08
「さて、と。アレイスター、一つ始める前に言っておこう」
「はい。お父様」
「人化の術を解いてもいい。それからブレスもありだ」
「……本気ですかお父様」
ああ、本気だとも。これでもぼくは賢者。ドラゴンとはいえ積み上げてきた歴史の重みが違う。
「殺す気でかかってきなさい」
「……いいでしょう。たとえお父様でも容赦しません!」
言い終わるかどうかのタイミングでアレイスターは動き出す。リリスとの戦闘で慢心を捨てたのか冷静に身体強化系の付与魔術をかけている。その動きは常人では目で捉えられない。まさに目にも止まらぬ動きだ。しかし、対処できない訳ではない。
「ゴーレム創造」
地面から土でできた巨大な腕が出てきて、その腕によってアレイスターの攻撃は防がれる。
ゴーレム創造の真髄は、単に土から人形を作ることではない。こうやって人体の一部を構築することも可能だ。土や石、砂のような非生物を原料に命の息吹を吹き込み、操ることこそがゴーレム創造の本質。
「ファイア」
だが、原料が土であるがゆえに魔術への抵抗は低い。だから、アレイスターの唱える魔術によって即席の防壁は粉砕される。
「もらった!」
「甘いよ」
ゴーレム創造の応用で土を操って足場の地形を変化させる。そのせいでアレイスターの踏み込みも無駄になる。そしてそのままアレイスターの足場の土をゴーレムにしてアレイスターごと取り込もうとするが、アレイスターがそれに気付かない訳がない。飛行の魔術ですぐに離脱する。
「人化の術を解いてもいいんだよ」
「後でその台詞を後悔させてあげますよ!」
人化の術が解けてアレイスターがドラゴンへと変わっていく。いや、本来の姿に戻っていく。さらに、喉の辺りが徐々に膨らんでいく。ブレスだ。
当然のことながら、ドラゴンのブレスなんてまともに食らって立っていられる訳がない。
「ゴーレム創造」
前衛となるゴーレムを二体創造し、さらに魔術抵抗を高めるために特殊な術式を編み込む。
「ガアアアアアア!」
ブレスが襲う。属性はアレイスターが得意とする火。前衛となる二体のゴーレムで防ぐしかない。ぼくを守るゴーレムはブレスの一撃だけで二体とも崩れたが、ブレスも連続して放つことはできない。
「ゴーレム創造」
砕かれたゴーレムの代わりに新たなゴーレムを創造する。ただし、今までのゴーレムとは全く違う。今までのゴーレムはぼくを守るためのものだったが、このゴーレムは攻めるためのものだ。固さと重さだけを追求し、機動力を完全に無視する。なぜならば、このゴーレムはある攻撃をするための固定砲台でしかないからだ。
「撃て」
ゴーレムの両手がアレイスターに向かって突き出される。そして、その腕を形作る土は次の瞬間から弾丸となって凄まじい速度で打ち出される。
「こんな攻撃!」
アレイスターは回避行動さえしない。ドラゴンの鱗は魔術抵抗が高く、普通の魔術では傷一つつけられないからだ。
だが、それをわかっていて魔術による攻撃を行うほどぼくも馬鹿ではない。
「っ!?」
土の弾丸はアレイスターの鱗を傷付け、時には鱗の下の肉ごと引きちぎる。
「アレイスター、鱗を過信し過ぎだよ。どんなものにも例外ってものがある。この弾丸は魔術によって生み出された土じゃない。自然界に存在する土だ。鱗が無効化してくれるのは、魔術によって生み出されたものであって自然界に存在するものは無効化できない」
「まだ、まだだぁ!」
アレイスターは諦めないが、それ以上はまずい。
「そこまで!」
リリスが止めに入ったことでアレイスターも人の姿に戻った。ドラゴンの姿でのダメージが人間の姿にも影響を及ぼし、ところどころ皮膚が破けて肉が見えるほどだった。
けれど、心は折れていない。ぼくへの対抗心に燃えていた。雰囲気は険悪としか言いようがない。
そこでリリスはぼくに目配せした。
「後はお二人で」