05
アレイスターが生まれてもう一年。ドラゴンの成長は他の生物に比べてもはやく、既にこの研究所ではアレイスターにとって狭くなっていた。なにせ、この研究所は天然の洞窟を拡張したものだ。一応大きな機材を使えるようにと広く作ってはいたが体長5メートルを越えたアレイスターには手狭だ。
「すみませんお父様」
「まあアレイスターはドラゴンだしね。遅かれ早かれこういう事態にはなっていただろうし」
「しかしマスター、一体どうするんですか? こういうことはあのお方が得意とすることですが」
「よしてくれよ、あいつのことは友達だと思っているけど積極的に会いたいとは思わない」
魔術師というのは大概友達が少ない。友達が多い魔術師というのはよほどの大物か詐欺師といっても過言ではない。ぼくが通っていた魔術師のアカデミーでは『友達を作る魔術師は大成しない』というジンクスがあった。ジンクスが本当だったのかはわからない。だが、一流の魔術師として職を得るようになったのは卒業生の一割。しかも、一癖も二癖もあるような変人ばかり。その事実がジンクスを裏付けている。ぼくも例に漏れず友人が少ない。というか、あいつを除いて一人もいない。けど、あいつはなんていうか友人というより悪友って感じがする。それもあまり思い出したくない種類の。
「一応対策は立ててあるよ」
「さすがお父様!」
「アレイスター、マスターを持ち上げ過ぎないように」
「どうしてですかお母様?」
「マスターのことです、爆発するのがオチですよ」
「そんなことしないよ、ひどいなリリス!?」
「新しい理論を実証するとか言ってゴーレムを爆発させたのは何百年前のことでしたか」
「うっ!」
「お父様、いいからやってみてっください」
「はぁ、失敗したらマスターとアレイスターも片付けを手伝ってくださいね」
それだけ言うとリリスは奥へ引っ込んでいった。残ったのはぼくとアレイスターのみ。
「それじゃ始めてみますか」
「はい、お父様!」
ぼくは専用のチョークで床に魔術陣を描いていく。ぶっちゃけ、この魔術をアレイスターに試すのは初めてだし、ぼくの魔力では起動すらできない。だから、魔術陣をわざわざ描く必要があるのだ。
「アレイスター、この魔術陣の上に立って、ゴーレムを作るようにこの魔術陣に魔力を流して」
魔力を帯びた魔術陣が光り出す。この魔術陣はアレイスターの魔力を吸い出し、魔力の流れを活性化させる。そこにぼくが活性化して動かしやすくなった魔力に干渉し、アレイスターにとある魔術をかける。
「お父様、変な感じがします」
「それでいいんだ。アレイスターの内側にある魔力に干渉しているんだから」
アレイスターの身体が輝き出す。この光は魔力によるものだ。つまり、魔術が成功したという証明だ。
「お、お父様」
「うん、成功だ」
アレイスターがドラゴンから人間へと変貌していた。外見年齢は十歳くらいであろうか、ぼくよりも目線が少し低い。
「お父様、これは……?」
「人化の術だよ。この姿なら大きくなってもそんなに窮屈にはならないだろうし。ドラゴンとしての能力も一部なら使えるようよ。もっとも、厳しい制限があるけど」
そう、人化の術の利点はどんなにドラゴンとして成長しても人間形態ではそこまで大きくならないのだ。
「それと、これからは自分でできるように、今の魔術の感覚を忘れないようにね」
「はいお父様!」