プロローグ
「H91でV21。8人小隊!」
猫の耳をつけた青年が望遠鏡を覗きながら叫ぶ。深夜の平原では4人の兵がはるか1km遠くの敵と交戦していた。猫の耳の青年が敵を見つけ、二人の『宇宙飛行士』がレーザー兵器を操る。後ろで地図を睨む少年は伝令役だ。
1km彼方、彼らが見つめる山の中には何百もの兵士が潜んでいた。
「H91、V21。あぁいたいた。H91.3V21.0。座標調節完了だ。そっちは?」
「機器較正完了よ。いつでもいけるわ。」
二人の『宇宙飛行士』は、プロパンガスのボンベ程の大きさをしたレーザー装置を操作する。機器較正を終えたレーザー装置は、背後の宇宙船から電源供給を受けつつ、しきりにガチガチと金属を弾くような音をたてていた。
「人を傷つけるために持ってきた訳じゃないんだけどなあ」
『宇宙飛行士』の男はため息混じりにぼやく。本来研究用途でしか用いられないレーザー装置には、養生テープで天体望遠鏡用スコープが取り付けられていた。彼は少し躊躇しつつも、レーザー装置に埋め込まれた赤いボタンを押下する。その瞬間、高いエネルギーを帯びた緑光が遥か彼方の山へと放たれた。
『宇宙飛行士』はレーザー装置に取り付けたスコープ越しに着弾を確認する。レンズの向こうには、顔を抑えてうずくまる鎧の兵士がいた。
「トードさん、まだそんなこと言ってるんすか。ほら、次行きますよ。H92でV23.5です。3人組。」
猫の耳の青年は相変わらず元気な声で敵の座標を伝える。二人の『宇宙飛行士』はやれやれ、と言った表情でお互いの顔を見合わせて、再び照準を合わせ始めた。
なぜ『宇宙飛行士』らはレーザーで兵士を撃つことになったのか。そもそも話は4日ほど前に遡る。