第4話 ヒロイン、攻略対象と出会う
放課後。
とある扉の前で立ち尽くす少女が一人。
後ろからトントンと肩を叩かれ、彼女はビクッと震えた。
「セーラ?」
「な、ナタリア様でしたか……」
廊下の角から逃走したあの日からちょうど1週間。
セーラはひどく周りの様子を気にするようになっていた。
ぶつかっただけ。そう、ぶつかっただけだ。
悪気はなかったし、王子様は生徒たちの間でも優しいと評判だし、あれでも一応謝ったからきっと許してくれたはず。
なのに、あの笑顔を思い出すとなぜか悪寒が走った。
忘れようとしても忘れられない。
心から反省したセーラは、間違っても人にはぶつからないよう注意している。でもって、念には念を入れて周りを警戒しているのだった。
ナタリアが開けた扉を通ったセーラは、肩の力を抜いてハア……とため息。
二人が入ったのは貸し切りの談話室だった。
ナタリアが学園にいる間は永久使用許可を取っているとかで(いつ・どのような手段で誰に取ったのかは不明である)、放課後になると少女たちはここに集まるようになっていた。ナタリアが独自に開発した魔法をかけており、認証されないと扉が開かないらしい。「セドリックだってここには入れないわ」と彼女は得意げに語った。
恒例になったおしゃべりタイムを楽しんだあと、ナタリアのほうにお迎えが来たため、二人は別れた。
ノックされた扉を開けるやいなや、ナタリアは婚約者に引きずられていった。
5限の授業で爆破した実験室の一部。その片付けがまだ終わっていないという。セーラも「何やってるんですか」とは言ったものの、すでにナタリアが引き起こす事件には慣れてきている。
「いや、慣れちゃっていいの?これ……」
セーラは、お菓子や本を広げていたテーブルを片付ける。そしてキャンディの包み紙を見つけて、クスリと笑った。はじめて出会った日、ナタリアとセドリックは二人揃って「お詫びに」とお菓子の詰め合わせを持ってきてくれたのだ。腕にズッシリとくる重みに戸惑いつつ、ありがたく受け取った。
そうして扉を出てすぐ。
セーラは、トントンと肩を叩かれた。
「ナタリア様、忘れ物でもー」
しましたか、と言いかけて振り向くと。
「ひぃっ!?」
ニコニコ笑う悪魔が立っていた。
不敬罪、退学、投獄……物騒な言葉のオンパレードがセーラの頭の中を駆け巡る。
この間、と王子は口を開いた。
「廊下の角でぶつかって逃げ出したのは、君だよね」
「あの日から──」
ポツリとこぼす。
「君のことが気になって仕方がないんだ」
よ、余計なフラグが立ったーーっ!!!
ゲームと違ってリセットボタンは見つからない。
この状況を脱するべく、セーラは必死で頭をフル回転させ始めた。