第7話 はじめてのゴブリン
昼食は昨日とは違う店に入ってみた。ここはどちらかと言えば喫茶店に近く、女性客が多かった。頼んだのはサンドイッチとスープ、中身は肉、野菜、玉子。昨日と今日食べた感じだとご飯の時のスープは味噌汁に近く、パンにはコンソメスープのような物が付いて来た。味は地球で出されてもちゃんとお金を払えるレベルの物しか見ていない。食文化は間違いなく高いと見ていいだろう。
女性客にはケーキが人気のようで殆どのテーブルにケーキが出ていた、美味しそうだなーとは思ったが昼間に一人でケーキを食べるのは若干の抵抗を感じたので今回はそのまま店を出る。
「さてと、図書館探しも兼ねて王都見学と行きますかー」
一旦メインストリートに戻り、王城を目指して歩いて見る。昨日と同じで様々な露店が出ている、それに商店もかなり並んでいる、パン屋や喫茶店等も見える。さすがに王都のメインストリートだけあって非常に賑わっており、歩くだけでも楽しい。王城に近付くにつれ、徐々にお店の数も減ってくる。代わりに豪邸が増え始めた、多分これは貴族の屋敷だろう王城を囲むように屋敷が立っているようだ。
さすがに王城は掘の外側からしか見る事が出来なかったが某テーマパークのキャッスルのような城で非常に美しかった。堀をぐるりと回り、街の反対側へと進む。こちらは大きな建物が多い、同じ服を着た子供が近くを歩いていたので恐らくあれは学校だろう。
「お、もしかしてあれは図書館じゃないか?」
先ほど見えた学校よりも一回り小さい石造りの建物が目の前にある。入り口に本のマークがあるので多分図書館だろう。取り合えず入って見て違ったら謝ればいいだけだしね。
「こんにちわ。本日はどのようなご用件ですか?」
見た感じは図書館なのだがこの聞かれ方では分からない・・・。
「えっと、初めてなんですけどここは図書館ですよね?」
「はい。ここはジャガール王立図書館です。本の閲覧は1日銀貨1枚、本の破損は罰金として金貨1枚。盗難が発覚した場合は法律により罰せられますのでご注意下さい」
「分かりました。閲覧お願いします」
「はい、それでは身分証明書の提示をお願いします。ありがとうございます、それではどうぞお入り下さい」
受付で冒険者証を出して銀貨1枚を支払う。読みたい本は一旦受付に持って行く必要があるが多少の手間はしょうがない、この世界では本は基本的に手書きなので非常に価値があるのだ。読みたい本を受付に持って行くのも破損や盗難のチェックの為だ。
知りたい情報は沢山あるが、まずはこの世界の成り立ちから勉強していく。その中で神様の名前も判明した。まず主神が大自然と生命の神フェアリーナ、そして夜と死の神リヴァイア、時と金の神ガイジ、学問と魔法の神グラノス、戦いとダンジョンの神クラリオンらしい。その5神がこの世界を造り管理している、そしてこの世界には3つの大陸があり、俺が降り立った一番大きい大陸で中央部分にあるアース大陸、北に位置するノース大陸、南に位置するサース大陸というらしい。北の大陸には基本的に魔族が住んでいて、南の大陸は殆ど開拓されていないモンスターが跋扈する大陸と言われている。それはどうやら神話の時代から殆ど変化が無いと書物から読み取れる。
他にもどうやって今の国々が出来たのか、魔王と勇者について等様々な神話や実話の本を読み進めていく。一般常識だけでは知りえなかった情報がいくつも載っていた。
「げ、もうこんな時間か。今日はここまでにして宿に戻るか」
黙々と読んでいる間に19時になってしまった、図書館自体は21時迄開いてるという事で大丈夫だったのだが取り合えず今日は夕食を食べて宿に戻る。
次の日は朝食を食べて朝から図書館へと向う。今日は魔法やダンジョン関連の本を読もうと思っている、特に魔法については全く実感も無く、理屈も分からないのでしっかりと勉強する必要があるしダンジョンの本も事前知識としてしっかり調べておくべきだろう。他にもモンスターに関する書物にも目を通したい。それが終わったら依頼を受けてみたいと思う。
結局、知りたい事を調べるのに最初の日も入れて3日掛かった。魔法はバカみたいに連発しなければなんとか誤魔化せそう、ただあまり人前で使わない方がいいだろう。ダンジョンについては神が創った試練で様々な場所にあり、その難易度にもランクがあるらしい。クリアするのは大変だが不可能ではないと宣言されており、富や名声を求めた冒険者が日々挑戦している。勿論クリアすれば貴重な宝も手に入るし名誉も手に入るだろう、しかし死の危険も勿論あるわけで年間にそれなりの数が戻って来ないと言われている。
他にも色々な本を読んで沢山の知識を得る事が出来た、非常に有意義な時間だったと言えるだろう。そして知識が手に入ったのでやっと次の段階へと進む。そう、レベル上げの為に戦闘を行うのだ。まずは冒険者ギルドに向かい基本のゴブリン討伐依頼を受ける。
「こんにちわグレンさん、これが初依頼ですね!頑張って下さいね、ただお一人ですし無理はしないで下さいね、危ないと思ったら直ぐに撤退してご自分の命を守って下さい!」
「はい、気を付けて行って来ます!必ず無事に帰って来ますから!」
と、若干大げさなシーンがあったが俺は今初めての依頼に挑戦する為に街の外へと来ている。街道から逸れて森へ向いゴブリンを探す。今のクラスは忍者/義賊で武器は誰かに見られる可能性を考えて片手剣1本だけだ。忍者の利点はいくつかあるが一般的なものは『気配察知』『隠密』だろう、そして『レーダー』も非常に便利なスキルだ。『気配察知』は指定した範囲内の味方や敵の気配を把握出来る、『隠密』は逆に自分の気配を消して敵に近付く事が出来る。そして『レーダー』は視界の隅に小さな方位磁石っぽい円が出て来て、自分を中心とした一定範囲を『気配察知』して、仲間なら青、敵なら赤、不明なら緑の点で表示される。これは義賊にも備わっているスキルだが忍者なら忍術『隠遁の術』で透明になれるので更に隠密行動に特化する、ほかにも『影渡りの術』や『空蝉の術』という忍術等がある。
そしてそのレーダーに反応があった。反応の元に向うと1匹のゴブリンがウサギのような動物を食べていた。
「あれがゴブリンか・・・」
▼ゴブリン 0歳
戦士Lv1
ゴブリンは練習相手にもならない相手だ。
「弱いっ!あっ!」
思わず声を上げてしまいゴブリンに気付かれてしまった。
「ひっ、思ったよりも迫力あるな・・・怖えぇ~」
素手のゴブリンがこちらに向ってくる。思ったよりも迫力があって変な声が出てしまった。流石に地球ではこんな経験なんてした事がないので緊張で心臓がドクドクと激しく動いている。
向ってくるゴブリンを横一文字に切り捨てようと剣を振るが思った通りに剣が動かない、効果音が付くとしたら「へろへろ~」に違いないであろうという剣の動きだ。しかし、それでもステータスの恩恵は凄まじく軽く当たっただけで焼けたナイフでバターを切るようにスパっとゴブリンの身体が上下に分かれる。そしてその死体は消えた。
「はへ?」
取り合えず自分の剣の腕前にも驚いたがゴブリンが消滅したのにはもっと驚いた。事前に調べた限りでは倒したモンスターの死体が消えるなんていう情報は無かった。
「まさか!・・・やっぱりか」
原因が判明した。これはアナ5と同じシステムなのだ。アナ5ではモンスターを倒すとドロップアイテムと僅かなお金が直接ボックスに入る仕組みになっていた、そして今俺のアイテムボックの中にある1つのアイテムを見付けた事で核心した。
▼ゴブリンの耳 一般級
討伐証明部位。
こんなアイテムはアナ5には存在していなかった。つまりこれはこの世界に来てから手に入れたアイテムとなる、間違いなく今倒したゴブリンのドロップアイテムだろう。これはメリットと同時にデメリットでもある、もし他の冒険者にこの光景を見られたら確実に怪しまれる。
「どうするか・・・死体の処理の手間とか考えるとこっちの方がいいけど、見られたら確実に面倒だもんなぁ、言い訳としては倒してすぐそのまま魔法の袋に入れたって言うくらいしかないしな~ホントどうしよう」
うじうじ考えてもしょうがないのでこのまま行く事にする。もし近くに人が来ても気配察知で把握出来るし、その時はどうにか誤魔化せばいいだろう。最悪、一旦この機能OFFにすればいいし、そうしよう。
「それにしても俺の剣の扱いはやばかったな。こりゃ先が思いやられるぞ」
勿論スキルによって補正はあるのだが、そもそもが戦いなんて全くの素人である。今の所高いステータスで何とかなっているが、同格の相手となれば技量の差で負ける可能性もある。こちらには技量をカバー出来るスキルは沢山あるが、ゲームの中で実際の身体を使って動いていた訳ではないのでどうしても不自然な部分も出て来てしまう、今の剣の扱いがその最たるものだろう。
「こりゃ、修行コースだな・・・冒険者ギルドに行って初心者講習受けよ・・・」
何となく情けないがいくら高いステータスがあっても本人の技量がこれではどうにもこうにもならない。ここは大人しく初心者講習に申し込んで武器の扱い方の基本を学ぼう。
「あ、忘れない内にあいつらの事も確認してやらないと!」
あいつらというのはアナ5で実装されていたお助けモンスターでパートナーとして一緒に生活したり、移動の時乗れたりするペットのような俺の相棒達の事だ。
俺は初期のパートナーとして豆柴そっくりで回復魔法でサポートしてくれる白い犬型モンスターとシナリオを進めると全員手に入れる事が出来た移動用の馬型モンスター、更に偵察用の黒い小鳥型モンスター、Lv200キャップの時にイベントで手に入れたヒポグリフを飼っている。
「出て来い、チビ!ブルーノ!ピーちゃん!アストラ!」
呼び出すのは簡単でパートナーの笛というアイテムを吹いて名前を呼べばいいだけだ。出て来たみんなは元気そうで安心した、ゲームの時はただのデータで触れ合う事は無かったが実際にみんなと会う事が出来るというのは言い知れない感動があるな。
1匹づつ名前を呼んで撫でてやると嬉しそうに反応してくれる、今回は確認だけのつもりだったので心苦しいがみんなの元気な姿を見たら送還する。多分、謎空間に帰るのだろう、ちゃんとした拠点を確保したら呼び出したままみんなと暮らしたいな。これも目標の1つだな!
「あいつらも元気そうだし、俺も頑張りますか!」
新しい目標も出来てやる気も復活した所で街へ帰ろう。