06
アレイスターが人化の術を習得してから一ヶ月。最近はずっと人間の状態を保ったままだ。
「お父様、お願いがあります」
「ん、なんだい?」
アレイスターがわざわざぼくにこうしてお願いするなんて珍しい。アレイスターは子供の癖にどうも賢しいところがあって甘えることがあまりない。まあドラゴンという生き物は崖から我が子を突き落とすことを普通にやっているしこれは種族としては正しいのだろうが、ぼくやリリスはドラゴンじゃない。だからお願いがあるならできるだけ叶えてあげることにしている。
「稽古をつけてほしいのです」
「稽古」
「私とてドラゴン。強さを追い求める本能を抑えることはできません」
確かにドラゴンは種族として闘争心が強い。基本性能だけでも他のあらゆる生物を超えているが、それ以上に強者との出会いを望んでいる。一種の恋のように。
なら、訓練してやるのも親としての義務の一つだろう。
「わかった、ついておいで」
ぼくが連れ出したのは、諸事情により封印されていた部屋。この部屋にはとある術式をかけており、無人の大陸へとつながっている。
「じゃあ稽古を始めようか」
「お待ちくださいマスター」
「ど、どうしてリリスが!?」
ここはぼく自らが封印していた。アレイスターはもちろん、リリスでも入れないはずだ。
「そんなことはどうでもいいじゃないですか」
「まあ、いいか」
リリスはぼくが――というよりも、ぼくらが――生み出したホムンクルスだが、いまだに謎や秘密が多い。魔術を究める学徒としてそういった隠された真実は暴きたくなるのが性だが、リリスに関しては下手に関わらないようにしよう。
「さて、アレイスター」
「はいお母様」
「稽古をつけてほしいのであれば、マスターの前に私を倒してからにしなさい」
「はい!」
「マスター、審判をお願いします」
「わかった、危なくなったら止めるよ」
「それからアレイスター。ドラゴンの姿ではなく、人間の姿のままで戦いなさい。それがペナルティーです」
「はい!」
こうして訓練が始まった。