03
アレイスターが生まれて一ヶ月が経った。身体も大型犬ほどに大きくなった。頭の方も発達してきたようで幼いながらも言葉を上手に操っていた。当然ながら好奇心も強くなりより活動的になっているがさすがに研究所から出る様子はない。元から賢いこともあってむやみに外に出ないのでこちらとしては変な心配はない。
「お父様、遊んでください」
そう呟くのは遊びたい盛りのアレイスター。
「リリスと遊べばいいじゃないか」
「お母様はお父様の仕事を手伝っていて遊んでくれないのです」
なんとなくわかった。恐らくぼくがレポートやら資料やらを適当に並べているからその整理に忙しいのだろう。
「それに、お父様はめったに遊んでくれないし」
「わかった。遊ぼうじゃないか。それで、何がしたい?」
「魔術を見たいです!」
「それは別にいいけど、魔術なんか面白い?」
「『できないことに憧れるのは全ての始まりである』って本に書いてありました!」
アレイスターはリリスによって文字も学んでいるからあの本を読めたのだろう。だが、それを書いたのは他ならぬぼくだ。備忘録として書いたのだが、まさかこんな形で自分の言葉が自分に返ってくるとは。こんなことを言われてしまえば期待を裏切る訳にはいかない。
「わかったよ」
だが魔術と一口にいってもその種類はおまじないから呪いまで幅広い。さて、何がいいだろうか。
「錬金術を見せてください! お父様の専門の錬金術を!」
「ホムンクルスとかはそう簡単に作れないよ? 黄金の錬成は地味だし」
「ゴーレム、ゴーレムを作ってください!」
ゴーレムか。
ゴーレムの創造は錬金術の初歩にして究極。初心者でも簡単に作れるが、こだわろうとすれば限りなく人間に近いものができあがる。
「じゃあそうだね、ちょうど手元に適当な粘土があるからこれでゴーレムを作ろう」
イメージするのは二足歩行する人形。そこに魔力を送り込む。ただ魔力を注ぐのではない。全体に行き渡る血液のように魔力を込めるのだ。さらに生物の心臓にあたる部分を重点的に魔力を注ぐ。あとは、起動の言葉を言うだけだ。
「起き上がれ」
その一言で流動した粘土は一気に固体へと変化を遂げる。彫刻家が材料を彫るように粘土の余計な部分が削ぎ落とされていく。だが、形状は人間とは違う。頭と胴が首を経由せずにくっついており、手足も不格好に太かった。大きさもせいぜい片手で持ち上げられる程度しかない。
「完成だ」
「すごい、すごいです!」
「もっとも魔力の供給をやめてしまえば元の粘土に戻るけどね」
ゴーレムを操作するのに特別な呪文は必要ない。術者が脳内で命令すればいい。
「歩け」
「あ、すごい! 歩いています!」
「じゃあ、もっとすごいものを見せてあげよう」
ぼくはある命令をゴーレムに送る。これは驚くだろう。
ぼくの命令でゴーレムは右腕を水平に持ち上げる。これは反動が激しいから左腕で右腕を支えなくてはならない。
「撃て!」
ゴーレムの右腕が消えた。いや、消えたかのように見えた。ゴーレムの右腕がすごい勢いで発射されたのだ。
「すごいすごい!」
「まあこれでも自分の専門だからね」
「そうですね」
「リ、リリス!?」
ぼくらの背後にリリスが立っていた。おかしいな、ぼくはリリスに不可視化の魔術を教えていないはずなのに。
「私の仕事が増えるので少しは自粛してください」
「はい」
「はぁい」
それだけ言うとリリスはまたどこかへ行った。たぶん発射された右腕の片付けだろう。
「お父様、ゴーレムの作り方をあとで教えてくださいね」
「もちろんだとも」