第4話 入国
「次の者!身分証明書を提示せよ!」
「あ、はい・・・えっと」
今気が付いたのだが門番の頭上に緑の逆三角形のマークが表示されている。これはゲーム時代にあった中立のマークで、選択すると様々なコマンドが実行出来る。恐る恐る意識を向けるとゲームと同じコマンドが表示された、その内の1つに『調べる』がある。『調べる』とは対象のステータスを簡易的に表示させるコマンドで名前やLv、所属等、他にも対象が物であれば価値等も表示される。
▼ドリュー 32歳
人族 戦士Lv19
ジャガール王国軍所属
「おい、どうした?身分証明書を提示せよ!」
門番の声で我に帰る、今は入国する為に入国審査の列に並んでるんだった。勿論身分証明書等持ち合わせていない。コマンドも気になるが取り合えず入国が優先だろう。
「すいません、今日田舎から出て来たものでまだ身分証明書を持ってないんです」
「では、仮の身分証明書を発行する。手数料は銀貨5枚だ、持っているか?」
「はい、大丈夫です。お願いします」
ポケットに手を突っ込んで銀貨5枚を出す。実際に出すのは初めてだったので緊張したが、ゲームの単位を意識しなくても銀貨をイメージすると自動的に計算してくれたようだ。多分、ある程度のイメージで大丈夫なのだろう。
ちなみに通貨は世界共通で地球で言うと100円=銅貨1枚=100Gとなり、基本的に銅貨が最低通貨となっている。商品等も銅貨1枚と釣り合うような形で売られており、100円以下のお釣りは出ないシステムになっているようだ。次に使われるのが銀貨、これが1枚1000円となる。その上が金貨、これは1枚10万円だ。市民が見るのは大体これくらいだろうか、その上には高価な100万円の白金貨、1000万のミスリル貨も存在している。貨幣価値としては宿屋1泊が銀貨5枚で5000円、一般的な食堂の定食で銅貨4枚400円くらいだろう、この世界の駆け出しの冒険者が1日に銀貨5~6枚を稼ぐらしい。王都の一般的な家庭の場合は月の生活費が金貨1枚でなんとかなるという。つまり俺の約6億の所持金はやばいという事だ。
時間については1日が24時間、一週間が6日、1ヶ月が30日、1年が12ヶ月で360日となり、地球にそれなりに近いのであまり違和感はないだろう。一週間は火の日から始まり水の日→土の日→風の日→光の日→闇の日と呼ぶようだ。ついでに言うとこの世界で認知されている魔法はこの火水土風光闇の6属性に分類されている。
「うむ、確かに。ではこれが仮の身分証明書だ。次回入国時に手数料を支払いたくなければ出来るだけ早急に正規の身分証明書を発行してもらうように。入っていいぞ、では次の者!」
門を通り抜ければ王都の町並みが見えてくる。歴史の教科書で見たような中世の雰囲気の建物は無骨だがどこかに美しさを感じる。きっとあの美しさにこだわる女神様の趣味だろう。不潔感もなく、香辛料のいい臭いも漂ってくる。それに遠くに見える城へと続くメインストリートは沢山の人で賑わい、色々な露店が並んでいる。
「さて、取り合えず入国出来たな。取り合えず身分証明書の件もあるから冒険者ギルドに行かないといけないんだがさっきのコマンドの確認もしておかないとな」
落ち着いて周りを見ると色んな人や物に逆三角形のマークが出る。意識をしっかりと対象に向ける必要があるので普段なんとなく歩いている時は全く気にならない、流石に見るもの全てにマークが出ていたらうんざりしていただろう。
「対象にカーソルを合わせる感覚なのかな、鑑定系のスキルや魔法はないって聞いてるからこれも異質なんだろうなぁ、勿論有り難く使わせて貰うけどね」
先程は緑のマークだったがゲーム通りならばパーティーメンバーは青、敵は赤、物体は白のマークが出るだろう。念の為に自分の武器を調べて見る。
▼忍神黒刀 神話級
世界、次元を超えてこの世界に顕現した神話級の刀。その黒は全てを喰らい尽くす黒。
『魔法吸収』『確率即死』
※紅蓮専用武器
▼忍神白刀 神話級
世界、次元を超えてこの世界に顕現した神話級の刀。その白は全てを癒す白。
『完全浄化』『確率蘇生』
※紅蓮専用武器
「これやばい奴だろ、絶対・・・」
ゲーム時代からテキストの内容から攻撃力やステータス補正が消えたり、説明文の変更はあるがスキルに変更はないようだ。ゲーム時代はアーティファクトと呼ばれ、クラス毎に1本、もしくは1対存在し作成までに多額のお金と時間が掛かる武器だった。そして最強武器とも呼ばれていたのだ。
黒刀の魔法吸収は魔法をその刀身で打ち消し、体感だと3%くらいの確率で問答無用に敵が死ぬという破格の性能を持つ。白刀は不死系のモンスターに圧倒的なダメージを与え格下なら一撃で浄化する、更に自身に掛かる弱体魔法の効果を打ち消す事が出来る。確率蘇生は人を対象にしたスキルで死亡した相手に突き刺せば50%の確率で蘇生する事が出来た。この世界でその蘇生効果がどう反映させるか分からないが、出来れば使う場面が来ない事を願う。
「取り合えず無難そうな武器に変えておいた方がいいよな・・・っていうか、装備変えたはずなのにステータスが変わってないぞ!?」
そう、装備を変更したにも関わらずステータスが変わっていないのだ。ゲーム時代には装備にもステータス補正が付いていたのでその都度ステータスが変動していた。しかし、現状ではその変動がない。この世界に来る前の数値で固定されているのだ。
「って事は転生した時点でステータスが固定されて、この世界では装備には基本的にステータス補正が無いっていう事なんだろうな。これはまぁ、プラスに捉えていいだろう」
俺の予想でしかないがこの世界にあの忍装束を越えるステータス補正が付いた装備があるとは考えられない。あれはゲームの中でも最終装備であり、かなりの強さを誇った。今は初期装備の見た目だがそれでもステータスが高いままだ、つまり装備の強さを気にする必要がないという事でデメリットは無いだろう。
ただ、装備に付いていたスキルや特殊効果は残っているようなのでその点ではしっかりと装備を選ぶ必要があると思う。
「それにレベルの表示が上限を表す赤表示じゃ無くなってるのが気になるんだよな・・・これは多分レベルアップ出来るって事で間違いないな、滾るぜ」
もうお分かりの方もいるかもしれないが俺はレベル上げが好きだ。それが上限も分からないとなればやる気が出るというものだ、これでこの世界での目標が増えたな。勿論目標はレベルカンストだ!
それと同時に若干の恐怖も感じる、いくら不死鳥族とはいえこの世界は現実でまかり間違えば死ぬ事もあるだろう。俺のレベルで倒せない敵が現れる可能性がある・・・怖くもあるが楽しみでもある。
ちなみに俺の種族である不死鳥人族は伝説のフェニックスのような不死ではなく『半老半死』という特性を持つ。この特性は普通の人族よりも年齢による外見の変化が10倍以上遅い、その意味で半老。半死は身体全体の20%が残っていればどんな怪我や欠損でも時間を掛けて再生する事が出来る。逆に言えば身体全体の8割以上を一撃で消し飛ばされれば普通に死んでしまうのだ。
「よし、見た目はこれで問題ないよな。ステータス鑑定や水晶での鑑定もないはずだからラノベ定番のギルドイベントもないだろうし、さくっと冒険者登録しちゃいますか」