第5話 冒険者になります
冒険者ギルドは門から入って直ぐの場所に立っていた。木造の2階建てでそれなりの広さがあるようだ。冒険者らしき人達が出たり入ったりしているので間違いないだろう。西部劇に出てくるような両開きの扉を開けて中に入る。いくつかのカウンターがあり、奥には机に座って作業してる人もいる。なんとなく銀行の窓口を連想させる造りだ。壁際には沢山の紙が張ってあり、冒険者が座って話せるようなイスなんかも置いてある。
「すいません、冒険者に登録したいのですが」
取り合えずカウンターに行って受付の女性に話し掛ける。見た目は普通の人族で年齢は20代半ばだろうか、黒髪の綺麗なお姉さんだ。
「こんにちわ。紹介状か身分が証明出来る物はお持ちですか?」
「いえ、田舎から出て来たばかりで何も持っていないんです・・・」
「分かりました。では、冒険者ギルドについて簡単に説明させて貰いますね。まず冒険者ギルドは人々の生活を助ける為の職業です。街の清掃からお手伝いに始まりモンスターの討伐、魔族との戦争の際は先頭に立って戦って頂く事にもなります。冒険者の利点は誰でもなる事が出来ますし、頑張り次第で普通に働くよりも多くのお金を手に出来ます、ランクによって様々な恩恵も受けられますよ。但し、毎月最低限の依頼を達成する必要があり、長期間放置した場合は冒険者証の取り消しもあります。また犯罪を犯した場合は賞金首となりますのでお気を付けください」
「はい。分かりました」
「それを考えた上で冒険者になるのであれば歓迎致します。どうなさいますか?」
「冒険者になります!」
「分かりました。それではこちらの紙に必要事項を記入して下さい、文字は書けますか?」
「大丈夫だと思います」
書いた事はないけど神様の加護があるから多分大丈夫だろう。いざペンを手に持ってみると何となく書き方が分かったので必要事項を記入していく。種族は人族でいいだろう、年齢は15歳っと、職業は戦士って事にしておくか。どうやら一般的な職業の中に忍者も義賊もないみたいだしね。取り合えず掛けたのでお姉さ1んに渡す。
「はい、有難う御座います。えっとではこちらのカードに、こうして書き込んで・・・はい、出来ました。内容に間違いがないか確認して貰えますか?」
「大丈夫です、あってます」
「では、カードの裏側に血を一滴垂らして下さい」
カードと一緒に渡された針で指先を刺して出てきた血を垂らす。
「はい、これで登録は完了です。今日から冒険者として頑張って下さい」
受付のお姉さんはカードをこちらに手渡しながらニコリと微笑む。
「あ、私の名前はセリです。よろしくお願いしますね、グレンさん。冒険者の仕組みについての詳しい説明は聞いていかれますか?」
「あ、出来ればお願いします」
大体は分かっているのだが、出来れば現地の人からしっかりと聞いておいた方がいいだろう。こちらからも聞きたい事もあるしね。
「コホン、では。まず冒険者のランクは下から銅、銀、金、ミスリル、オリハルコンと5段階に分かれています。これは先程渡したカードの色からも判断出来るようになっています。ランクアップする為には決められた数の依頼を達成する必要があり、ランクアップ希望者はギルドが指定した試験を受けて頂いて合格すればランクアップ出来るようになっています。ランク毎に受けられる特典がありますが銅ランクですとギルドにお金を預ける事が出来ますよ。銀以上についてはギルドと提携しているお店での割引等がありますのでランクアップの時に説明させて頂きますね。次に、銅ランクの方は月に最低5つの依頼を達成する必要があります、張り出された依頼は誰でも受ける事が出来ますが失敗時には違約金が発生する物もありますのでしっかりと確認するようにして下さい。最低達成数を何ヶ月もクリアしていなかったり、失敗が続くようであれば冒険者証の剥奪もありますのでご注意下さい。ここまでは宜しいですか?」
「えっと、銅ランクの僕でも金やミスリルの依頼を受けれるという事ですか?」
俺の実力的に問題なくクリア出来そうだが悪目立ちしそうだな・・・。
「はい。ただ、パーティー推奨の物や依頼主からランクの指定があれば受けれないですけど、特に条件がない依頼については誰が受けてもいいようになってます。但し、先程申し上げたように失敗した場合は違約金等が発生しますのでどの依頼を受けるかは自己責任でお願いしますね」
「分かりました。気を付けます」
「ちなみに依頼はパーティーを組んで受ける事も出来ます。人数に上限はありませんが報酬は山分けになりますので知らない方とパーティーを組む時は報酬の分配をしっかり確認して下さいね、冒険者同士で最も多いトラブルの原因はこの報酬の分配ですからね。それを避ける為に固定でパーティーを組む方が殆どです、グレンさんもいい人が居たら固定でパーティーを組んでもいいかもしれませんね」
まぁ、俺はパーティーを組む予定はない。流石に言えない事が多すぎるからな。
「はい、いい人が居たら考えてみますね」
「最初にお話ししましたが、犯罪を犯した場合は賞金首となって討伐対象となります。あちらの壁を見て下さい、あそこに張ってある人相書きは全て賞金首です。対象の首を持って来て頂ければ賞金が出ます。それを生業にした凄く強い人もいますのでグレンさんは賞金首なんかにならないで下さいね?」
「大丈夫ですよ!そんな事しませんってば!」
「ふふ、冗談ですよ。説明は以上ですけど何か聞きたい事はありませんか?」
「取り合えずは大丈夫そうです。有難う御座います」
「また何か聞きたい事があればいつでも聞いて下さいね」
しっかりとお辞儀をして今日は取り合えず依頼を受けずに冒険者ギルドを出る。流石にお腹も減ってきたし、色々とあったから早めに宿に行って寝たい。
ギルドから出ると取り合えずメインストリートっぽい道を通りながら露店を見ていく。野菜から何かの素材っぽい物、食べ物も売っている。
「おばちゃん、この赤い実って何だい?」
取り合えず『調べる』で地球でいうリンゴって事は分かってるのだがこの街の事も聞きたいので会話を広げる為に質問する。
「ん?これかい、アッポーの実だよ。甘くて美味しいよ、2個で銅貨1枚だ。買ってくかい?」
「じゃあ2個頂戴。あと、今日王都に着いたばっかりなんだけどオススメの食事処とか宿屋ってある?」
取り合えずアッポーの代金銅貨1枚に情報料として銅貨1枚の計2枚を渡す。
「ん~そうだねぇ。あたしは庶民が集まるような食堂しかしらないけどそれでもいいならここから2本先の通りにある白い暖簾が出てる所は味もいいし、量も多いよ。宿屋はそこの3軒隣にあたしの従妹の宿屋があるんだけど、そこしか泊まった事がないね。あたしはメリンダって言うんだけど名前を出してくれりゃ少しは割引してくれるかもね」
「有難う御座います。早速行って見ます」
早速食堂に行って見ると昼過ぎという事であまり客は居なかった。取り合えず本日のおすすめ定食(銅貨4枚)を頼んで見た。出て来たのは何かの肉の生姜焼きにスープ、白米の定食だった。
「えっと、これ何の肉ですか?」
「ん?これかい?この肉はワイルドラビットの肉だよ。冒険者がいっぱい持ち込んでくれたからね、今日のおすすめに使ったんだよ」
「へぇー持ち込みって出来るんですね。僕も冒険者なので何か取れたら持って来てもいいですか?」
「まぁ、坊主がもうちっと常連になってくれたらこっちから頼むかもしれないね」
何となく駄目な雰囲気だ、庶民の食堂って言ってたしもしかしたら地元の冒険者の人が優先的に持ち込んでるのかもしれないな。味は普通に美味い、ワイルドラビットって多分モンスターだと思うけど地球で例えたら豚肉に近いなのかな?それよりも少し淡白な感じはするけど味付けがしっかりしてるから白米にもあう。食文化は希望通り地球に近そうだ。これで銅貨4枚なら安いな。取り合えず腹いっぱいになったし宿屋へ行こう。
「すいません、露店のメリンダさんから紹介されて来たのですが、部屋空いてますか?」
奥から露店のおばちゃんに雰囲気が似ているおばちゃんが出て来た。
「おや、そうなのかい。じゃあ1泊朝食付きで銀貨5枚にしとこうかね。ちなみにうちは風呂は付いてないからね、お湯が必要なら桶一杯で銅貨1枚だよ。どうだい?」
宿としては一般的な値段のようだ。どうやら朝食分の銅貨3枚をオマケしてくれたらしい、風呂は着いてないらしいが近くに風呂屋があるので風呂に入りたい人は庶民もそこに行くらしい。入浴料は銅貨2枚なので汗を拭くくらいなら桶一杯のお湯で済ませる人も多いそうだ。
「では、一週間お願い出来ますか?」
「はいよ。部屋は2階の階段の左の部屋を使っておくれ、鍵はしっかりと閉めておくれよ基本的に何があっても自己責任だからね。朝食は朝9時までならすぐ出すから食堂に来て声を掛けておくれ」
「分かりました。お世話になります」
部屋は六畳くらいで窓際にベッドがおいてある。それ以外は簡素な机と椅子しか置いていない。地球のホテルと比べれば言うまでもないがちゃんとしベッドがあるので文句はないだろう。トイレは1階にしかなく共同らしい。中世のヨーロッパかどこかは窓から投げ捨てていたとか聞いた事もあるのでちゃんとしたトイレがあって本当に良かったよ。さっき使ったけど大の方は穴の底にスライムが入っているらしい、この世界では基本的にトイレには処理用のスライムが入れられているようで臭いも殆どなかった。
「ふぅ、やっと落ち着けるな。今日は本当に色々あったからなぁ・・・めちゃくちゃ疲れた」
とは言っても身体は全く疲れていない、疲れたのは精神面だけだ。多分これもステータスの恩恵だろう。さすがに転生なんて有り得ない体験をすれば疲れもするよ。
「取り合えず寝よう、後は起きてから考えよう・・・」