第6話 はじめての製作
目が覚めたのは翌朝の6時だった。やはり疲れていたのだろう、地球の時ですらこんなに寝た事はない。まぁ、出来る限りの時間をアナ5に注ぎ込んでいたからなのだけどね。
「ふぅ、異世界の朝も向こうと変わらないんだな、いい朝だ」
昨日は倒れるように寝てしまったので服装が種族装備のままだが今度からは部屋着を用意した方が良さそうだ。ゲームと違って汚れが着くだろうし、やっぱり部屋ではリラックスしたい。足元を見ると靴も履いたままだった。
「取り合えず食堂に行って朝食を出して貰うか」
食堂に下りると冒険者らしき人達がちらほらと目に入る。どうやら食堂は開いてるみたいだ。
「あら、おはようさん。朝食は食べるかい?」
「はい、お願いします」
あいよ。っと返事をした女将さんは奥へと入って行く。5分も待たずに朝食が運ばれて来た。どうやら今日はパンにスープ、蒸し鶏みたいな肉が入ったサラダのセットらしい。朝食は毎日違うらしく、ご飯の日もあるという事だ。朝食には丁度いい量で味も普通に美味しかった。
何時から食堂を開けるのか聞いた所6時からという事だった。冒険者は朝が早いのでそれくらいが丁度いいそうだ。
部屋に戻ってから一息ついて今後の事を真面目に考える。まず、第一目標はレベルを上限まで上げる事、そして出来れば世界中を旅したい。その為にはこの世界の情報をより多く知る必要がある、神様から貰った一般常識はあるが知るべき事は多い。そして、自分が出来る事に確認も絶対に必要だろう。
「まずはクラスチェンジとスキルの確認だな。製作関係のスキルがどうなってるか気になるんだよな」
アナ5では製作はメインクラスを作成したい物に合わせて変更し、武器欄に道具をセットする必要があった。そしてコマンドから作成したい物を選ぶとアイテムボックから自動的にアイテムが消費され、一瞬で完成品が手の中に現れるような仕組みだった。いかにもゲームという感じだったのでそれが現実になった時にどう変わっているのか非常に気になるし、今後の生活の上では重要な部分だ。
まずはクラスチェンジを確認する。クラスチェンジは装備変更を組み込んだボタンが配置されているのでそれを押せば予め登録しておいた状態に一瞬で変更出来るようになっていた。
「お、出来た。やっぱり短縮も生きてるんだな。着替えやクラスチェンジは短縮でも手動でも出来るって事で決定で良さそうだな。スキルはっと・・・」
戦闘クラスも製作クラスも見た感じスキルに変わりは無い。自己強化型のスキル等をいくつか使って見たが問題なく使えるようだ。しかも戦闘系のスキルは口に出す必要もなく、ある程度意識すれば発動する事が出来た。
「さて、問題は製作スキルだな。試しに何か作ってみるか」
取り合えず鍛冶師にクラスチェンジする。そして作成リストを開いてLv10のレシピ『片手鉄刀』を実行する。すると、キィン!と高い音が響き、俺の右手に『片手鉄刀』が現れた。
▼片手鉄刀 高品質
特殊な片手用の刀。非常に上質な仕上がりになっている。
ちなみにキィンという音はゲーム時代では大成功時に出る音だ。通常はカン!という鉄を叩いたような音が出ていた。ゲームであれば大成功時は武器の攻撃力が上がり、ステータス補正にも数値がプラスされる事が多かったがこの世界ではそういった数値の表記はない。
等級は高品質となったようだ。この世界だと一般級→高品質→希少級→大陸級→世界級→伝説級→神話級という7段階で評価され、その価値が上がって行くのが一般的らしい、つまりこれはそこそこの武器という事だ。
「製作スキルは問題なさそうだな。問題があるとすれば等級がやばい事になりそうって事くらいか・・・俺のレベルじゃLv50以下のレシピは全部大成功になっちゃうからなぁ、後で武器屋とか道具屋で等級と値段の確認が必要だな」
取り合えず武器は鉄の片手剣でも作って見せかけだけでも装備しておいた方がいいだろうな。片手刀自体があんまり一般的ではなさそうだしね。
「今日の予定は武器屋と道具屋巡りが決定っと、後は図書館があればそこで情報収集か、それとギルドで依頼のチェック。それに王都の冒険者のレベルとか装備の水準も『調べる』しないとか・・・やる事多いな、面倒になってきた~」
やる事や考える事が沢山出てきて面倒になってしまったので取り合えずベッドにダイブする。気になっていたスキル関係は問題なさそうなので取り合えず一安心だ。
「はぁ、まだ昼前だし取り合えず冒険者ギルドに依頼を見に行って、そのついでに冒険者チェックするか。そんでギルドで武器屋と道具屋の場所聞いてから昼飯かなー」
部屋でダラダラしたい気持ちを抑えてメインクラスを戦士にして作った片手剣を装備する。特に部屋に置いて行く物はないが一応言われた通り鍵を掛けてから部屋を出る。どうやら外出する時は鍵を店員に預けるようで、出掛け際に女将さんに渡してから冒険者ギルドへと向った。
「ん~一般の人達は本当に一般人って感じだなぁ」
行き掛けにすれ違う人を何人か『調べる』してみた。
▼ドン 35歳
人族 大工Lv9
ジャガール王国 平民
▼エルザ 5歳
人族 平民Lv1
ジャガール王国 平民
▼デオード 15歳
人族 戦士Lv5
ジャガール王国 冒険者
▼青銅の剣 一般級
低品質な片手剣。
▼青銅の胸当て 一般級
低品質な胸当て。
と、まぁこんな感じだった。若い冒険者はレベルも低く、持ってる武器も最低ラインの物だろう。まさに駆け出しといった感じだが、果たしてこれがどの程度の冒険者なのかもっと多くの人を調べて見た方がいいだろうな。
冒険者ギルドに着くとカウンターに昨日受付してくれたセリさんの姿が見える、後で話し掛けてみよう。取り合えず銅ランクの依頼を見てみる。そこにはゴブリン退治やスライム捕獲等のモンスター相手の依頼や、薬草採取や肉や木の実等の素材採取の依頼、街の掃除やお手伝いの依頼が張ってあった。
「ふ~ん、スライムは退治じゃなくて捕獲なんだ。やっぱりトイレとかで需要あるのかな?それが1匹銅貨5枚か・・・労力とか考えるとどうなんだろう。ゴブリンは1匹あたり銅貨3枚、薬草は10枚で銅貨1枚か、ふむふむ」
銅ランクの依頼の場合、モンスター系よりもお手伝いの依頼の方が報酬は高かった。地球で言う日雇いみたいな感じで低ランクの冒険者は利用されてるのかもしれないな、それでも毎日1つだけお手伝いの依頼をこなすだけじゃ宿代と食事代を考えたら微妙なラインだよなぁ。どうやって生活してるんだろう?よっぽど節約してるのだろうか。
「セリさん、こんにちわ。ちょっと聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「こんにちわグレンさん。どうされましたか?」
「えっと、普通の銅ランクの冒険者ってどのくらい稼ぐものですか?もし良かったら参考にしたいのですが」
「うーん、そうですねぇ。グレンさんくらいの駆け出しの方ですと、午前中に薬草採取等の街の外の依頼を複数やって午後からお手伝いの依頼に行ってるみたいですね、それで何とか1日の生活費を稼いでるみたいです」
うーん、やっぱり駆け出しの冒険者の生活は厳しいみたいだな。稼がないといい装備が買えないし、いい装備がないとレベルも上がらないし、いつまでも最低ラインの生活から抜け出せないんだろうな。
「ですけど、銀ランクになるような方は最低でも毎日銀貨10枚は稼いでると思います。やっぱり強いモンスターの素材の方が高く売れますからね」
「そうなんですね、勉強になります。もし良かったらオススメの武器屋を教えて貰えませんか?王都に来たばかりでよく分からないんですよね」
「武器屋ですか?グレンさんの剣はいい物に見えますが・・・そうですね、ここから左に少し行くと冒険者向けの店が何軒か並んでます、その中のドワーフのドドンさんのお店なら初心者向けの掘り出し物があるかも知れません、いい評判をよく聞きますよ」
やっぱり異世界といったらドワーフの鍛冶屋だよな。買うか分からないけどちょっと勉強させて貰おう。
「有難う御座います。早速行って見ますね。依頼はもう少し考えてみます」
「はい、いってらっしゃいませ。慎重な事はいい事ですよ、冒険者には危険もありますからね」
ついでにギルド内に居た冒険者を『調べる』のも忘れてないよ。
▼バルガ 22歳
虎人族 戦士Lv11
グラシエア帝国 冒険者
▼シロナ 22歳
猫人族 治療士Lv9
グラシエア帝国 冒険者
▼バボン 30歳
人族 戦士Lv12
ジャガール王国 冒険者
▼ハサン=ラフィーム 24歳
人族 魔法使いLv14
ジャガール王国 貴族 冒険者
獣人も何人か居たが他国の所属になっていた。それに貴族でも冒険者をやってる人もいるみたいだ、多分三男とかなんだろうな。ランクは流石に分からないけど良くても銀くらいだと思う、持ってる武器も来る途中で見た若い冒険者よりは良かった。
冒険者の大体の水準は多分分かった、というか思ってたよりも低い。逆に考えると王都周辺ではそこまでレベルが高いモンスターが居ないのだろう。だから必然的にレベルが上がって来ないと、そんな気がする。ギルドから武器屋に向う途中でも際立った人を見掛ける事は無かった。
「こんちにわー、セリさんに紹介されて来ました。武器を見せて貰えませんか?」
「おう、坊主は駆け出しの冒険者か?見た感じひょろっちいが・・・」
異世界で初めて見るドワーフはゲームの中やラノベと同じように身長が低く、髭がもじゃもじゃしてた。それに喋り方も想像通りでなぜか感動してしまった。
「はい、昨日王都に来て冒険者に登録したばかりなんです」
「そうなのか、獲物は何を使うんだ?腰に刺してる片手剣でいいのか?」
ジロりと腰の剣に目線が向う。
「ふむ、それなりのモンみてぇだな。それだったら買う必要はねぇよ。手入れはやってやるからいつでも見せに来な」
「あ、そうなんですけどコレ親の形見でして。剣の価値が分からないので見せて貰えたらと思いまして」
武器の品質と価格の調査の為に来たのに剣を見せて貰えないんじゃ来た意味がない、取り合えず口から出任せで誤魔化せたらいいんだけど。
「なるほどなぁ。うちだとそれと同じのを買おうと思ったら銀貨50枚はするな、駆け出しが持てるような剣じゃねぇ。普通は青銅の剣を勧めてる、それでも銀貨10枚はするがな」
ふむふむ。剣の価値はそんなもんだろうな。取り合えずこの剣でも目立つ事は無さそうだ、ちゃんと確認出来て良かった。
「そうなんですね・・・有難う御座います。この剣ちゃんと大事にします」
「あぁ、親父さんの分もがんばんなよ。何かあったらいつでも訪ねて来な」
咄嗟に出た言葉でおやっさんが勘違いしてしまったが許して欲しい。何かあったら訪ねる事を伝えて店を出る。セリさんが言う様にこの辺りには冒険者用の店が多いらしく目的の道具屋もすぐ向いにあった。
取り合えず中に入ってポーション類や道具類を見ていく、この店にはアイテムボックスの役割に当たる魔法の袋が置いてあった。これは生物以外を決められた分量まで入れられる優れ物で一番下が100kgまで入る袋で金貨1枚だった。それ以上の袋もあったがかなりの値段だったのでこれを買えるのは余程稼げる冒険者くらいだろう。現時点では俺に必要そうな道具は見当たらなかったので品質と価格のチェックだけして店を出た。
「魔法の袋か、これは正に異世界の産物って感じだよな。ってかこれ作れるのかな?アナ5には存在してないアイテムのレシピがどうなるか知りたいんだけど、レシピの入手手段が分からないからなぁ」
アナ5の基本的なレシピはレベルアップと同時に自動的に増えて行ったので特にレシピを手に入れるという方法は無かったので現実でのレシピ関連は全くの謎だ。
「まぁ、その内分かるだろ。腹減ってきたしメシ行くか」