うわあお。この信頼されてる信頼のなさ。余程の外道なのかしら?まあ、いるよね。こういうタイプ。
「分かりました。くれぐれも注意します」
主にクロが。
クロ任せですいません。
何せうちのクロは、自動翻訳機兼用心棒ですから。なんて優秀。しかも可愛いときた。もう天使でしょう。
「ではなくて、お仕事探しに来たんですけど」
自分に突っ込みを入れつつ、いつもの会話。どうせありませんと言われるのであろうけれど。
「ございますよ」
おっと、いつもと違う答えが来ました。これは予想外。
しかもなんだかエリーさん、顔にっこにこなんだけど。何だこの顔。
「こちらの依頼なんですけど、お庭の草むしりです。いかがですか?
討伐でもないし、街中の仕事なので比較的安全ですので、今のヤエコさんにはうってつけかと」
草むしりとな。それは簡単なお仕事だなぁ。
てか、やっぱり冒険者って、名前だけの何でも屋だよなぁ。
ちょっと考えて、良さそうなので受けてみようかと思う。
「そうですね。やってみようかな…」
「かしこまりました。受付致しますね!」
素早くその資料を何やら処理し始める。
「え、エリーさん、私まだ考え中…」
「やるって言いましたよね!」
「やろうかなって言っただけでやるとは言ってません」
「でも良い仕事ですよ? やりますよね?」
なんだこの強引さ。
「なんか、胡散臭くなってきたので、やりません」
「やるって言ったじゃないですか!」
「言ってないでしょ!」
あ、絶対これなんかある系だな。
「エリーさん、私まだ聞いてないことがあるんですけど」
「え…、えと、何か?」
「報酬額」
「・・・銀貨3枚です」
銀貨3枚?草むしりで銀貨3枚とは、結構良いのでは?
だのに何故押しつけるような真似をするのだ?
「エリーさん、何か隠してますよね?」
「え? 何か?」
「多分ですけど、ギルドにも告知義務みたいなものありますよね?
そういう規則職員が破った場合、それなりの罰則とかあるんじゃないですか?」
「! ヤエコさん?! どこからそんな知識を?!」
「なんとなくです」
元の世界の知識です。
「う~…。そうですね。いけないのは分かってたんですけど…。
これ、他の人も絶対に受けてくれないから…。
ヤエコさんなら上手く行けば快く受けてくれるのではないかと…」
「全部話して下さい。それから決めます。
もし故意に話さないことなどありましたら、正式にギルドに抗議させていただきます。名前入りで」
エリーさんの顔が青くなった。
「そ、それだけは! 下手するとお給金が…、じゃなくて信用が…。
ああ、はあ、ヤエコさん、やっぱり只者じゃないですね」
そうです。それなりに社会経験もある18歳です。
「申し訳ありませんでした。今までの態度、心からお詫び申し上げます。
え…と、それで、できれば受けてもらいたいということは、一応分かって下さい」
「内容聞いてからです」
「はい…。仕事の内容はただの草むしりなんですけど、そのお家のお庭はかなり広くて、3人がかりでも半日くらいの時間を要します。
それが1人だと、1日、下手するともっとかかるでしょうか。
でも、どんなに時間がかかっても、銀貨は3枚しか支払われません。
何気に重労働で時間のかかる作業なのに、この賃金の低さもあって、この依頼は来る度に人を見つけるのが大変で…」
仮に1人で1日で終わらせても銀貨3枚。銀貨3枚はおよそ3000円。朝から夕方までおよそ10時間頑張ったと仮定すると、時間当たり300円の仕事。
そりゃ誰もやりたがらないわ。
しかもグレード落とした宿屋にしても、宿代飯代払ったらほぼすっからぴん。
狩りにでも出かけた方が余程稼げる。
「試しに聞きますが、他には?」
「討伐なら…」
「できません」
どうやら、他に仕事はないようだ。
「じゃ、今日も常時依頼にしますので…」
「待って下さい!! お願いします!! ヤエコさんしかいないんですうううう!!」
エリーさんがしがみついてきた。
「それなりの方達に声を掛けまくってはみたんですが、やっぱり報酬が少ないとみんな断ってしまって。
皆さんの懐事情はそれなりに分かりますので、こちらもあまり無理は言えなくて。
ヤエコさんでしたら、それなりに生活も余裕がまだありそうですし、なにより討伐依頼ではないので最適かと!!」
「猪獲って来ます」
「お願いします! こちらを受けて頂いたら、依頼達成件数を割り増し致しますから!
そうしたらFランクにもすぐに上がれるようになりますよ!」
別にあまり魅力を感じないなぁ。
だけども、必死なエリーさん見てたら、なんだか可哀相になって来たよ。
懐にはまだ少々余裕はあるし…(ギルドの銀行にはまだかなり余裕もあるし)、やってあげますか。
てか、やるって言わないと、腰にしがみついたエリーさんが離れてくれなさそうだ。
「分かりましたよ。やりますよ。やります」
「本当ですか?! ありがとうございます!!」
やっと離れてくれた。
「てか、そんな依頼だったら、最初から受けないとか、料金を上げるように交渉するとかしないんですか?」
「それが、この依頼者、昔それなりにご活躍された方でして、こちらとしてもあまり強く言えない方なんですよ。料金の方も再三進言してはいるのですが、聞く耳持たずで。あの糞ジジイ…」
最後の一言は聞こえるか聞こえないかの音量でしたので、聞こえたのは私とクロくらいでしょう。一応黙っておこう。
エリーさんもなかなか言いますな。
「では、受付の処理をさせていただきますね。仕事が終わった後は、この紙に署名を頂いてくれば良いだけですので」
「分かりました。頑張ってきます」
溜息と共に、言葉を吐き出した。
明日は病院行くので、帰りが遅くなるので更新できないと思います。
風が涼しくなってきたので、そろそろエアコンの電源コード抜こうか考え中です。
まだ8月だし早いかな? 9月になったらいいかな?
でももう今年は使わなそうなんだよな~。