第2話 新しい世界はここにしよう
「すまん、間違った・・・」
俺の前には今、爺さんが土下座している。
「えっと、その、はぁ・・・?」
気が付いた時から既に目の前で知らない爺さんが土下座していた。場所はどこか分からないが50畳はあろうかという和室、時代劇で見る殿様がいるような場所っぽい所の真ん中で真っ裸の俺と知らない爺さん。これは何の事案が発生したのだろうか、自然とお尻を右手で確認するが大丈夫なようだ。
「すいません、全くもって意味が分かりません。説明はして貰えるのでしょうか?」
取り合えず俺は悪くなさそうだが、ここは下手に出るべきだろう。なんせ真っ裸なのだ、今からナニが始まってもおかしくない。
「まず、お主が考えているようなナニは始まらないのでそれだけは安心して欲しい」
良かった。ナニが始まらないのであれば一安心だ。ただ、現状では一時たりとも気は抜けない。
「順番に説明させてくれ。これから話す内容は全て真実であり、事実だ。疑問や疑いはあるじゃろうがまずは聞いて欲しい」
確かに、既に意味が分からない。俺はさっきまで部屋でゲームをしていたはずだ、そして謎の頭痛に襲われた所までは覚えている。
「まず、ワシは地球を管理する神、その神々の責任者のようなものじゃ。そしてここは神界。地球ではなく、神々が管理する場所、そして全ての魂の通過点じゃ」
ふむ、突拍子も無い話しだ。
「信じられぬのも無理はない。そして神界には生ある者は存在せん。お主は今魂のみの存在としてここにおる。つまり死んだのじゃ」
「なるほど・・・はぁ?」
「そこで冒頭のワシの土下座に戻るのじゃが、お主は本当であれば死ぬ予定ではなかった。しかし、生命担当の神が別の者と間違ってお主を死亡扱いにしてしまったのだ。こんな事は数千年に一度あるかないかの事態なのじゃが、神とて意思ある者ほぼ完璧な存在じゃが間違いもある。本当にすまない」
ここで改めて土下座で謝罪を受けたが、ちょっと心の整理が着かない。
「当然じゃ。本当にお主には取り返しのつかぬ事をしてしまった。申し訳ない」
「えっと、今更なんですけど心読んでます?」
「うむ。勿論じゃ。神界では魂の選別を行うゆえ、どのような者であっても本心を隠す事は出来んのじゃ」
成程、全て筒抜けだったという事か・・・。
「死んだという事は分かりました。これから私はどうなるのでしょうか?」
「うむ。通常の死であれば、神界で魂の選別を受け輪廻転生の輪へと帰り新たな生を待つ。しかし、今回のような場合には特例が与えられる。まず1つ、これは純粋に通常の選別を経て輪廻転生の輪へと帰る。もう1つは極楽浄土へ行き、あらゆる幸福を感じた後に輪廻転生の輪へ帰る。そして最後が新たな世界への召喚転生じゃ」
「最初と2番目は何となく分かるのですが召喚転生とは何でしょうか?」
何となくラノベっぽい雰囲気になって来たぞ・・・。
「うむ。まず、地球以外にも沢山の世界があるという事を理解して欲しい。輪廻転生というのは選別を経て、数多ある世界へと転生する事じゃ。しかし、召喚転生というのはある条件下でのみ起きる転生で例えばある世界で人口の9割が死ぬような感染症が発生したとしよう、勿論神としてそのままにしておく訳にはいかん。そこで他の世界からその感染症の薬を作れる者を探しだし、その世界へと同意の下に転生して貰うのじゃ。他にもいくつかの事例があるが、通常の輪廻転生とは違い、召喚転生の場合は記憶や知識、経験等を有したまま世界を移動する事が出来る。正に特例中の特例じゃな」
つまり完全に異世界転生という事か・・・
「更に今回はこちらの手違い。お主に希望があれば出来るだけ叶えてみせよう」
「例えば、どんな転生先があるのですか?それも選べるのでしょうか?」
「そうじゃの・・・例えば地球と殆ど同じような世界もあるし、魔法が実在する世界もある。地球よりもかなり進んだ科学を持つ国もあれば、魔法と科学が混同する世界もある。これは実際に見て貰った方がいいじゃろう」
神様がパンパンと手を叩くと目の前に数え切れない程のスマホのような物が現れた。その一つ一つが色々な光景を映し出している。
「ここでは時間の概念は殆どない、触れれば更に詳しく見る事も出来る。気の済むまで確認しなさい、これから住むかもしれない世界なんじゃからのぅ」
神様が話し掛けてくれているが、俺の意識は既に目の前の世界に釘付けだった。SF映画のような近未来都市、戦国時代のような世界、見た事もないような美しい動物がいる風景、どれくらいその光景を見ていただろうか。かなりの時間見ている気がするが、終わりは見えない。それ程に多種多様な世界があり、その全てに心が躍る。こんなの簡単に決められる訳がない。
「すいません、聞きたい事があるのですが・・・例えば地球のライトノベルの様なチートも頂けるのですか?今のまま転生してもとても生きていけない世界もあるようなのですが・・・」
「ふむ、ちと待っておれ。チートというのがよく分からんが確認してみよう」
神様は目を瞑り、何かをしているようだが良く分からない。すると直ぐに目を開けて話しだす。
「今確認して来たのじゃが、大体は大丈夫じゃろうな」
「でしたら、私の生前の生き甲斐であったMMORPGのキャラクターになる事も出来ますか?」
俺のただ一つの心残りはあのMMORPG「アナザーワールド5」を二度とプレイ出来ない事。もし可能であれば紅蓮として新しい生を受けたい。そして紅蓮として自由に世界を旅してみたい、この多くの美しい世界を見てその気持ちが沸々と湧き上がってくる。
「ふむ・・・少し待ちなさい・・・」
神様はまた目を瞑る。よく分からないが確認してくれているのだろう。
「可能か不可能かで言えば可能じゃ。しかし、鳥人族という種族が存在する世界に限られる。それでも良ければお主の希望を叶える事は出来る。どれ、条件に適応する世界はどのくらいあるかのう」
パンパンと神様が手を叩くと目の前のスマホっぽい物体の数がどんどん減っていく。最終的に100個くらいが残っている。
「意外とありますね・・・例えば地球のような環境で絞れますか?」
「出来るぞ、・・・ほれ」
神様がパンパンと手を叩くと、更に減っていく。それでもまだ半分は残っているだろう。
「えっと、では食文化が地球に近い世界で。出来ればファンタジーな世界がいいですね」
更にパンパンして貰うと5個に絞れた。ここまで来たら後は自分の目で見て選びたい。最低限の条件はクリアしていると思うので後は風景なんかを見て決めてもいいだろう。
それから更に時間を掛けて世界を見ていく。ある世界は凄く狭い範囲にしか人が住んでいない、殆どの場所が未開拓であり、強そうな生物が闊歩している。ある世界はほぼ全ての範囲に人が住んでいて、ファンタジーと機械が混同したような進んだ文明のように見える。またある世界は獣人種だけの世界で自然に溢れている。
「すいません。この世界はどうでしょうか?もしご存知の事があればお伺いしたいのですが・・・」
その中で気になったのは世界の8割程が陸地で3つの大陸に分かれている、見た感じそれぞれの大陸に色々な人種がいるが半分以上は人の手が入っていないようだ。旅をするのであれば一番良さそうな感じを受ける。
「ふむ。ここは『アリーシャエル』じゃな、管理神は5柱。地球換算じゃと文明レベルは中世、食レベルは近代、魔法あり、機械なし、モンスターあり、ダンジョンあり、魔王あり、勇者あり、召喚転生7人うち地球人0、後はレベル、スキルの体系化はされておらんようじゃが、実際にはレベルもスキルも存在するとなっておるな」
「えっと、魔王とか勇者も気にはなるんですが、そのレベルとスキルの体系化というのは何でしょうか?」
「そうじゃな、お主に分かりやすくいうなればアリーシャエルの人や物全てにレベル等のデータは存在するがそれを知る術がない。なのでレベルが上がったのも漠然としか分からんし、スキルもそれと認識出来ず、技術として理解しておるのじゃ。地球もそうであったと思うがの、お主は自分にレベルがあるなんて知らなかったじゃろう、そういう事じゃよ。但し、召喚転生等の一部の者はしっかりと認識しておるぞ。世界によっては個人のデータをしっかりと管理する世界もあるからのぅ。この辺りは管理神の好みじゃな」
ふむ、なるほど。確かに地球で生きてる時は自分にレベルがスキルがあるなんて知りもしなかったし、考えもしなかったもんな。
「まぁ、その辺りは地球と殆ど変わらないからのぅ。気にしなくても大丈夫じゃろう。では、その世界に召喚転生するという事でよいのじゃな?」
「はい、お願いします。紅蓮として転生させて下さい」
「分かった。それではアリーシャエルの管理神代表へと引き継ぐ。詳しい世界の説明はそちらで受けて貰えるかのぅ。今回は本当にすまなかった」
「いえ、例え間違いで死んでしまったとしてもこうしてしっかりと転生させてくれるのですからもう気にしないで下さい。本当にありがとうございました」
結果的に地球人としての俺は死んでしまったが、紅蓮として生きられるのならば後悔はない。今回の事は幸運と捉えて新しい人生をしっかりと生きていこう。