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異世界は黒猫と共に  作者: 小笠原慎二
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とある奴隷のお話

前回のあらすじ~

「絵本か~、どれどれ」パラリ。『3匹の子オーク』

「うん、なんとなく想像つくかな。で、狼は?」パラリ。

「フェンリルって・・・。熱湯で死ぬの?」

私には、先の奴隷商にいた時より前の記憶がありません。奴隷商の主人は、余程酷い目にあったのだろうと言っていました。でも私にはその記憶がございません。

思い出そうとすると頭が痛みます。これは思い出すなという警告かもしれないので、思い出そうとすることをやめました。


私が先の奴隷商に引き取られた時は、主人が私を高く売るために、色々な事を教えてくれました。この言葉遣いもそうです。常に主より下にあれと、丁寧に話すことを教わりました。

ところが、暫くして、私が病持ちだということが分かりました。主人は酷くがっかりして、こいつは売れないと言いました。

売れない奴隷は、その先を想像したくありません。


まだ動ける私に、主人はレンタル奴隷にならないかと話を持ちかけて来ました。もしそれで頑張るなら、両親の軌跡を探してもよいと。

実は両親の事もさっぱり覚えていないのですが、やはり多少気になります。それに、このまま働けなければ、用済みとして処分されてしまうかもしれません。


私は承諾しました。


レンタル奴隷として働きながら、またいろいろな事を覚えて行きました。

少しお金がたまると、主人が薬を買ってくれることもありました。

私は子供でも力が強く、女の子だったので、冒険者の方々には少し人気がありました。

女性だけのパーティなどは、やはり男性は忌避されるそうです。


親切な冒険者の方々はまだ良いのですが、これがあまり質の良くない冒険者だと、回復出来る魔術師などがいると、殴られたりすることもありました。いない場合は言葉で傷つけられました。

この国では奴隷の人権が認められているので、これですむのだと、同じレンタル奴隷のおじさんが言っていました。そのおじさんは、他の国から売られて来たらしいのですが、そこでは奴隷は物扱いだったと言ってました。この国はそれに比べればましだと。そのおじさんも、いつの間にか居なくなりました。


私もいつかあんな感じに不意にいなくなるのだろうかとぼんやり考えていた頃です。

あのとても評判の良くない冒険者のパーティがやって来ました。今までに借りた奴隷の何人かが帰って来ていないという話です。私を指名されないように祈ってましたが、その冒険者達は嫌な笑みを浮かべながら、私を指名しました。


その一行に付いて行くのは本当に大変でした。獣人であることを馬鹿にする、わざと荷物を重たくする、足を引っ掛けて転ばせようとする等。意地の悪い事をほぼ絶え間なくやって来て、それでいて歩みが遅いと文句を言ってきました。

それでも仕事ですから、やらなければなりません。早く終わらないかと思いながら、頑張って歩を進めていました。


少しだけ採取すると、何やらヒソヒソと相談し始めました。

何か嫌なものを感じましたが、逃げるわけにもいきません。

大人しく付いていくと、なんだか肌がざわつく所に着きました。すると男達が、私を草むらの影から押し出しました。意味が分からず問おうとすると、唸り声が聞こえてきました。

どうやらワイルドボアが近くにいたようです。


冒険者達は何か臭い消しのようなものを塗っていたのかもしれません。ワイルドボアは、私目掛けて襲い掛かって来ました。

私は夢中で逃げました。この時は自分が獣人であることに感謝しました。荷物を落とすわけにもいかず、なんとかワイルドボアの突進を躱しました。

後ろの方でワイルドボアの悲鳴が聞こえ、どうやら冒険者達が後ろから襲ったようでした。


何とか逃げ切ったかと思った時、冒険者達がやって来て、私が必死に逃げていた様子が可笑しかったとゲラゲラ笑いました。

私は何故助けてくれなかったのか問いましたが、彼等は後ろから助けていたと言って取り合いませんでした。

前の子らもこんな目にあっていたのだろうか。これは何とか生き延びて報告しなければと思ったその時、先程より低い唸り声が聞こえてきました。

冒険者達は気づいていないらしく、まだ馬鹿笑いをしています。


私は叫びました。何かいると。


男の1人が振り向いて、何を馬鹿なことを言ってるんだとしゃがんだ時、それまでその人の頭があった場所を、白っぽい影が横切りました。

そこで男達は危険に気づき、一目散に逃げ始めました。私もその後を追って走りました。

ところが、あろうことか、男の1人が私を突き飛ばしたのです。私は転んでしまいました。


顔を上げると、冒険者の男達の後ろ姿が見えました。何か叫んでいるようでしたが良く聞こえませんでした。

慌てて立ち上がろうとするも、荷物が邪魔して立ち上がれません。仕方なく荷物を外して立ち上がると、それが目の前にいました。

見つめられ、逃げられないと思いました。それでも、それでもなんとか逃げようと一歩踏み出した時、そいつが襲ってきました。


「キャアアアアアアアア!!」


口から勝手に悲鳴が飛び出し、腹に激痛が走りました。

勢い木にぶつかり、私はそのまま動けなくなり、そいつがゆっくりと目の前に迫ってきました。

ああ、これで終わりか…。そう思いましたが、何故か、そいつはピクリと何かに反応し、どこかに行ってしまいました。


何が起こったのかは分かりませんが、どうせ動けません。それに、見たくもないけど、自分のお腹の中身が出ています。目の前が暗くなっていき、意識も遠くなっていきます。これが死かと、暗闇に落ちる間際、


「リンちゃん!」


リン!


女性の声と、鈴のような音がしました。

気付いて目を開けると、目の前には優しそうな女性と、その頭には妖精、腕には黒猫。後ろには赤い髪の女性に、グリフォンとペガサス。

従魔と聞かされ、落ち着きますが、私のあの怪我を綺麗に治してしまった妖精とか、なんでこんな珍しい従魔ばかり持っているのか、とても不思議でした。


治療費をふんだくられるのかと思いきや、お金なんていらないと言われるし、街に戻りますといえば、送ってやると言ってくるし。

不思議でした。私は奴隷です。見れば分かる、質素な服を着ています。奴隷に親切にしても一文の得にもなりません。よくて奴隷の持ち主からそこそこの礼金を取れるだけです。


それに、私の事を虎子ちゃんと呼び始めました。なんだか名前で呼ばれるのもくすぐったい気がしました。でも、悪い気はしませんでした。

グリフォンの背に乗り、街に入って、もうこれ以上お世話になるわけにはと辞退しようとしても、「子供なんだから送っていってあげる」と半ば強制的に付いてきました。


ああ、そうか、礼金目当てだったのかと、思いついたのが、奴隷商の館に着いてからでした。


それから色々あって、やっぱり礼金の話しになって、でも女性は何故か礼金をいらないと言っていて、それを途中から現われた黒い男の人が止めていました。なんだかよく分からない人達です。


それに、それに…。

その女性は、私を買うと、言いました。

獣人で、病持ちの子供。はっきり言って大損です。買う意味がありません。もしかしたら明日にも死んでしまうかもしれない、穢れた獣人の子供です。


最初は何か聞き間違えたのかと思いましたが、黒い男の人と言い争う女性の言葉、確かに私を買うと言っているものでした。

しかも即金で。

すぐに金貨を持って来て、私を即時その場で買い上げてしまいました。

何を考えているのでしょう。


奴隷商の主人もニコニコしていました。厄介者が片付いたのです。それは嬉しいでしょう。

そして、私は、その日その時から、その女性の奴隷となりました。
















私を買い上げた女性は不思議な人でした。

奴隷を買ったのに仕事をさせることもなく、奴隷と共にテーブルを共にし、ベッドまで用意してくれました。

普通は奴隷は一緒の食卓に着くことはありません。ベッドなどありえません。よくて床、そこに薄い敷布団が付けば良い方です。奴隷は石の床でも寝られるように、奴隷商で訓練させられる程です。布団があれば良い方なのです。そして服まで一式、しかも新品のを買い揃えてくれました。ありえません。普通はもっと質素な麻の服とか、良くて古着とか。


私は何が起きているのか、もしかしたらあそこで本当は自分は死んでいて、その間際に夢を見ているのではないかと疑いました。

でも、服は着心地が良く、食事は美味しく、ベッドは柔らかくて暖かくて、そして、そして、ご主人様は私の頭を撫でてくれます。忌避されていた耳や尻尾も可愛いと言ってくれます。

夢でも、今幸せなのでいいやと思います。ご主人様は相変わらず私に仕事を与えて下さりませんが、なんだかちょっと間が抜けたお方なので、私がしっかりサポートしなければと思います。特に料理とか…。


あれを口にした時は、この世の終わりかと思えました…。凄まじい味でした。あれを普通に味見なさっていたご主人様の舌って…。


今までの暮らしに比べて、今は快適です。楽しいです。幸せです。ご主人様に可愛いと言われたり、抱きしめられたり、獣人の私を本当に可愛がってくれて、とても嬉しいです。

従魔の皆さんも、私に良くしてくれます。クレナイ様は戦い方も教えて下さいました。

ハヤテは弟のようで可愛いし、私、幸せです。


そして、怖いです。


これは、本当に夢じゃないんでしょうか。

明日、私は捨てられてしまうのではないでしょうか。


怖いです。


ご主人様に見限られて捨てられるのも、今の生活を手放すのも。これが夢であるなら、ずっと覚めないでいて欲しい…。

とても幸せで、とても怖いです。

いつも眠る時、祈ります。明日もこの生活が失われませんようにと。夢なら覚めませんようにと。

怖いです。朝が来るのが怖いです。目が覚めたらあの奴隷商の一部屋に戻っているのではないかと、とても怖いです。


幸せで、怖いです。


怖いです。













眠るコハクの枕元にクロが座り、何やらコハクの体から立ち上ってくる黒い霧のようなものを飲み込んでいた。


「案ずるな。八重子はお主を手放したりなどせぬ。お主の恐怖や嫌な記憶は我が輩が食ってやるから、お主は笑っていろ。八重子が望むように、笑っていればよい」


慎重に、少しずつ湧き出してくる黒い霧を、クロは飲み込み続けた。


目薬刺したら染みたので、眼科に行ってきました。アレルギーかもしれないということで目薬もらって。

刺すとやっぱり痛みがあるけど、処方されたものだし。

一週間後にまた来てくれ言われましたが、治ったらきっと忘れるのでしょう。

駄目な患者です。

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