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少女 “アシュリー”

「姉ちゃん凄えよ! どうやったんだ!?」



今この客間に居るのは私と、さっき私に声を掛けてきた男の子。 ここはこの男の子の家。

ギルドの連中を追い払った礼がしたいと招かれたのが、お邪魔してからずっと同じ質問の繰り返し。


「…………さっきから言ってるけど、普通に魔法を

 学べば誰にでも出来るから。」

「そうかもしれねえけど! それでも凄い!」

「あ、ありがとう……もう行っていい?」

「ダメダメダメ! 俺にも魔法教えてくれよ!」



そんなキラキラした瞳で見つめるのはやめて欲しい、断り辛くなるから。 というか、こんなことをしている場合じゃない。 私にはちゃんと目的があって、それを円滑に進めるためになるべく他人との接触は避けていたはず。


それなのに何故………。



「やっぱり今日はついてない。」

「いいから魔法教えてくれよ! 教えて教えて!」

「私も忙しいから、もう行かないと」

「まぁまぁ!ご飯でも食べて行って! ほら、座って。」

「…………。」



心を鬼にしてこの場を離れようと立ち上がった時、台所から男の子の母親が現れ、私はなし崩し的にまた座らされる。

机に並べられる料理の数々。 決して豪華とは言えないが、その料理はどれも美味しそうに湯気を立て、私の鼻から脳へと伝わり食欲を掻き立てる。


仕方ない、ご飯だけ頂こう。 どうせ夕飯の事なんて考えてなかったんだから。


諦めて食事を進めていると、母親が口を開いた。



「この町にお客さんなんて珍しいけど、何か目的が

 あったのかしら?」

「はい、探しているものがあって。」

「へぇ! それって何かしら? この町には詳しいから

 何でも知ってるわよ!」

「それが…………わからないんです。」



そう、私が探しているもの。 それは何か目で見えるものではない。 私にもわからない。

だから、首を傾げた母親の反応はきっと普通のリアクション。



「それより、あのガラの悪い連中は?」

「あぁ……あいつらのこと…………。」



母親の顔に影がかかる。

気まずい雰囲気を変えようと質問をしたが、かえって暗い雰囲気を漂わせてしまった。また話を変えようとしたが、母親は静かに話し始めた。



「あいつらが来たのは、2年ほど前のことよ。

 突然現れて、私たちの大切なものを全部奪っていった。

 金も、食物も、プライドもね。」

「…………取り返しには行かないの?」

「行ったわ。 町の宝であった盃を持って行かれた時は、

 町の男たちで取り返しに行ったのだけど、結局返り討ちに

 されてしまった。」



………酷い話。

これが今この世界の抱える闇、犯罪ギルドが活気付き、罪のない人々を不幸にする。 有りがちな話ではあるが、実際の被害を目の当たりにするのはやはり辛い。

しかしそれよりも、私には気になったことがある。



「そ、その盃ってどんな盃なの?」

「それは素晴らしい物よ。 特に美的なデザインでも

 なければ、特に輝きもない。 なのに何故か観ていると

 暖かい気持ちになる、それがこの町の宝である盃よ。」



間違いない、それが私の探しているもの。

この町に来た時に違和感を感じた。 ソレが有るはずなのに、この町にはない。


即ち、ソレは盃に形を変えこの町から出て行ったのだ。


この時、私の頭の中に名案が浮かんだ。 この町を救い、自分の目的も成し遂げる事ができる、名案。 私は2人にその事を伝えた。




***




窓から朝日が差し込み、私を照らす。 睡眠を妨げられるのは嫌だけど、不思議とそこまで不快じゃない。 起き上がり支度をすると、鏡の前に立った。


鏡に映っていたのは一人の少女。


身長は160cmに満たないくらいだろうか、赤毛のボブに茶色の瞳が眠そうに閉じかけた瞼に半分隠れている。


少女の名は“アシュリー ”、私の名前。


私は椅子にかけていたローブを羽織ると、目深にフードを被り部屋を出た。



「姉ちゃん……もう出発すんのか?」

「うん、それじゃ。」

「それじゃ……って早えよ! もっと何かあんだろ!

 感動の別れみたいなやつが!」

「面倒くさ。」

「酷くね!? ていうか、姉ちゃん。」



私は昨晩、あのまま男の子の家に一泊させてもらった。 そして今、出発しようとしたら丁寧にお見送りまでしてくれた訳だけど、男の子は私を呼び止め、キョロキョロと辺りを見回した。



「姉ちゃん……仲間はどこにいんだ?」

「仲間? 私はひとりだから。」

「えぇ! 姉ちゃんってギルドに入ってんだろ!?」

「い、いや、入ってないけど。」

「嘘だろ! 姉ちゃんの実力ならギルドでも活躍

 できるだろ。 どうして入ってないんだ!?」



そう、私はひとり。 群れをなさない。

理由は簡単、私の目的に付き合う人なんて誰もいない。 共通の目的の人なんて聞いたことも見たこともない。 あと、ギルドにだけは入らない。


だってギルドって………。



「ギルドって………野蛮でしょ? 私、もう出るから。」

「や、野蛮なのか? あ、気をつけろよ! 帰り待ってる

 からな!」



姿が見えなくなるまで手を振る男の子。 私もそれに答え軽く手を振り、ゴロッカの町を後にした。



「男の子って元気だな…………名前聞いてなかったな。

 あの子、何て言うんだろ?」



まあ良いか。 私は必要以上に他人と接触しない。 情が映ると目的を進める妨げになりかねないから。

振り返ることなく、ギルドがアジトにしている根城へと足を運んだ。

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