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異世界は黒猫と共に  作者: 小笠原慎二
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興奮した猫に手を出しちゃいけません

前回までのあらすじ~

どこからかクロが普通の猫ではないと噂が立ち、それを聞きつけた街の偉い人に呼ばれた。

どんな悪質な豪華絢爛馬車で迎えに来たのだろうと表に出ると、思ったよりも大分控えめ、というか見れば高級素材で出来ているだろうことが素人の私でも分かるような、それほど華美ではないが地味でもないセンスの良い馬車が止まっていた。

迎えに来たという、こちらもセンスの良い、高級感に溢れた服に身を包んだ20代くらいの男性に、馬車に押し込められる。


馬車などではよくケツが痛くなるという話を聞くが、乗り心地の悪くない馬車だった。

一体いくらかけてんだよと突っ込みたくなる馬車に揺られ、今までに行ったことのない閑静な住宅地の方へと入って行く。

高級感溢れる住宅地の中を進み、その中でも一際でかい屋敷へと、馬車は入って行った。

応接室らしき部屋へと通され、出されたお茶を飲みながらしばし待つと、ドタドタと重たい足音が聞こえて来た。

ガチャリと扉を開けて入って来た者を見て、


(うわ、豚というよりブルドッグ)


そんな感想を抱いてしまった。

目つきが悪く、垂れた頬。牙を生やしたら鬼の面にも似てるんじゃないかと思ってしまう。

揺れる腹をゆさゆさと揺らしながら、短い足で歩き、私の向かいのソファーに偉そうに座り込む。

しかし、こういう奴って大概趣味が悪い感じなのに、着ている服もセンスが良い。

言ってしまえば、センスが良すぎて反対にアンバランスに見えてしまう。なんだこの現象。

執事と思える人が脂肪の後ろに立ち、同じような格好の若手の2人が私の後ろに立った。

なんだか嫌な配置だ。


「私の名はトンコレラ・アブーラ。この街を治めている者だ」

「冒険者をしております、ヤエコと申します」


代理だろ!の突っ込みは飲み込み、素直に挨拶する。


「さて、早速だが、本題に入るとしよう。その猫、いくらで売る?」


直球で来やがった!

頭の中で考えた台詞を読み上げる。


「最初に言っておきますが、なにやらよからぬ噂が流れているようですが、私の抱えているこの黒猫は、ただの普通の猫です。そして、ただの普通の猫ですが、この子は私のたった1人の残された家族です。手放す気はございません」


言い切った!

豚の病さんの顔が歪む。あからさまに否定されたのがきっと面白くないのだろう。


「言い値で買う、と言ってもか?」

「私の提示する金額を一括で支払って頂けるなら考えましょう」

「ほお?」


ブルドッグ顔が歪む。どういう表情しても、歪んでいるようにしか見えないね。

多分これはニヤリの顔だろう。


「いいだろう。言ってみろ」

「白金貨100万枚」

「ひゃ…?!」


ブルドッグの目が目いっぱい見開かれた。

後ろの執事さんの顔も引き攣っている。

私の後ろにいる人達がどんな表情してるのかちょっと気になるなぁ。


「く、国どころか、大陸も買えるぞそんな金額!!」


ブルドッグが吠えながら短い足で立ち上がった。


「私にとっては、この子はそれだけの価値があると言うことです。できないのなら、お断りです」


そう言って頭を下げて、立ち上がろうとしたが、肩を押さえられ、立てなくなってしまう。


「ふん、この街で私に逆らう者がいるとはな」


豚犬がパンパンと手を叩くと、魔道士のようなローブを羽織った背の高い男の人が入ってきた。


「素直に金を貰っておけば、今までのように平穏に過ごせたのにな」


ブルドッグの顔が醜悪に歪む。

すすすっと寄ってきた執事さんが、私の膝の上にいたクロを無理矢理抱き上げた。


「クロ!」

「フギャアゴ!」


クロが嫌がって凄い声を出し、暴れる。

猫を飼っている人なら分かると思うが、猫というのはつかみ所がない。余程上手く保定しないと、猫は僅かな隙をついて、するりと手の中から抜け出してしまうものである。






作者が前にお世話していた茶虎の子は、暴れ方も上手く、手、足、腹、頭を保定しないと注射もまともに打てないほどの暴れ上手であった。若かりし頃、三種混合ワクチンを打ちに行った時、注射を打つとなった時に、先生が3人ゾロゾロ入って来たのには驚いた。そしてなんだか申し訳なかった…。

猫は液体である説。正論ではないかと思ってしまう。






つまり、掴み慣れない人が猫を掴むと、

するり

とそうなる。

手袋してるし、余計だろう。

抜け出た猫は、あ、と思う間にすでに走り出している。着地と共にダッシュである。

テーブルに飛び上がりソファを駆け上がり、私の肩を押さえていた男の人の背を勢いよく滑り降り、


「あ―――――!!」


うん、痛いよね。あれはきっと、背中に跡ついてるよ…。

手を伸ばして来たもう1人の股下を潜り、ソファーの陰を回り込み、テーブルの下を駆け抜け、伸ばされてきた手を掻い潜り、キャビネットの下へ。

クロの駆け回る姿をおたおたと追いかける様子に、ちょっといい気味と思ってしまう。


「何をしている! 早く猫を捕まえろ!」


言うだけで何もしない豚の照り焼き、じゃない丸焼き、いやまだ焼けてない、豚コレラさんも、ソファーに座りながらオタオタしている。ちょっとは自分で動こうよ。

執事さんが名誉挽回とばかりに、膝を付き、キャビネットの下を覗き込み、手を入れ始める。


「フウウウウウウ…ウワアアアアアアア」


ああ、この声、クロ大分怒ってるね。

いわゆる喧嘩の時に出す声、だ。

本気で嫌がっている時もこの声が出る。

この声を出している猫に、不用心に手を伸ばすと、


ぱん!


キャビネットの下からいい音が聞こえた。

猫パンチが飛んで来たのであろう。

猫の猫パンチはある意味小手調べ的なものである。

訳の分からんものはとりあえず叩いとけ。みたいな教えがあるのかどうか分からんが、猫は初めて見るものにとりあえず猫パンチはしておく、なんてこともあったりするのだ。


「フギャアアアアアア!!!」


クロの声が一段高くなる。

猫パンチに怯まず、執事さんが腕を奥に突っ込んでいく。

ああ、これはもう…。


「うぎゃああああああ!!」


執事さんが悲鳴を上げた。

これは猫の必殺技が出たのであろう。

必殺技と聞いて猫キックを思い出した人はまだまだである。猫キックは最終奥義だ。

猫キックはその弱点でもある腹をさらけ出さなければならない技なので、余程近接していて手が出せない時や、マウントを取られた時などに使われるものである。あとは興奮して見境がなくなってしまい、とりあえず手近なものにかじりつく時など…。この時の被害者は大概猫の飼い主であるが…。


では必殺技とは?

文字通り必殺。必ず殺す技。そう、「噛みつき」である。

猫だってしっかり猛獣の仲間である。

可愛い顔して、何気に立派な牙を持っている。この牙を使い、捕まえた獲物にとどめを刺す。

知っているとは思うが、猫科の動物は大抵獲物の首に噛みつき、窒息させて殺す。そして美味しく獲物を頂くのだ。

つまり必殺技なのである。


猫に本気で噛まれると、痛いどころの騒ぎではない。と聞く。

猫と一緒に暮らしていれば、そりゃ噛まれることなど度々あるが、本気で噛んでくることは滅多にない。本気で噛むなど余程のことである。

本気で噛まれると手に穴が開くこともあるらしい。

そんな一撃をまともにくらったらしく、執事さんが大急ぎで手をキャビネットの下から引っこ抜く。

あ~あ、白い手袋が赤く染まってるよ。


「あああ! アブーラ様! 治療を!」

「やかましい! そんな怪我ほっときゃ治る! それより猫だ! 早く猫を引っ張り出せ!」


執事が痛さのあまり豚に縋るが、豚はそんなものに見向きもしない。

うわ~、イラッとする。他人事ながら、血を出しているのを見るとやはりちょっと可哀相になる。部下は労らないといつか足元を掬われるよ?

それに、猫の牙って結構雑菌だらけだったりするから、ちゃんと消毒しないとダメだと思うんだけど。まあいいや。ほっとこう。


私の後ろにいた背中をスライディングされなかった方が命令されて、怖々キャビネットの下を覗き込んでいる。


「フウウウウウウ…」


暗い中光る猫の目は、見慣れないと無気味である。

ただし、猫好きには可愛い瞳にしか見えないけれど。

あれ怖いって言う人、ホラー映画の影響ですかね?実際暗いところの猫の瞳って、まん丸で可愛いんですけどね?


「オアアアアアアアオウウウウ」


クロの声が大きくなると、腕を入れようとしていた執事2が、ビクッと腕を縮込ませてしまう。やはり怖いのだろう。


「何しとる! 早くしろ!」


自分でやれよ。

ブチ切れてる猫は猫好きでも怖いんだぞ?

手を入れようとしてビクッとして、また手を入れようとしてビクッとして。

待ってたら日が暮れちゃうんじゃ?

これどうなるんだろうとボンヤリ見ていると、ローブを羽織った背の高い男の人が、脂肪豚に近づいて言った。


「アブーラ様。どうやら、その猫は本当にただの猫のようです」

「む? なんだと?」

「魔獣がただの猫に擬態しているのかと思ったのですが、魔力検知をしてみても、その猫に魔力はほとんど感じられません」

「どういうことだ?」

「魔獣はその魔力保有の高さから、魔獣と呼ばれます。魔力を持たないものはただの獣です。その猫はほとんど魔力を持っていない。つまりただの猫です」

「そ、そんなバカな!」

「だから最初からただの猫って言ってるでしょうが」


我慢できず口にしてしまった。

豚がこちらを睨んでくる。悪いのはそっちだろうに。私は最初からそう言っていただろうに。

豚は何やらマゴマゴしていたが、短い足で立ち上がると、


「ならばそんなものに用はない! とっとと帰れ!」


そう言うと部屋からドシドシと出て行ってしまった。

ローブの男も後に続き、手を怪我した執事さんも苦悶の表情を浮かべながら出ていった。

後に残った執事2人。

私の肩を押さえていた手は既に取り払われている。

キャビネットの下を覗き込んでいた執事2さんは、無表情を装いながらも、ちょっとほっとした顔をしている。


とっとと帰れと言われたし、私もこんな所さっさと出ていきたい。

よっこらと立ち上がると、クロが潜り込んでいるキャビネットの所へ行き、下を覗き込む。


「ウウウウウウウウ」


まだ興奮してるな。


「クロ。クロ。もう終わったよ。帰ろう」


あああ、可愛いお目々がまん丸ですう。可愛いいいいいい。

いや、余程興奮したのだな。怖かったのかな?

いきなり手を入れるなんて愚行はしません。興奮している猫は、飼い主だなんて見分けてくれません。近づく者は斬る!くらいの心情なので、落ち着くのを待ちます。


「申し訳ありません。できれば早めに…」

「ああなったら飼い主の私でもどうにもできません。あんなにしたのはあなた達でしょう」


執事2さんが黙り込む。

まったく、勝手な奴らだ。

と、クロがゆっくりとキャビネットの下から出て来た。


「クロ? 大丈夫? 帰ろ?」


クロの鼻先に指をゆっくり近づける。

その臭いを嗅ぐ。スピスピ動く鼻が可愛いいいいいい。

ゆっくりと、私の肩に這い上がる。

あああああ、この密着感が堪らんんんんん。

左の肩に這い上がり、首筋にピタリと顔を寄せ、ぎゅうっと抱きつくように体を密着させてくるクロに内心悶えながら、その体を左手で包むように抱え上げ、右手で軽く体をさすってやる。

その後執事2さんに案内されて、屋敷から無事に脱出した。



行き当たりばったりで書いてる感が否めない。後で修正が必要になったらどうしよう。

体力が続く限り、なんとか書いていきたいです。

昨日は書きながら寝てしまってました。

よほど疲れとったんやな、わし。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 作中に作者さんの話が入ってしまってるので、主人公が昔飼ってた事にするか後書きに入れるといいと思います。
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