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07

 まず動き出したのはリリスだった。人間の姿のままとはいえアレイスターはドラゴン。後手に回れば不利になるとわかっているのだろう。

 リリスに魔術を教えたのはぼくだが、本当に基礎の基礎くらいしか教えていない。だから、リリスは書物から魔術を学んだ。そのせいか、リリスの扱う魔術は範囲が広い。ぼくのような研究ばかりする魔術師を一点特化型とするなら、リリスのような実用性重視の魔術師は万能型と言えるだろう。その分、戦略も多種多様だ。


「エンチャント」


 リリスが初めに使ったのは身体強化系の付与魔術だ。勘違いされやすいが、魔術師は魔術を行使する固定砲台ではない。相手の動きに合わせて攻撃しなければ魔術は当たらないのだ。つまり、魔術師といえど機動力は必要不可欠。そのためのエンチャントなのだ。


「ファイア」


 対してアレイスターはよほど自分の速度に自信があるか、エンチャントは使わずに早速攻撃魔術を放つ。それも攻撃力が高い火の系統の魔術だ。

 アレイスターの魔力によって生み出された火は複数の拳大の球体になって空中を舞う。


「へえ、線ではなく面での攻撃か」


 広範囲殲滅術式ならともかく、普通の魔術では直線上の敵にしか当たらない。ならば、数を増やしてできるだけ広い領域を自分が攻撃できる有効範囲にしてしまう。それがアレイスターの戦術だ。

 事実、リリスは防御と回避で手一杯だ。今はまだエンチャントの魔術で現状維持できているが、このままではジリ貧だろう。


「ウォーター」


 リリスは水の魔術で相殺した。だが、あくまで相殺だ。マイナスをゼロにしただけで、プラスに傾いた訳ではない。


「お母様、防戦一方ですよ!」

「アレイスター、やはり実戦経験が足りませんね」


 そうだ。アレイスターは気づいていないが、リリスは王手をかけている。


「チェックメイトです」

「どこがですか!」


 そう、アレイスターは気づいていない。リリスが防御しながら描いたアレイスターを中心とした魔術陣のことを。


「起動せよ」


 魔術陣が発動する。その効果は以前ぼくがアレイスターに人化の術を施したものと同じものだ。そのことにアレイスターも今になってやっと気づく。


「ま、まさか、ぼくの魔術回路を乗っ取る気ですか!」

「そんなことしませんよ、マスターじゃあるまいし」


 確かにあの術式は相手の魔術回路の制御を奪うことができる。だが、戦闘中に使えるほど簡単な術式じゃない。リリスが用いたのは魔力の吸引だ。ただそれだけ。だが、仮にもドラゴンであるアレイスターの魔力を奪っているのだ、リリスに莫大な量の魔力が集まっている。


「招来せよ」


 リリスが起動の鍵となる言葉を唱える。


「させません!」


 アレイスターが魔術陣から動き出そうとするが、甘いと言わざるをえない。


「えっ」


 アレイスターが動こうとすると地面がぬかるんでしまう。恐らくあれは土の系統の魔術だろう。いくらドラゴンの膂力を持つアレイスターでも足場である地面が泥になれば動けない。

 これはもう勝敗が決したといってもいいだろう。

 そう思った瞬間。


「飛行」


 アレイスターが飛行の魔術でぬかるみから素早く抜け出し、ドラゴン持ち前の脚力で一気に間合いを詰めた。


「はい、そこまで」

「よくできましたねアレイスター。まさか飛行の魔術まで習得済みとは。でも慢心はいけませんよ」

「はいお母様。魔術陣を発動させられた時点で負けを覚悟しました」

「二人ともお疲れ。アレイスター、これ飲んで」

「これは?」

「魔力回復のポーション。ぼくとも戦うんだろう?」

「え、でもいいんですか?」

「もちろん。もしかしてアレイスターはぼくとの稽古は嫌かい?」

「い、いえ。ぜひ稽古をつけてください!」


 アレイスターは嬉しそうに笑った。

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